肥料価格の高騰、農地の地力低下、化学肥料依存からの脱却——これらの課題を同時に解決できる手法として、いま「緑肥と堆肥を組み合わせた土づくり」が改めて注目を集めています。

農林水産省の「みどりの食料システム戦略」では2050年までに化学肥料使用量を30%削減するという意欲的な目標を掲げており、その中心的な実現手段として緑肥・堆肥の活用が明示されています。しかも、こうした取組には国の実証支援事業・直接支払交付金が整備されており、農業経営者は経済的なリスクを抑えながら転換を進めることができます。

本記事では、最新の情報をもとに緑肥・堆肥の効果を整理し、活用できる支援制度の全体像をわかりやすくガイドします。

なぜいま「土づくり」が政策の中心に浮上したのか

農地への有機物投入は、かつて農業の基本として広く実践されていました。しかし戦後、化学肥料の普及とともにその慣行は急速に後退し、農耕地への堆肥投入量は長期にわたって減少傾向をたどっています。農研機構の「緑肥利用マニュアル」はその背景をこのように整理しています。

「化学肥料に偏重した施肥などによる土壌劣化などの問題が顕在化しており、土づくりへのニーズが高まっています。また、国際的には、肥料需要が高い状態が続くことが予想され、化学肥料の価格を下げるには限界があると言われています。」

出典:農研機構「緑肥利用マニュアル」(有機質資材コンソーシアム)

こうした状況を背景に、2021年5月、農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を策定しました。この戦略は食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現することを掲げており、その数値目標には以下の内容が明記されています。

みどりの食料システム戦略 主要KPI(2050年目標)

  • 化学肥料の使用量を30%低減(輸入原料・化石燃料由来)
  • 化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減
  • 耕地面積に占める有機農業の割合を25%(約100万ha)に拡大

出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略」(2021年5月)

さらに2024年には食料・農業・農村基本法が改正され、「環境と調和のとれた食料システムの確立」が基本理念として法律に明記されました。これにより、緑肥・堆肥を用いた土づくりは単なる農業技術の話ではなく、法的な根拠を持つ国家政策の一部となっています。

令和6年9月に公表されたKPI進捗状況によると、化学肥料使用量は基準値(2016年前後3か年平均)と比較して削減傾向にあるものの、2050年の30%削減目標の達成には土壌診断に基づく適正施肥、堆肥・緑肥等の国内資源の利用拡大のさらなる推進が不可欠とされています。

緑肥とは何か:種類・特徴・選び方

緑肥とは、栽培している植物を収穫せずにそのまま田畑にすき込み、次の作物の肥料(有機物)とすること、またはそのための植物のことをいいます。自給肥料として古くから広く栽培されてきましたが、化学肥料の普及とともに利用が減少した経緯があります。

農研機構「緑肥利用マニュアル」では、現在イネ科・マメ科・キク科・アブラナ科など多くの植物の種子が緑肥種子として販売されていることが紹介されています。中でも現場での活用頻度が高いのがイネ科とマメ科の2グループです。

イネ科とマメ科:目的に応じた使い分け

項目イネ科緑肥マメ科緑肥
代表品種ソルガム、エンバク、ライムギヘアリーベッチ、クロタラリア
主な効果有機物蓄積・土壌物理性改善
下層土改善(根の貫入)
空中窒素固定・肥料効果
有害線虫抑制
分解速度生育が進むほど遅くなる
(土づくり向き)
分解が速い
(減肥効果が出やすい)
豊富な養分カリウム(カリ)窒素
向いている用途長期的な土壌改善・有機物補給化学肥料(窒素)の代替・削減

出典:農研機構「緑肥利用マニュアル」をもとに作成

堆肥と比べた緑肥の優位性

農研機構のマニュアルでは、緑肥が堆肥と比較したときの最大の優位性として「輸送コストと施用労力の面での有利さ」を挙げています。堆肥は家畜排せつ物などの発生場所が田畑から離れていることが多く、輸送コストがかかります。また、重くかさばる性質のため散布に大きな労力が必要です。

一方、緑肥はほ場で種をまき、生育させて、そのまますき込むというシンプルなサイクルで完結します。農家の高齢化が進む中でこの労力差は非常に大きく、特に大規模経営や人手の限られた農業法人にとって現実的な選択肢となります。

混播(こんぱん):イネ科とマメ科の組み合わせ

農研機構マニュアルで紹介されている応用技術が「混播」です。イネ科(カリが豊富)とマメ科(窒素が豊富)を組み合わせて播種することで、土壌への養分バランスが安定し、持続的な化学肥料代替効果が期待できます。また、混播した緑肥の窒素無機化特性と炭素残存率のデータも蓄積されており、精度の高い減肥設計が可能になっています。

最新研究が示す定量効果:堆肥何トン分に相当するか

緑肥の効果を「感覚」ではなく「数値」で把握できるようになったのは、農林水産省委託の大規模な実証研究(2015〜2019年度)の成果によるところが大きいです。そして2025年3月には、その成果を包括的に整理した農研機構の査読論文「緑肥の土壌改善機能と化学肥料代替効果」がJ-STAGEに公表され、土壌管理研究の最新到達点が示されました。

緑肥がもたらす4つの土壌改善機能

① 有機物蓄積(作土改善)
すき込まれた有機物が土壌に蓄積し、保水性・通気性・保肥力を向上させます。分解されにくい成分は土壌有機炭素として長期間土壌中に留まります。

② カバークロップ効果(侵食防止)
地表を被覆することで風雨による土壌流亡を防ぎます。裸地を減らすことは土壌構造の保護と病害虫の発生抑制にも寄与します。

③ 土壌生物性の改善
有機物の投入により、菌根菌・リン溶解菌などの有用微生物が増加します。これが次作物のリン酸吸収を助け、リン肥料の削減にもつながります。

④ 下層土の物理性改善
エンバクなど根系が発達する品種は、下層土深くまで根が貫入します。根が枯れた後の穴(バイオポア)が通水性・通気性を高め、次作物の根張りを改善します。

養分供給メカニズム:何をどれだけ減らせるか

農研機構のマニュアルおよびJ-STAGE論文では、緑肥が主作物に養分を供給するメカニズムを以下のように整理しています。

養分の種類主なメカニズム特に効果的な緑肥
窒素(N)マメ科の根粒菌が大気中のN₂を固定し、すき込み後に無機化して供給ヘアリーベッチ、クロタラリア
カリウム(K)前作が吸収した養分と下層に流出したカリを回収し、すき込みで還元ソルガム、エンバク、ライムギ
リン(P)緑肥の導入で増える菌根菌・リン溶解菌が次作物のリン吸収を促進全般(特に根圏微生物活性化に効果的な品種)

出典:唐澤ほか「緑肥の土壌改善機能と化学肥料代替効果」農研機構研究報告(J-STAGE, 2025年3月)、農研機構「緑肥利用マニュアル」をもとに作成

効果に影響する3つの要因

緑肥の効果の大小に影響する要因として以下の3点が挙げられます。圃場への導入計画を立てる際に必ず押さえておくべきポイントです。

  1. 作物種(緑肥の選択):イネ科かマメ科か、また同じ科でも品種によって有機物の分解性・養分含量が大きく異なります。
  2. すき込み時の生育ステージ:生育初期にすき込むほど分解が速く肥料効果が高まります。逆に生育が進むほど分解が遅くなり、土づくり効果(有機物蓄積)が優位になります。
  3. 後作物の播種までの期間(腐熟期間):すき込みから播種まで十分な期間を確保しないと、ガス害や窒素飢餓が起こることがあります。腐熟期間の設定が減肥の精度を大きく左右します。

堆肥の新しい姿:混合堆肥複合肥料という選択肢

「堆肥は重くて、臭くて、まきにくい」——こうした現場のイメージを根本から変えるのが、農研機構が開発を主導した「混合堆肥複合肥料」です。農研機構「混合堆肥複合肥料の製造とその利用 技術マニュアル」では、この新形態の堆肥について詳しく解説されています。

混合堆肥複合肥料とは

混合堆肥複合肥料とは、家畜ふん堆肥を肥料の原料として活用し、化成肥料と同様に成分を保証した造粒肥料のことです。通常の堆肥と化成肥料の「いいとこどり」をした製品と言えます。

特性通常の堆肥化成肥料混合堆肥複合肥料
成分の保証△(ばらつき大)◎(保証値あり)
土壌有機物供給○(堆肥由来有機物含有)
散布のしやすさ△(重くかさばる)◎(ブロードキャスター対応)
輸送コスト△(高い)○(高密度で軽量化)
化学肥料代替○(部分的)✕(化学肥料そのもの)◎(設計で削減量を制御)

出典:農研機構「混合堆肥複合肥料の製造とその利用 技術マニュアル」をもとに作成

土壌有機物供給効果のポイント

農研機構マニュアルでは、混合堆肥複合肥料に含まれる堆肥由来有機物が土壌有機物を供給する効果を詳述しています。有機物の一部は分解されにくい成分として土壌中に長期間残り、土壌の物理性・生物性の改善に継続的に貢献します。これは単なる速効性肥料では得られない、堆肥ならではの価値です。

造粒処理によって肥効が高まる効果(養分の緩やかな溶出)も報告されており、速効性と緩効性のバランスが取れた施肥管理が可能になります。農業法人が大規模で効率的に施肥を行う場合、この製品特性は非常に合理的です。

支援制度の全体像:使える交付金・事業を整理する

緑肥・堆肥を活用した土づくりには、複数の国の支援制度が組み合わさって機能しています。それぞれの制度の性格と対象を正確に把握することが、支援を最大限に活用するための第一歩です。

① 環境保全型農業直接支払交付金(メインの入口)

農水省が実施するこの制度は、化学肥料・化学合成農薬を慣行レベルから原則5割以上低減する取組を前提に、緑肥施用・堆肥施用などの環境負荷低減活動に交付金を支払うものです。令和7年(2025年)度より第3期(2025〜2029年度)がスタートしています。

取組類型交付単価(10a当たり)主な要件
緑肥の施用
(カバークロップ等)
8,000円化学肥料・農薬5割低減との組合せ。
ヒエは7,000円
堆肥の施用3,600円化学肥料・農薬5割低減との組合せ
有機農業
(通常)
14,000円化学肥料・農薬を使用しない取組
有機農業
+炭素貯留加算
16,000円土壌診断実施+堆肥の施用・緑肥の施用・炭の投入のいずれか1つ以上を実施
総合防除(IPM)4,000円県のIPM実践指標6割以上を達成

出典:農林水産省「環境保全型農業直接支払交付金について」(令和7年8月)をもとに作成。負担割合:国1/2、都道府県1/4、市町村1/4

申請対象者について
原則として農業者の組織する団体(2戸以上)が対象です。ただし「集落の耕地面積の概ね1/2以上で取り組む農業者」や「複数の農業者で構成される法人」などの要件を満たす場合は、個人・法人単独での申請も可能です。まず農地のある市町村の担当窓口にご確認ください。

② みどりの食料システム法認定のメリット

「みどりの食料システム法(みどり法)」は2022年7月に施行され、環境負荷低減の取組計画を都道府県・市町村が認定する制度です。令和6年7月末時点で46道府県で17,000名以上が認定を取得しています。

認定を受けることで得られる主なメリットは以下のとおりです。

  • 税制特例(みどり投資促進税制):環境負荷低減に資する農業機械・施設の導入に係る税制優遇
  • 補助事業の優先採択:各種補助金申請時に優先的に採択されやすくなる
  • 行政手続のワンストップ化:農地転用許可など一部手続きの簡素化(モデル地区)

③ 国内肥料資源利用拡大対策事業(堆肥の流通支援)

堆肥の生産・流通・利用拡大を総合的に支援する農水省の事業です。具体的には、耕種農家による国内資源由来肥料の栽培実証や散布機械の導入への支援が含まれます。ペレット堆肥の広域流通に向けた取組なども支援対象となっており、農業法人が大規模に堆肥を活用する場合の機械化コスト低減に活用できます。

④ 2027年度創設予定:新たな環境直接支払交付金

令和7年4月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画では、2027年度を目標に現行の環境保全型農業直接支払を見直した新制度を創設する方針が示されています。新制度ではみどり法認定を受けた農業者が先進的な環境負荷低減の取組を行う場合に、導入リスク等に応じたより手厚い支援が検討されています。今から取組実績を積み上げることが、新制度への移行をスムーズにする最善の準備です。

取組の始め方:ステップで押さえる実践フロー

支援制度の活用と技術導入を並行して進めるには、段階的なアプローチが有効です。以下のステップを参考に、自農場の状況に合わせてカスタマイズしてください。

①土壌診断の実施
現状の有機物量(腐植含量)・養分バランス・pH などを把握します。「何が不足しているか」を数値で確認することが、緑肥・堆肥の種類と量の選定精度を高めます。地域のJA・農業改良普及センターに依頼するのが最短ルートです。また、みどり法の認定を取得した農業者は土壌診断が要件に含まれるため、早期に実施しておくと後の手続きがスムーズです。

②目的に合った緑肥・堆肥の選択
「土づくりを優先したい(有機物蓄積)」→ イネ科緑肥(ソルガム・エンバクなど)。「窒素肥料を減らしたい(減肥)」→ マメ科緑肥(ヘアリーベッチ・クロタラリアなど)。「省力で堆肥も活用したい」→ 混合堆肥複合肥料の導入を検討。次作物との組合せを考え、病害虫が増えない品種を選ぶことも重要です。農研機構「緑肥利用マニュアル」の導入事例一覧が参考になります。

③みどり法の認定計画を作成・申請
都道府県・市町村に「環境負荷低減事業活動実施計画」を提出し、認定を受けます。認定取得により税制特例・補助事業の優先採択が受けられるようになります。申請の際は都道府県農政担当課に相談するのが確実です。

④環境保全型農業直接支払交付金を申請
農業者団体を組織するか、単独要件を確認の上、農地のある市町村の担当窓口に申請します。申請時期は各年度の春先(市町村によって異なる)が多いため、前年度中から準備を始めることが重要です。また、環境負荷低減のチェックシートへの記入が令和6年度から必須要件となっています

⑤実証・記録・効果測定
化学肥料削減量・収量変化・土壌有機物量の推移を記録します。この記録は翌年の改善に活用できるだけでなく、2027年度創設予定の新環境直接支払交付金への申請根拠にもなります。農研機構マニュアルに従い、緑肥のすき込み量・時期・腐熟期間も記録しておくと、精度の高い減肥設計に役立ちます。

地域特認取組も見逃さずに

環境保全型農業直接支払交付金には、都道府県が地域の実情に応じて設定する「地域特認取組」もあります。リビングマルチ(主作物の畝間に緑肥を作付け)や草生栽培(果樹・茶の園地に緑肥を作付け)など、地域特有の取組が多数設定されています。お住まいの都道府県の農政担当課に問い合わせ、自分の作物・栽培体系に合った取組を探してみましょう。

まとめ

この記事のポイント整理

  • みどりの食料システム戦略が化学肥料30%削減を国家目標として掲げ、緑肥・堆肥の活用が中心的手段となっている
  • イネ科緑肥は土づくり(有機物蓄積・下層土改善)に、マメ科緑肥は減肥(窒素固定)に優れ、混播でさらに効果が高まる
  • 混合堆肥複合肥料は堆肥と化成肥料の長所を組み合わせた新形態で、省力・安定施肥を実現する
  • 環境保全型農業直接支払交付金(緑肥施用:10a当たり8,000円、有機農業+炭素貯留加算:16,000円など)で経済的に取組をサポートできる
  • 2027年度の新環境直接支払交付金創設を見据え、今から実績を積み上げることが最善の準備

かつて「土づくりにかかるコスト」と見られていた緑肥・堆肥の施用は、今や肥料費削減・交付金収入・土壌炭素貯留(Jクレジット化の可能性)という三重のリターンをもたらす農業経営戦略として評価されつつあります。

農業経営の安定化と持続可能性の両立を目指す農業法人・経営体にとって、今こそ土づくりへの取組を本格化させる好機です。まずは地域のJA・農業改良普及センター・都道府県農政担当課に相談し、土壌診断と支援申請の第一歩を踏み出してみてください。


参考文献

  1. 農林水産省「みどりの食料システム戦略〜食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現〜」(2021年5月)
    https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/index-10.pdf
  2. 環境省「みどりの食料システム戦略に基づく取組の進捗状況」資料1-2(2024年9月)
    https://www.env.go.jp/content/000253080.pdf
  3. 農林水産省「環境保全型農業直接支払交付金について」(令和7年8月)
    https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/kakyou_chokubarai/attach/pdf/mainp-1761.pdf
  4. 農研機構 有機質資材コンソーシアム「混合堆肥複合肥料の製造とその利用〜家畜ふん堆肥の肥料原料化の促進〜技術マニュアル」
    https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/kongotaihi_manual.pdf
  5. 農研機構 有機質資材コンソーシアム「緑肥利用マニュアル〜土づくりと減肥を目指して〜」(農林水産省委託プロジェクト研究成果, 2015〜2019年度)
    https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/ryokuhi_manual_carc20221007.pdf
  6. 唐澤敏彦ほか「緑肥の土壌改善機能と化学肥料代替効果」農研機構研究報告(J-STAGE公開, 2025年3月1日)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/naroj/2025/20/2025_21/_html/-char/ja