農業はプラスチックなしでは成り立ちません。ハウスの被覆フィルム、畝を覆うマルチ、育苗ポット、プラスチックで肥料をコーティングした被覆肥料――これらは生産性向上と省力化を支えてきた立役者です。しかし一方で、使用後の「廃プラスチック」をどう処理し、どう資源として循環させるかは、農業分野が抱える大きな環境課題となっています。国際社会でプラスチック汚染条約の交渉が進むなか、日本農業の廃プラ問題の現状と、持続可能な利用への転換策を整理します。
第1章 農業用廃プラとは何か――種類と排出実態
1-1 農業現場で使われるプラスチックの種類
農業由来の廃プラスチックは多岐にわたります。農林水産省の整理によれば、主な品目は以下のとおりです。
| 品目 | 素材 | 主な用途 | 排出時の特徴 |
|---|---|---|---|
| ハウス・トンネル被覆材(農ビ) | 塩化ビニル(PVC) | 施設園芸の屋根・側面の保温 | 土・植物残渣の付着、紫外線劣化 |
| ハウス・トンネル被覆材(農PO) | ポリオレフィン系(PE・EVA等) | 軽量・高透明な代替被覆材 | 農ビより薄く劣化しやすい |
| マルチフィルム(農ポリ) | ポリエチレン(PE) | 畝の保温・保湿・雑草抑制 | 土壌汚れが激しく分別困難 |
| 育苗ポット・プラグトレイ | ポリスチレン・PE等 | 苗の育成・移植 | 小型・多品種で回収が煩雑 |
| サイレージラップ | ポリエチレン | 牧草等の発酵・保存 | 畜産地域での大量排出 |
| プラスチック被覆肥料 | 各種合成樹脂(被膜) | 緩効性肥料のコーティング | 水田から被膜殻が水路へ流出 |
出典:農林水産省「園芸分野から排出されるプラスチックをめぐる情勢」(令和6年5月)をもとに作成
1-2 排出量の現状と推移
農業由来の廃プラスチック量は、農業用ハウスの設置面積の減少や被覆資材の耐久性向上等により、全体的には減少傾向にあります。日本全体のプラスチック廃棄物の有効利用率は約87%であるのに対し、農業系廃プラはリサイクル率が7割を超えるものの、依然として埋立・埋却処理が残っています。
【図1】農業系廃プラスチックの再生処理割合(主要品目)

出典:農林水産省「園芸分野から排出されるプラスチックをめぐる情勢」(令和6年5月)、環境省資料をもとに作成。再生処理割合はマテリアルリサイクル+サーマルリサイクルの合計。
農ビ・農POともに再生処理割合は7割を超えますが、廃プラ全体(87%)と比較するとまだ開きがあります。残りの約3割は埋立・埋却処理や不適正な焼却として排出されており、これが農業の環境課題として残されています。
第2章 廃プラ処理の仕組み――法律・回収・リサイクルの流れ
2-1 法的位置づけ:農業者は産業廃棄物処理の義務者
農業用使用済みプラスチックは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)により「産業廃棄物」に分類されます。これは農業者自らが処理責任を負うことを意味し、不法投棄や野焼きは法律違反となります。農林水産省は「園芸用使用済プラスチックの適正処理に関する基本方針」を通知し、3R(リデューズ・リユース・リサイクル)を基本とした処理を求めています。
2-2 プラ新法(2022年施行)が農業に与えた影響
2022年4月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法、いわゆる「プラ新法」)」が施行されました。この法律は、製品の設計から廃棄物の処理まで関わるあらゆる主体に、3R+Renewable(再生可能素材への切り替え)の取り組みを求める包括的な資源循環法です。
| 原則 | 内容 | 農業分野での具体例 |
|---|---|---|
| Reduce(排出抑制) | プラスチックの使用量そのものを減らす | 耐久性の高い被覆資材への転換、被覆肥料の使用量削減 |
| Reuse(再使用) | 繰り返し使用する | 育苗トレイ・コンテナの洗浄・再利用 |
| Recycle(再資源化) | 素材・熱として再生利用する | 農ビのマテリアルリサイクル(床材等原料)、農POのサーマルリサイクル |
| Renewable(再生可能素材化) | バイオマス素材・生分解性素材へ切り替える | 生分解性マルチフィルム・生分解性被覆肥料の導入 |
出典:環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」関連資料(2024年2月)をもとに作成
2-3 回収・リサイクルの流れ
農業用廃プラのリサイクルは、都道府県別の「農業用廃プラスチック適正処理推進協議会」を核とした組織的な回収スキームによって支えられています。以下が基本的な流れです。
1.農業者による分別・梱包
2.指定場所へ持ち込み
3.廃棄物処理業者による回収(マニフェスト発行)
4.リサイクル施設での再生処理
5.再生品(床材・燃料等)
リサイクルの方式は品目によって異なります。農ビ(塩化ビニル)は床材等へのマテリアルリサイクルが中心であるのに対し、農PO(ポリオレフィン系)はセメント製造時の代替燃料等として使用するサーマルリサイクルが中心となっています。なお、マニフェスト(産業廃棄物管理票)の交付は廃掃法上の義務であり、排出・運搬・処理の各段階が記録されます。
第3章 残された課題――なぜ100%リサイクルは難しいのか
3-1 農業系廃プラ特有の再生利用困難要因
農業系廃プラには、一般的な産業廃棄物と異なる特有の困難があります。農林水産省の調査でも以下の課題が明示されています。
| 課題 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 異物混入・汚染 | 植物残渣・土・農薬成分が付着し、そのままでは再生処理できない |
| 紫外線劣化 | 長期間の屋外使用で素材が脆化し、再生原料としての品質が低下 |
| 排出の分散・零細性 | 農業者は一般に小規模かつ全国に分散しており、回収コストが高い |
| 排出時期の偏り | 収穫・片付け時期に集中して大量排出されるため、処理能力が逼迫しやすい |
| 処理費用の負担 | 農業者がリサイクル費用を負担する構造で、コスト圧力が適正処理を妨げる |
出典:農林水産省「園芸分野から排出されるプラスチックをめぐる情勢」(令和6年5月)をもとに作成
3-2 見えにくい問題:被覆肥料とマイクロプラスチック
廃プラ問題のなかでも近年特に注目されているのが、プラスチック被覆肥料の被膜殻による海洋マイクロプラスチック汚染です。
被覆肥料(緩効性肥料)は、肥料成分を合成樹脂でコーティングしたもので、現在、国内の水田の約6割で使用されています。省力化に優れた「一発肥料」として広く普及してきましたが、肥料成分が溶け出した後のプラスチック被膜殻が、代かき時に水路・河川・海洋へ流出することが問題となっています。
| マイクロプラスチック排出源(質量比) | 割合 |
|---|---|
| 人工芝 | 23%(1位) |
| 肥料の被膜殻(農業由来) | 15%(2位) |
| その他 | 62% |
【図3】日本国内のマイクロプラスチック流出源(質量比)
出典:一般社団法人ピリカ「マイクロプラスチック等の流出実態調査」(2020年度、全国120水域)をもとに作成
この調査結果を受け、JA全農・全国複合肥料工業会・日本肥料アンモニア協会の肥料関係3団体は2022年1月、「2030年にはプラスチックを使用した被覆肥料に頼らない農業に。」という目標を共同で宣言しました。農林水産省も同年、農産局長名で地方農政局・農業関係団体に対し流出防止対応の強化を通知しています。
知っておきたいポイント
マイクロプラスチックとは直径5mm未満のプラスチック粒子のこと。生物によって分解されないため、河川・海洋に流入すると半永久的に蓄積されます。表面に有害物質が吸着しやすく、海洋生物が取り込むことで食物連鎖を通じた生態系への影響も懸念されています。
第4章 持続可能なプラスチック利用への転換――3つのアプローチ
アプローチ①:生分解性素材への代替
(A)生分解性マルチフィルム
最も普及が進んでいる代替素材が生分解性マルチフィルムです。土壌中の微生物によって水とCO₂に分解されるため、収穫後の剥ぎ取り・廃棄作業が不要となります。
| メリット ・回収・廃棄処理コストが不要 ・剥ぎ取り作業の省力化 ・廃プラ排出量の根本的削減 ・土壌にすき込むだけでOK | 課題・注意点 ・従来品比2〜3倍程度のコスト ・分解速度が地温・水分・土壌環境により変動 ・作物・地域との相性の事前確認が必要 ・強度が従来品より低いケースあり |
農業用生分解性資材普及会の最新調査(2024年度:2024年6月〜2025年5月)によれば、生分解性マルチフィルムの出荷量・使用面積は年々増加しており、2018年度には被覆面積が1万haを超えています。みどりの食料システム戦略においても、耐久性等に優れた生分解性生産資材の開発・普及がKPIの一つとして位置付けられています。
(B)生分解性・代替被覆肥料の開発
被覆肥料分野では、プラスチックに代わる被膜素材の開発が進んでいます。農林水産省が2025年3月に公表した「プラスチック被覆肥料の代替技術活用事例集(令和6年度)」では、以下の代替技術が紹介されています。
| 代替技術 | 特徴 | 導入事例 |
|---|---|---|
| 硫黄被覆肥料(SCU) | 硫黄と微生物分解性ワックスで被覆。硫黄は土壌中で分解され、マイクロプラスチックを発生させない | 岐阜県飛騨市・JAひだ・サンアグロ3者連携協定(2025年3月) |
| ウレアホルム(大粒ホルム窒素) | 尿素とホルムアルデヒドの縮合物。プラスチック被膜を使わない緩効性窒素肥料 | 農水省事例集に掲載 |
| ペースト肥料 | プラスチック被膜を持たないペースト状肥料。マイクロプラスチックが発生しない | 三菱農業機械との施肥機共同開発 |
| 生分解性被膜肥料 | 生分解性素材で被覆し、海洋流出しても分解される肥料 | 研究・開発段階(各肥料メーカー) |
出典:農林水産省「プラスチック被覆肥料の代替資材・被膜殻流出防止対策に係る事例集」(令和6年3月)をもとに作成
アプローチ②:被膜殻の流出防止対策(現行技術での即効策)
代替技術への完全移行には時間がかかることから、現在の被覆肥料を使用しながらでも実践できる流出防止対策が農林水産省・JA全農から推奨されています。
| 対策 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 浅水代かき | 水を浅くして代かきを行い、被膜殻が圃場外に流出しにくくする | 圃場外への流出を大幅に低減 |
| 排水口へのネット設置 | 排水口にネットを設け、被膜殻をすくい取る | 低コストで即実施可能 |
| 代かき後の早期移植 | 代かき当日〜数日以内に移植し、落水を防ぐ | 浅水代かきとの組み合わせで効果倍増 |
出典:農林水産省「プラスチック被覆肥料の被膜殻の流出防止について」をもとに作成
アプローチ③:リサイクル技術の高度化
既存の廃プラのリサイクルをより高度化する取り組みも進んでいます。農林水産省委託の令和6年度調査報告書では以下の技術動向が整理されています。
| リサイクル方式 | 概要 | 農業系廃プラへの適用可能性 |
|---|---|---|
| マテリアルリサイクル | 素材として再生し別の製品原料にする(例:農ビ→床材) | ◎ 現在の主流(農ビ中心) |
| サーマルリサイクル | 燃焼熱をエネルギーとして回収する(例:セメントキルン燃料) | ◎ 農POで現在の主流。3R階層では最下位 |
| ケミカルリサイクル(循環型) | 化学分解してモノマー等に戻し、再びプラスチック原料とする | △ 農業系への応用は研究・開発段階 |
| 複層フィルムのリサイクル | 複数素材が積層されたフィルムを分離・再生する | △ 技術的に困難で先行開発事例あり |
出典:農林水産省「令和6年度 農業及び食品産業におけるプラスチック削減に係る調査・分析 報告書」(2025年3月)をもとに作成
第5章 政策の方向性と今後の展望
5-1 みどりの食料システム戦略との連動
農林水産省は2021年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」において、農業分野のプラスチック問題を「環境負荷低減イノベーション」の柱の一つに位置付けています。2050年に向けた工程表には、生分解性生産資材(マルチ・ハウス被覆材・被覆肥料・サイレージフィルム等)の開発・普及が明記されており、農業者のみどりの食料システム法に基づく計画認定(令和5年度より本格開始)により、税制特例・補助事業の優先採択といった支援措置が活用できます。
5-2 国際的な動向――条約・ガイドラインが農業を変える
| 動向 | 内容 | 農業への影響 |
|---|---|---|
| 国連プラスチック汚染条約(INC) | 法的拘束力のある国際文書の策定に向けた交渉が継続中 | 農業用プラスチックも規制対象として議論される可能性 |
| FAO 農業プラスチック自主的行動規範(VCoC) | 農業分野のプラスチックの持続可能な使用に関するガイドライン。2024年10月、第29回FAO農業委員会で各国の活用推奨を決議 | 国内対応の指針として、農水省の政策立案に直接影響 |
出典:農林水産省「プラスチック資源循環」トップページをもとに作成
FAO VCoCの採択は、農業用プラスチックに関する国際的な「ルール化」の第一歩と言えます。日本の農業界もこの流れに無縁ではなく、国際基準に沿った廃プラ管理・代替技術の導入が今後ますます求められていくことが予想されます。
5-3 行政・メーカー・農業者・リサイクル事業者の4者連携が鍵
農業用廃プラの資源循環を推進するには、特定の主体だけの取り組みでは限界があります。以下の4者がそれぞれの役割を果たす連携体制が不可欠です。
| 主体 | 求められる役割 |
|---|---|
| 行政(国・都道府県) | 法制度・補助制度の整備、適正処理協議会の運営支援、代替技術の普及啓発 |
| 資材メーカー | 生分解性素材・代替被覆肥料の開発加速、リサイクルしやすい設計(環境配慮設計)の推進 |
| 農業者 | 分別・梱包の徹底、回収スキームへの積極的参加、生分解性資材・代替技術への移行 |
| リサイクル事業者 | 処理能力の拡充、農業系廃プラ特有の汚染・劣化に対応できるリサイクル技術の開発 |
まとめ
農業用廃プラスチックの資源循環は、「分ければ資源、混ぜればゴミ」という現場の合言葉が象徴するように、まず分別・適正回収の徹底から始まります。しかし今後は、それにとどまらない根本的な転換――生分解性素材への代替、マイクロプラスチックを生まない施肥技術への移行、リサイクル技術の高度化――が求められています。
特に施設園芸(次世代型ハウス農業)においては、大量のハウス被覆材・マルチ・育苗資材を使用することから、廃プラ管理は経営上のコストリスクであると同時に、ESGや環境配慮を重視する実需者・消費者への対応としても重要な課題となっています。
国際的なルール化の動きも加速するなかで、日本農業が「持続可能なプラスチック利用」の先進モデルを示せるか。制度・技術・農業者意識の三位一体での転換が求められています。
参考文献
- 農林水産省(2025年3月)「令和6年度 農業及び食品産業におけるプラスチック削減に係る調査・分析 報告書」
https://www.maff.go.jp/j/plastic/attach/pdf/index-4.pdf - 農林水産省 農産局園芸作物課(2024年5月)「園芸分野から排出されるプラスチックをめぐる情勢」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/sisetsu/attach/pdf/used_plastic-4.pdf - 農林水産省「プラスチック資源循環(農業生産)」(随時更新)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/pura-jun/ - 農林水産省「プラスチック資源循環 トップページ」(随時更新)
https://www.maff.go.jp/j/plastic/index.html - 農林水産省「プラスチック被覆肥料の被膜殻の流出防止について」(随時更新、令和6年3月事例集含む)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_hiryo/hihuku_hiryo_taisaku.html - 農林水産省「農業由来廃プラスチック適正処理対策」(随時更新)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/sisetsu/used_plastic.html - 農林水産省「みどりの食料システム戦略」(随時更新)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/ - 一般社団法人 日本施設園芸協会(JGHA)「農業用廃プラスチック 適正処理・資源循環促進のご案内」(2024年12月更新)
https://jgha.com/product/estr/ - 農業用生分解性資材普及会「2024年度 生分解性マルチフィルム出荷量」(2026年2月公表)
https://bd-mulch.jp/ - 環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律 関連説明資料」(2024年2月)
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/250830/0501.pdf - サンアグロ株式会社「海洋プラスチック問題・脱プラスチック肥料の取組」(2025年3月更新)
https://www.sunagro.co.jp/pickup/ocean-plastic/
