農業者の減少・高齢化が加速するなか、国は農地を効率的な担い手に集積・集約化することを農業政策の柱に据えています。2023年4月に施行された改正農業経営基盤強化促進法では、各地域が10年後の農地利用の姿を「目標地図」として明確化する「地域計画」の策定が義務付けられ、2025年3月末を策定期限として全市町村が取り組んできました。

2025年4月に農林水産省が公表した最新の策定状況(速報値)によれば、全国1,613市町村・18,633地区で地域計画が策定され、策定予定数の9割超という一定の成果が見えています。しかし、その中身を地域別に分析すると、農地集積の「二極化」とも呼ぶべき深刻な実態が浮き彫りになります。

北海道や東北・北陸では進捗率が100%に到達し、目標地図カバー率(10年後の受け手が位置付けられた農地の割合)も70~87%と高水準を誇ります。一方、近畿では進捗率が70%台にとどまり、目標地図カバー率も全国平均67%を大きく下回る41%(中国地方)・50%(関東)という地域が存在します。つまり、将来の受け手が見つからない農地が全国でまだ約140万ha(約3割)に残っているのです。

この地域格差の根本にある構造的課題が、都市部・中山間地域における農地集積の壁です。以下では、その課題の実態を整理したうえで、壁を突破するための具体的な方策を提示します。

農地集積を阻む構造的課題

土地持ち非農家の増加という「見えない壁」

農林中金総合研究所の分析(2025年7月)では、都市部や中山間地域で農地集積が進まない最大の理由の一つとして、土地持ち非農家・不在地主の増加を挙げています。かつては農家であったが離農した世帯、あるいは農家から農地を相続したが自身は農業に従事しない世帯——これらが「土地持ち非農家」として農地を保有し続けるケースが急増しているのです。

徳島経済研究所の調査(2025年4月)によると、農地を「貸し出したい」と考える農家は多い一方で、実際の貸し借りが進まない最大の障壁として、「先祖代々の土地を見知らぬ人に貸すことへの抵抗感」と「農地を貸すと返ってこない」という思い込みが根強く残っていることが明らかになっています。特に、都市圏に転出した不在地主の場合、地元の農業委員会や農家との意思疎通が難しく、農地の貸し借りの調整が著しく困難になります。

農林業センサスを用いた統計分析でも、土地持ち非農家の所有面積割合が高い地域ほど農地流動化率が高い(強い正の相関:0.88)という結果が出ています。逆説的に聞こえますが、これは土地持ち非農家が多い地域では農地の出し手も多いことを意味しており、マッチング機能の強化次第で農地集積の余地が大きいことを示唆しています。

転用期待が妨げる農地の集積

都市部・準都市部において農地集積を阻む独自の課題が、農地転用期待の高まりです。農林中金総合研究所の報告書は、インフレ下での地価上昇局面において、農地所有者が「いずれ転用して売却できる」という期待を持つことで、農地の貸し出しや農地バンクへの登録を見送るケースが増えていると指摘しています。

地域計画策定の現場からも同様の声が聞かれます。徳島市内の協議の場では、「市街化区域内の農地が多く、農地中間管理事業の対象にならないため集積が進まない」「農地を売りたいためなかなか農地を貸してくれない」「農地を転用して不動産収入を得ている人が多い」といった意見が相次いでいます。

農林水産省の令和6年度農業白書によれば、令和6(2024)年の農地面積は前年比2万5千ha減少し427万haとなりました。農用地区域外の農地が転用や荒廃によって減少する一方、農用地区域内でも年平均0.8万haの減少が続いています。食料安全保障の根幹を支える農地の総量確保が喫緊の課題となっているにもかかわらず、都市的地域では転用圧力が依然として強く働いているのが現実です。

中山間地域固有の営農条件の不利

都市部とは対照的に、中山間地域では転用期待よりも「条件不利農地の増大」が農地集積の壁となっています。農林中金総合研究所の分析では、同じ50ha前後の水稲経営体でも、北海道岩見沢市では1筆あたり1.2haの農地を経営しているのに対し、岡山県津山市(中山間地域)では0.2haと6分の1以下に過ぎないことが示されています。

こうした小区画・急傾斜の農地では、規模拡大によるスケールメリットの発揮が難しく、大型機械の導入も困難です。徳島県の事例調査でも、「規模拡大に関して適した農地の確保が難しい(小さい、形が悪い、日当たりが悪い、水路や道の接続が悪い)」「点在した農地では規模のメリットを働かせられない」との声が、農業者ヒアリングで多数寄せられています。

さらに農林水産政策研究所の分析によれば、今後10~20年で特に中山間地域において、複数の集落が同時多発的に機能を維持できなくなる「総崩れ」的現象のリスクが格段に高まると警告されています。集落の総戸数が9戸以下になると集落機能が低下し、水路の泥上げや農道管理といった共同作業が停滞するためです。

担い手への集積には物理的な限界がある

農林中金総合研究所は、担い手への農地集積についての重要な指摘を行っています。2023年度末時点の担い手集積面積259万haは、2022年度末の圃場整備済面積289万haの9割近い水準に達しており、目標地図における10年後経営面積(284万ha)も圃場整備済面積とほぼ等しい水準です。つまり、区画整備済みなど条件の良い農地についてはほぼ集積が完了しつつある一方で、条件不利農地への集積拡大は容易ではないという現実があります。

今後の農地維持には、土地改良事業による営農条件の改善、ゾーニングの強化を含む多角的な対応が不可欠となっています。

農地集積の壁を突破する6つの方策

では、こうした構造的課題に対して、どのような方策が有効なのでしょうか。先進事例や政策研究から導き出された6つの方策を提示します。

方策①:地域計画の活用による合意形成の「見える化」

農地集積が進まない根本原因の一つは、地域内での情報共有と合意形成の不足です。2023年から全国展開されている「地域計画」の策定プロセスは、この課題を解決する有力な手段となり得ます。

地域計画は単なる行政計画ではなく、農業者・土地持ち非農家・農業委員会・行政・農協など地域の幅広い関係者が一堂に会して話し合い、10年後の農地利用の姿を「目標地図」として合意する「地域農業の将来設計図」です。農林水産省の地域計画策定マニュアル(ver.5.2)は、この協議の場を通じて、誰がどの農地を耕作するか、あるいはどの農地が将来的に利用できなくなるかを一筆ごとに明示することを求めています。

実際、徳島経済研究所の調査に協力した行政担当者からは、「計画に関する協議の場を設けることで、地域の状況をはっきりと把握でき、普段話をしない農家の意向を確認し距離を縮めることができた」との声が聞かれています。岩手県花巻市の湯本地区では、農地の賃料や耕作条件について話し合い、条件ごとの標準賃料を設定することで農地交換の円滑化と担い手の急なリタイアへの備えを整備した好事例があります。

地域計画の最大の価値は、策定した後も毎年見直し、協議を継続することにあります。一度作成して終わりではなく、地域農業の実情の変化に応じてブラッシュアップし続けることが、農地集積を着実に前進させる鍵となります。

方策②:行政主導による農地マッチング機能の強化

農地の出し手と受け手のマッチングが進まない最大の理由は、信頼のハードルです。農家は知らない人に農地を貸したがらず、農地バンクへの登録も「農地を取られる」という誤解から敬遠されがちです。この信頼の問題を解決するには、農地を監督する立場にある行政が前面に立つことが不可欠です。

静岡県静岡市は2024年8月、民間が所有する土地や空き家の利活用推進に特化した「一般財団法人静岡市土地等利活用推進公社」を設立しました。職員8名のうち6名が市からの派遣で、市から30億円の出資を受けるという行政主導の組織です。同公社は、農地所有者の意向確認から売買・貸借の仲介、需要開拓まで一貫して担い、「荒廃化する前に農地の貸借・売買をマッチングすること」を最優先の使命としています。

農地中間管理機構(農地バンク)の機能拡充も重要です。令和6年度農業白書によれば、2023年度の農地バンクの転貸面積は前年度から8,200ha増加し6万2千haとなりました。農地バンクは地域計画の目標地図に位置付けられた受け手へ農地を集積・集約化する中核機能を担っており、機構集積協力金の交付や出し手への固定資産税軽減といった支援措置とあわせて積極活用することが求められます。

方策③:農地情報の可視化とデジタル活用

農地集積を促進するためには、まず農地に関する情報を地域内外に広く開放することが必要です。農林水産省が農地法に基づいて運用している「eMAFF農地ナビ」は、現況地目・農振法区分・面積・遊休農地の有無等を地図上で農地ごとに表示するシステムです。農地を「借りたい」「買いたい」と希望する人々への情報提供ツールとして機能します。

しかし課題もあります。農業委員会の担当者が人手不足で他の係を兼任しているため情報の更新が追い付いていないケースや、独自のシステムを使っている農業委員会でサポートシステムへの情報登録が進んでいないケースが散見されます。農地情報の鮮度と正確性を保つための体制整備が急務です。

現場のヒアリングからは、「所有者ごとの年齢の色分けや農家同士の関係図、さらには相談事項を行政や支援機関と情報共有できるワンストップのマッチングシステムが整備されればなお良い」という具体的な改善提案も出ています。スマート農業と組み合わせた農地情報のデジタル化・一元管理は、農地集積の加速に大きな効果をもたらす可能性があります。

方策④:行政とキーパーソンの連携による合意形成

農地集積において行政の役割が重要であることは論を俟ちませんが、行政単独では限界があります。特に都市部や中山間地域では、農家ごとの「思い」が強く、地区での合意形成が難しい状況があります。

徳島経済研究所の分析では、官民連携の取り組みが成功するための要素として、①地域に民間のキーパーソン(有力者)がいること、②そのキーパーソンが地域の有力者とつながっていること、③行政担当者とキーパーソンの間で密な意思疎通が図られていること、④行政トップが取り組みにコミットしていること、が挙げられています。

徳島県神山町の「株式会社フードハブ・プロジェクト」の事例は、この成功条件を見事に体現しています。同社は2016年、町の地方創生総合戦略の実行にあたり、耕作放棄地対策のために役場とサテライトオフィス企業の共同出資で設立されました。役場が出資していることで農家からの信頼を得やすく、農地の借り受けに苦労しなかったといいます。さらに地元の有力農家の子息が代表を務め、父親が地域の農家から田植え・稲刈りを受託することで農地情報が自然に集まる仕組みが機能しています。

信頼関係に基づいた農地の貸し借りという地域固有の文化を尊重しながら、行政とキーパーソンが連携して合意形成を粘り強く進めることが、農地集積の壁を突破する現実的な方法です。

方策⑤:大規模農家の育成支援と多様なプレイヤーの確保

統計的な分析からも、農地集積の推進において大規模農家の役割が重要であることが示されています。47都道府県のデータを用いた回帰分析では、10ha以上の大規模農家の耕地面積割合が大きくなるほど耕作放棄地率が低下する傾向が確認されており(R²=0.45)、農地流動化率や土地持ち非農家の割合の改善よりも影響力が大きいという結果が出ています。

したがって、既存の大規模農業経営体の規模拡大を積極的に支援することが、農地集積の加速と耕作放棄地抑制に直結します。農林水産省の農業白書(令和5年度版)では、2030年までに担い手への農地集積率80%を目標として、農地バンクの活用や圃場整備の推進が進められています。

一方で、大規模化だけが解ではありません。特に中山間地域のように規模拡大に限界がある地域では、多様なプレイヤーの増加が農地の有効利用に貢献します。高知県南国市の「双日土佐農人株式会社」の事例では、上場企業の子会社が県の誘致と行政のサポートを受けてタマネギの大規模産地化に参入し、国営農地整備事業(526ha、総事業費210億円)と連動して地域農業の変革を牽引しています。

また、徳島県神山町のフードハブ・プロジェクトのように、新規就農者に優良な農地を優先的に割り当て、若いプレイヤーを育成する仕組みも注目に値します。同社では、大阪・奈良・福井・三重など西日本各地から多様なバックグラウンドを持つ新規就農希望者を誘致し、農地のマッチングと就農支援のハブ機能を担っています。

方策⑥:圃場整備と農振法の強化によるゾーニング

農地集積の実効性を高めるためには、農地の物理的な条件改善も不可欠です。条件不利農地では、どれだけ制度的な仕組みを整えても担い手が引き受けを躊躇するためです。

圃場整備(基盤整備) は農地の区画を大型化・整形化し、大型機械の導入やスマート農業技術の活用を可能にする最も効果的な手段です。農林水産省では、農地バンクが分散した農地をまとめて借り受けた場合に農業者の費用負担がない基盤整備を支援する措置を設けており、地域計画の目標地図と連動させながら計画的に圃場整備を進めることが求められます。

一方、都市的地域での農地確保には「ゾーニングの強化」が重要です。令和6(2024)年6月に成立した改正農振法は、農用地区域からの除外に係る都道府県の同意基準として都道府県の農地面積目標の達成に支障を及ぼさないことを規定し、国の関与に係る手続を整備するなど、農地の総量確保のための措置を強化しました。優良農地を農地として守り続けるための法的枠組みを活用することが、転用期待による農地離れへの歯止めとなります。

地域類型に応じたアプローチの差別化

農地集積の課題は一様ではなく、地域の特性に応じたアプローチが必要です。

都市的地域の場合

都市的地域では、市街化区域内農地や準都市部での転用期待が農地集積の最大の障壁です。農地中間管理事業の対象外となっている市街化区域の農地については、都市農業振興基本計画に基づく都市農業の活用(市民農園、観光農園等)や、農業以外の用途も含めたゾーニングの柔軟な見直しが求められます。

また、土地持ち非農家の多い都市的地域では、不在地主との連絡・意思疎通を効率化するデジタルツールの活用が有効です。農地ナビのさらなる情報充実と、農業委員・推進委員による能動的なアプローチを組み合わせることで、休眠状態にある農地情報を掘り起こすことができます。

中山間地域の場合

中山間地域では、集落の維持と農地保全を一体的に考える視点が不可欠です。農地を守ることは農業生産の維持だけでなく、水源涵養や景観保全といった農地の多面的機能を次世代に引き継ぐことでもあります。

多面的機能支払交付金や中山間地域等直接支払交付金を活用して農地管理に関わる農業者・地域住民を増やすとともに、集落営農の組織化や農地の粗放的利用(放牧等)も選択肢として検討すべきです。「儲かる農業」を目指した高付加価値作物への転換や六次産業化、農福連携など、多様なビジネスモデルの導入によって、農業を魅力ある選択肢として若い世代に提示することも重要な課題です。

おわりに:対話の継続こそが突破口

農地集積の壁は、制度や資金だけでは突き崩すことができません。その根底にあるのは、農地に対する農家の「思い」であり、地域コミュニティの歴史に根ざした信頼関係です。

農林水産省の農業白書(令和6年度版)は、「地域計画は一度策定して終わりではなく、市町村を始めとする関係機関や地域の農業者の話合いによる見直しを毎年行い、協議を進めていくことが重要」と強調しています。まさに、対話の継続こそが農地集積の壁を突破する最大の鍵なのです。

行政が主導し、地域のキーパーソンが協力して合意形成を粘り強く進め、農地情報を可視化してマッチング機能を高める——この取り組みの地道な積み重ねが、都市部・中山間地域という「農地集積の難地」を切り開く道筋となるでしょう。日本の農業と農地の未来を次世代に引き継ぐためにも、地域全体が「こちらの世界を綺麗にしてから次の世代へ」という意識で向き合うことが、今まさに問われています。


参考文献

  1. 農林水産省「農業経営基盤強化促進法のわかりやすい解説(第74号)」
    https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/attach/pdf/wakariyasu-74.pdf
  2. 農林中金総合研究所「地域計画策定状況にみる農地集積の課題」(内田多喜生)『農中総研 調査と情報』第109号、2025年7月
    https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/nri2507re3.pdf
  3. 日本総合研究所「農地集積・集約化に関する調査・分析」
    https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=107879
  4. 農林水産省「令和5年度 食料・農業・農村白書」第1部第4章第5節
    https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r5/r5_h/trend/part1/chap4/c4_5_00.html
  5. 農林水産省「令和6年度 食料・農業・農村白書」第1部第2章第2節「農地の確保と有効利用」
    https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r6/r6_h/trend/part1/chap3/c3_2_00.html
  6. 公益財団法人徳島経済研究所「農地の未来を守るために ~有効活用と耕作放棄地への対策~」(青木伸太郎)2025年4月
    https://www.teri.or.jp/mn/wp-content/uploads/2025/04/2025_114_nohchi.pdf
  7. 農林水産省「地域計画策定マニュアル(ver.5.2)」
    https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/chiikikeikaku_manual.pdf
  8. 農林水産省「地域計画の策定状況(令和7年3月末時点)に関するプレスリリース」2025年6月
    https://www.maff.go.jp/j/press/keiei/seisaku/250611.html
  9. 行政改革推進会議「農業・農村分野に関する行政レビュー資料」
    https://www.gyoukaku.go.jp/review/aki/R04/img/2_2_1_nousui.pdf
  10. 農業協同組合新聞「農地集積・地域計画に関する現場の動向」2023年6月
    https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2023/06/230627-67639.php