農地

農地に関わる仕事をしていると、「農振法」という言葉に必ず突き当たります。不動産開発、農業参入、土地活用――いずれの場面でも、この法律を正しく理解しているかどうかが、事業の成否を分けるといっても過言ではありません。

しかし実際のところ、農振法と農地法の違いを正確に説明できる方はどれほどいるでしょうか。「青地」「白地」の区別、農用地区域からの除外手続きの実態、そして令和6年の大改正で何が変わったのか。体系的に整理された情報は意外と少ないのが現状です。

令和6年(2024年)、25年ぶりとなる食料・農業・農村基本法の改正と連動し、農振法も大幅に改正されました。改正法は令和7年4月1日に施行され、農地の総量確保に向けた国の関与が格段に強化されています。農振法の制度全体像から令和6年改正の内容まで、実務に役立つ形で解説していきます。

1:農振法の基本──何のための法律か

1-1. 法律の正式名称と目的

農振法の正式名称は「農業振興地域の整備に関する法律」(昭和44年法律第58号)です。

この法律は、農業の振興を図ることが必要と認められる地域について、その整備に関する施策を計画的に推進するための措置を定めています。具体的な目的は以下の通りです。

  • 農業生産に必要な農用地等の確保
  • 農業の健全な発展
  • 国民に対する食料の安定供給の確保
  • 国土資源の合理的な利用への寄与

注目すべきは、3番目と4番目の「食料の安定供給の確保」と「農用地等の確保」は、令和6年の改正で新たに目的規定に明記されたという点です。従来は暗黙の前提だったものが、法律の条文上も明確に位置づけられたことになります。

1-2. 農振法と農地法の違い

農地に関する規制というと「農地法」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、農振法と農地法はまったく異なる角度から農地を守る制度です。

比較項目農振法農地法
規制の手法面(ゾーニング)で守る点(個別の転用許可)で守る
対象農業振興地域全体の土地利用計画個々の農地の転用・権利移動
核心的な機能農用地区域の設定・除外転用許可・不許可の判断
所管の階層国→都道府県→市町村の三層構造農業委員会→都道府県知事(4ha超は大臣)

つまり、農振法が「どのエリアを農業用途に保全するか」という面的なゾーニングを担い、農地法が「個別の農地を転用してよいか」という判断を担うという二段構えの関係になっています。農用地区域内の農地を転用するためには、まず農振法上の除外手続きを経たうえで、さらに農地法の転用許可を得なければなりません。

1-3. なぜ農振法が重要なのか──農地減少の現実

農振法の重要性を理解するには、日本の農地面積がどれほどのペースで減少しているかを知る必要があります。

指標数値出典
全国耕地面積(令和6年)427万2,000ha(前年比▲2万5,000ha)農水省「令和6年耕地面積」
農用地区域内農地面積(令和6年末)395.38万ha(前年比▲1.32万ha)農水省プレスリリース
新たな基本指針の面積目標(令和17年)390万ha農水省「基本指針」
令和5年末の農用地区域内農地面積396.7万ha農水省プレスリリース

注目すべきポイントは2つあります。

第一に、農地全体の減少ペースに比べ、農用地区域内農地の減少ペースは緩やかだということです。農地全体は年間約2.5万haのペースで減少していますが、農用地区域内はそれよりも抑えられています。これは農振法によるゾーニング規制が一定の効果を発揮していることを示しています。

第二に、それでも面積目標を下回りつつあるという厳しい現実です。令和5年末時点で旧目標(令和12年397万ha)を下回り、令和6年末にはさらに減少して395.38万haとなりました。この危機感こそが、令和6年の大改正を後押しした最大の要因です。

2:農振法の仕組み──国→都道府県→市町村の三層構造

2-1. 制度の階層構造

農振法の制度設計は、国・都道府県・市町村の三層構造で成り立っています。上位の方針に基づいて下位の計画が策定される、いわばカスケード(段階的浸透)型の構造です。

階層策定主体策定するもの主な内容
第1層国(農林水産大臣)農用地等の確保等に関する基本指針全国の面積目標、農用地確保の基本方向
第2層都道府県知事農業振興地域整備基本方針都道府県の面積目標、農業振興地域の指定
第3層市町村農業振興地域整備計画農用地利用計画(農用地区域の設定)ほか

具体的な流れとしては、まず国が基本指針で面積目標と基本的な方向性を示します。次に都道府県知事が基本方針を定めて農業振興地域を指定します。最後に市町村が整備計画を策定し、その中で農用地区域を設定するという段取りです。

基本指針の策定にあたっては、食料・農業・農村政策審議会の意見聴取や、都道府県知事等との協議が必要とされています。令和6年改正では、この協議を「国と地方の協議の場」として制度化し、基本指針の策定プロセスにおける地方の関与がより明確になりました。

2-2. 農用地区域(青地)と農振白地の違い

農業振興地域の中は、さらに2つの区域に分かれます。ここが農振法を理解するうえで最も重要なポイントです。

区分通称転用の可否特徴
農用地区域青地原則禁止(除外手続きが必要)生産性の高い優良農地。国の補助事業等の対象。
農用地区域外白地農地法の転用許可で対応農振地域内だが青地に指定されていない農地。

青地(農用地区域)に含まれる土地は、市町村の農業振興地域整備計画で定められます。具体的には以下のような土地が農用地区域に指定されます。

  • 集団的に存在する農用地で10ha以上のもの
  • 土地改良事業(区画整理、用排水路整備等)の施行区域内の土地
  • 上記の保全・利用に必要な施設用地(農道、水路等)
  • 2ha以上の農業用施設用地、または上記に隣接する施設用地
  • 地域計画の達成に必要な土地(令和6年改正で追加

最後の項目は令和6年改正による新設規定です。農業経営基盤強化促進法に基づく地域計画の達成に必要な土地が、農用地区域に定めるべき土地として追加されました。これにより、地域計画と農振制度の連動が強化されています。

2-3. 農用地区域内の規制と恩恵

農用地区域(青地)内の土地には、厳しい規制が課される一方で、手厚い支援措置も用意されています。いわば「保護と投資のセット」です。

【規制面】

  • 農用地利用計画で指定された用途以外への転用は原則禁止
  • 宅地造成・土石採取・建築物の新築等の開発行為には都道府県知事の許可が必要
  • 用途変更目的での売買・賃貸借は指定用途以外認められない

【支援面】

  • 国の直轄・補助事業および融資事業による農業生産基盤整備事業等は原則として農用地区域が対象
  • 農地の集団化のための交換分合
  • 税制優遇措置の適用

つまり、農用地区域に指定されることは、転用の自由度を制限される代わりに、農業振興のための公共投資が集中的に行われるという意味でもあるのです。

3:農用地区域からの除外(農振除外)

3-1. 除外が認められるための要件

農用地区域内の農地をどうしても農業以外の目的で使いたい場合、まず農用地区域からの除外(農振除外)の手続きが必要になります。ただし、この除外は「申請すれば通る」という性質のものではありません。

農振法第13条第2項に定められたすべての要件を満たす場合にのみ、除外が認められます。具体的な要件は以下の通りです。

要件番号内容ポイント
1号農用地区域以外の土地で代替できないこと代替性の否定が必要(他に土地がないことの立証)
2号農用地の集団性・農業上の効率的利用に支障がないこと周辺農地への影響が問われる
3号農用地区域内の土地改良施設の機能に支障がないこと用排水路等への影響がないこと
4号担い手への農地集積に支障がないこと効率的かつ安定的な経営体への影響
5号(新設)都道府県面積目標の達成に支障がないこと令和6年改正で追加された要件
6号農業基盤整備事業完了後8年を経過していること公共投資の回収期間の確保

5号の要件は令和6年改正で新たに追加されたもので、都道府県の面積目標への影響が除外の判断基準に加わった点が大きな変化です。詳しくは第4章で解説します。

3-2. 除外手続きの流れと所要期間

農振除外の手続きは、以下のステップで進みます。

ステップ内容備考
申出者が市町村に除外の申出受付時期が年1〜2回に限定されている市町村が多い
市町村が事業計画を審査し、除外の可否を判断除外要件への適合性を確認
農用地利用計画の変更案を作成必要に応じて都道府県と事前調整
変更案の公告・縦覧(おおむね30日間)関係権利者の意向反映
異議申出期間(15日間)利害関係者からの異議受付
都道府県知事への協議・同意改正後は面積目標との整合も審査対象
農用地利用計画の変更を公告除外完了→農地法の転用許可申請へ

実務上、この手続きには半年から1年以上かかるのが通常です。特に受付時期が限られている市町村では、タイミングを逃すとさらに半年以上の遅延が生じます。農地転用を伴う事業計画を立てる際は、農振除外の所要期間を事業スケジュールの最初に織り込むことが不可欠です。

また、農振除外が完了してもそれだけでは転用できません。除外により農用地区域外(白地)となった農地について、改めて農地法に基づく転用許可を得る必要があります。

3-3. 改正で除外はさらに厳しくなった

令和6年改正により、農振除外のハードルは確実に上がりました。最大の変化は、都道府県の同意基準に面積目標の達成への影響評価が追加されたことです。

具体的には、除外が都道府県の面積目標に影響を及ぼすおそれがある場合、市町村は「影響緩和措置」を講じなければなりません。影響緩和措置とは、除外による農地減少を相殺するために行う以下のような対応です。

  • 遊休農地の解消
  • 農用地区域への農地の新たな編入
  • 荒廃農地の再生

影響緩和措置が必要となるケースは、年間の除外による農地減少面積が一般転用年間許容量を超過した場合、または農用地区域内の全体農地面積が都道府県の面積目標を下回ることが判明した場合のいずれかです。

この改正により、農用地区域内農地面積が目標を下回っている都道府県では、除外が事実上非常に困難になることが予想されます。

4:令和6年改正の全体像──なぜ今、農振法が変わったのか

4-1. 改正の背景

令和6年の農振法改正は、単独で行われたものではありません。食料・農業・農村基本法の25年ぶりの改正を頂点とする、農政の大転換の一環です。

令和6年5月29日に改正基本法が成立し、同年6月5日に公布・施行されました。改正の3つの柱は「食料安全保障の抜本的な強化」「環境と調和のとれた産業への転換」「人口減少下における生産水準の維持・発展と地域コミュニティの維持」です。

この改正基本法と連動して、以下の関連3法が同時に成立しました。

法律名主な内容
農振法等改正法農地の総量確保、除外要件の厳格化、国の関与強化
食料供給困難事態対策法食料危機時の供給確保措置
スマート農業技術活用促進法スマート農業の導入促進

農振法等改正法は令和6年6月21日に公布され、令和7年4月1日に施行されています。

4-2. 改正の6つの柱

今回の農振法改正の内容を、6つの柱に整理して解説します。

【柱①】目的規定の拡充

従来の目的規定に、「農業生産に必要な農用地等の確保」を図ること、および「国民に対する食料の安定供給の確保」に寄与することが追加されました。農地確保と食料安全保障が法律の目的として正面から明記された形です。

【柱②】国および地方公共団体の責務規定の新設

新たに第1条の2として、国と地方公共団体がそれぞれの立場から農用地等の確保に努めなければならないとする責務規定が設けられました。これまで努力義務すら明文化されていなかった農地確保が、法的な責務として位置づけられた意義は大きいです。

【柱③】面積目標の対象を「農用地区域内の農用地」に明確化

基本指針および基本方針における面積目標の対象が、「農用地区域内の農用地」に限定して明確化されました。これにより、面積目標の達成状況がより厳密に管理されることになります。

【柱④】除外に係る都道府県の同意基準の追加と国の関与強化

前章で解説した通り、除外の同意基準に面積目標の達成への影響評価が追加され、影響緩和措置の仕組みが導入されました。また、基本指針の策定にあたっての「国と地方の協議の場」の設置など、国の関与が制度的に強化されています。

【柱⑤】農用地区域に定めるべき土地の追加

農業経営基盤強化促進法に基づく地域計画の達成に必要な土地が、農用地区域に定めるべき土地として追加されました。地域計画と農振制度が直接連動する仕組みが法的に明確化されたことで、計画に基づく農地の囲い込みがより強固になります。

【柱⑥】違反転用への対応強化

農地法の改正とあわせて、以下の措置が講じられました。

  • 農地転用の許可を受けた者に対する定期報告の義務化
  • 違反転用に対する原状回復命令に従わない者の公表制度の創設(農地法第51条第3項)
  • 不適切な営農型太陽光発電施設について、再許可時に許可しないことを明確化

これらの改正の全体像をまとめると、以下のようになります。

改正の柱方向性キーワード
①目的規定の拡充理念の強化食料安全保障・農地確保の明記
②責務規定の新設主体の明確化国・地方公共団体の法的責務
③面積目標の明確化管理の厳格化農用地区域内に限定明記
④除外要件・国の関与強化除外の厳格化影響緩和措置・協議の場
⑤編入対象の追加保全の強化地域計画との連動
⑥違反転用への対応執行の強化定期報告・公表制度

4-3. 基本指針の変更と「国と地方の協議」

改正法の施行を受けて、令和7年に入り新たな基本指針の策定作業が進められました。

新たな基本指針では、令和17年時点で確保される農用地区域内の農地面積の目標が390万haと設定されています。

注目すべきは、基本指針の策定プロセスです。改正法に基づき「国と地方の協議の場」が設けられ、令和7年4月から6月にかけて農林水産省と全国知事会・全国市長会・全国町村会との間で複数回の協議(往復文書)が行われました。農水省のホームページには、この協議の経過文書がすべて公開されており、国と地方がどのような論点で議論を交わしたかを追うことができます。

この基本指針に基づき、各都道府県は今後、自県の面積目標を設定し、市町村の農振計画運用に反映させていくことになります。

5:改正が実務にもたらすインパクト

5-1. 農振除外のハードルはどう変わるか

実務への影響として最も大きいのは、農振除外の難易度が上がったことです。

影響緩和措置の導入により、農用地区域内農地面積が目標水準に近い、あるいは下回っている都道府県では、除外のたびに「代わりにどこの農地を編入するのか」「遊休農地をどれだけ解消するのか」という具体的な相殺策が求められます。

現状、令和6年末時点の農用地区域内農地面積は395.38万haです。令和17年目標の390万haとの差は約5万haですが、年間1万ha以上のペースで減少していることを考えると、数年以内に目標との余裕がなくなる都道府県が続出する可能性があります。

また、国の関与が強化されたことで、自治体間の運用のばらつきが是正される方向に向かうと考えられます。従来は市町村や都道府県によって除外の運用に温度差がありましたが、面積目標という統一的な基準が導入されたことで、全国的に一定の水準が求められるようになるでしょう。

5-2. 農地所有適格法人の要件緩和との関係

農振法改正と同時に成立した農業経営基盤強化促進法の改正では、農地所有適格法人の議決権要件の特例が新設されました。これが「農業経営発展計画制度」です。

この制度のもとでは、認定農業者としての実績がある農地所有適格法人が、取引実績のある食品事業者等と出資による連携で農業経営の発展に取り組む場合、農林水産大臣の計画認定を受けることで食品事業者等から最大3分の2未満まで出資を受けることが可能になります。

従来は農業関係者が議決権の過半を占める必要がありましたが、認定を受ければ農業関係者は3分の1超で足り、農地の権利移転等の重要事項については拒否権付株式等で農業関係者の拒否権を確保するという設計です。

つまり今回の改正は、農振法の「守り」の強化と、農地所有適格法人の「攻め」の拡大が表裏一体の政策パッケージになっているのです。農地を守りながら、農業経営の担い手を多様化・強化するという、両面からのアプローチだと理解できます。

5-3. 農業参入を検討する企業が注意すべきポイント

不動産・建設・食品等の異業種から農業セクターへの参入を検討する場合、農振法上の制約を正しく理解することは不可欠です。以下のポイントを押さえておきましょう。

第一に、農用地区域内では農業用途以外の利用が原則としてできません。ハウス園芸や植物工場など施設型農業であっても、農用地区域内で行う場合は農用地利用計画上の用途区分の確認が必要です。農業用施設(農業用倉庫、畜舎、温室等)として用途区分の変更を行うケースもありますが、販売施設や加工施設を併設する場合は要件充足状況の報告が求められます。

第二に、一般企業の農業参入はリース方式が基本です。農地の所有は農地所有適格法人に限られており、異業種企業がいきなり農地を購入することはできません。農地中間管理機構(農地バンク)を通じた借受が現実的な選択肢となります。

第三に、農振除外を前提とした開発計画は非常にリスクが高いということです。改正により除外のハードルが確実に上がっている以上、農用地区域内の農地を非農業用途に転換することを事業計画の前提に置くべきではありません。むしろ、農用地区域内であれば農業を軸にした事業モデル(次世代型ハウス園芸、6次産業化等)を構築し、そのうえで農業関連施設としての用途区分変更を検討するのが現実的です。

まとめ

本記事で解説してきた内容を整理します。

農振法は「農地を守るゾーニング法」であり、農地法の転用規制と車の両輪をなす制度です。国→都道府県→市町村の三層構造のもと、農用地区域(青地)を設定して優良農地を保全し、その中に公共投資を集中させる仕組みになっています。

令和6年改正では、食料安全保障の強化を背景に、農地の総量確保に向けた国の関与が格段に強化されました。目的規定への食料安全保障の明記、国・地方公共団体の責務規定の新設、面積目標の管理厳格化、除外時の影響緩和措置の導入、違反転用への対応強化など、あらゆる面で「農地を減らさない」方向への制度設計が進んでいます。

一方で、農地所有適格法人の要件緩和(農業経営発展計画制度)など、「農業を発展させる側」の制度整備も同時に進んでいます。今後は「守りながら攻める」農地制度の中で、農業の成長戦略をどう描くかが問われる時代です。

農振法は、農業に関わるすべての人にとって避けて通れない法律です。本記事が、制度の全体像と最新の改正動向を把握するための一助となれば幸いです。

参考文献

【農林水産省 】

【改正法の審議会資料・立法資料】

【農用地区域面積データ】

【食料・農業・農村白書】

【上位法・関連法】

【法令原文】