新規就農や農業参入を検討する際、「いきなり大規模な投資をするのは不安」「まずは小さく始めて様子を見たい」と考える方は少なくありません。そうした方にとって、1反(10a)からのスモールスタートは非常に現実的な選択肢です。

ただし、ひとくちに「1反」といっても、栽培する品目によって売上・コスト・手取り(農業所得)の構造はまったく異なります。水稲は労働時間が少ない一方で1反あたりの所得額は小さく、施設野菜は所得水準が高い一方で初期投資が重くなる、といった具合です。

本記事では、水稲・露地野菜・施設野菜・果樹という主要な品目について、1反あたりの収益シミュレーションを比較し、小規模スタート時にどのような基準で品目を選ぶべきかを整理します。

1反(10a)とはどれくらいの規模か

1反(たん)は1,000㎡、すなわち10a(アール)に相当します。坪数に換算するとおよそ303坪、サッカーコート(約7,140㎡)の7分の1程度の広さです。

専業農家として生計を成り立たせるには小さい規模ですが、栽培技術の習得・収支感覚の把握・販路開拓の練習を行う実証段階としては妥当な広さといえます。また、2023年の農地法改正により下限面積要件が廃止されたことで、小規模な農地からでも農業経営を始めやすい制度環境が整ってきています。

つまり1反規模は、「専業経営の完成形」ではなく「本格的な規模拡大に向けた実証ステップ」として捉えるのが実態に即した見方です。

品目選定で見るべき4つの指標

品目ごとの収益性を比較する際は、以下の4つの指標を押さえておく必要があります。

  • 粗収益:栽培した農産物の販売による総売上
  • 農業経営費:種苗費・肥料費・農薬費・農機具費・施設費・水利費などのコスト
  • 農業所得:粗収益から経営費を差し引いた、いわゆる「手取り」
  • 労働時間・時給換算:所得を投下労働時間で割った、労働生産性の指標

ここで特に注意したいのが、所得額の大小だけで品目を判断しないという点です。たとえば、ある品目の年間所得が10a当たり18万円・労働時間90時間である一方、別の品目は所得119万円・労働時間932時間というケースがあります。一見後者の方が儲かっているように見えますが、時給換算するとそれぞれ約20%・約13%の労働生産性となり、前者の方が効率よく稼げているという逆転現象が起こり得ます。

1反という限られた面積・限られた労働力でスタートする場合、「いくら稼げるか」と同じくらい「どれだけの時間を投下する必要があるか」が重要な判断材料になります。

品目別収益シミュレーション①:水稲

令和6年産水稲の全国平均10a当たり平年収量は537kg(前年比+1kg)と発表されています。水稲は機械化体系が確立されている品目であり、野菜・果樹と比較して10a当たりの労働時間は短いのが特徴です。

一方で、2024年は記録的な米価高騰が起きた年でもありました。これは需要増ではなく、猛暑等による収穫量の絶対的な不足が主因とされており、同時に肥料費・農薬費・地代賃借料といった生産コストも上昇しています。つまり2024年産の数値は構造的なトレンドというより単年の特殊要因を含んでいる点には注意が必要です。

1反(10a)規模での水稲経営は、労働負担が小さく兼業との両立がしやすい反面、所得額自体は他品目に比べて小さくなりやすく、単独で生計を立てる規模としては力不足になりがちです。家庭用米の自給や、複合経営の一部としての位置づけが現実的でしょう。

品目別収益シミュレーション②:露地野菜

露地野菜は品目によって収益構造が大きく異なります。農林水産省の「農業経営統計調査」を基にした業界データでは、キャベツが時給換算でもっとも生産性が高い野菜として紹介されることが多く、粗収益約39万円(10a当たり)に対し経費・労働時間を抑えられるため、時給換算で2,000円を超える水準とされています。続いてレタスも高時給な品目として位置づけられています。

一方、施設栽培のシシトウのように、所得額自体は100万円を超えていても、労働時間が3,000時間近くに達するために時給換算すると500円を下回ってしまう品目も存在します。「所得が高い=効率が良い」とは限らない典型例といえるでしょう。

露地野菜の利点は、施設野菜や果樹と比べて初期投資が小さく、1反からのスタートに最も取り組みやすい点です。一方で天候不順や市況変動の影響を直接受けやすく、収益のブレ幅が大きいというリスクも抱えています。

品目別収益シミュレーション③:施設野菜

ビニールハウス等で栽培する施設野菜は、露地野菜と比べて10a当たりの農業所得水準が高い傾向にあります。品目別経営統計を基にした業界データでは、ミニトマトが約202.8万円、いちごが約189.8万円、なすが約169.4万円(いずれも10a当たり農業所得の目安)とされ、果菜類を中心に高い所得水準を実現しやすいことが分かります。

ただし、施設野菜にはハウス建設費や環境制御設備といった初期投資、および施設の維持管理費が経営費として上乗せされるという特徴があります。1反規模であっても、簡易パイプハウス程度の投資でスタートするのか、環境制御システムを備えた本格的な施設で始めるのかによって、必要資金は大きく変わってきます。

つまり施設野菜は、「所得水準は高いが、初期投資とランニングコストの重さを許容できるか」が選定の分かれ目になる品目だといえます。

品目別収益シミュレーション④:果樹

果樹は水稲・野菜とは収益構造が根本的に異なります。最大の特徴は、定植から本格的な収益化(成園化)までに数年単位の「未収益期間」が存在することです。慣行樹形では成園化までに10年近くを要するケースもあり、その間は収入がほとんど発生しません。

近年は、樹を小さく密植する「省力樹形(わい化栽培等)」の導入により、未収益期間の短縮や作業効率の向上が進められています。それでも、果樹経営は初年度から黒字化を期待できる品目ではないという前提を理解しておく必要があります。

また、果樹作経営の平均的な経営規模は1ha弱程度とされており、水稲や露地野菜と比べてもともと小規模な1反単位での収支データが乏しいという統計上の制約もあります。1反規模で果樹単独の経営を完結させるのは現実的ではなく、複合経営の将来的な柱の一つとして位置づける方が無理のない考え方です。

品目別収益シミュレーション比較表

ここまでの内容を踏まえ、1反(10a)当たりの収益構造を品目別に整理した目安が以下の表です。数値は各種統計・業界データを基にした概算の目安であり、実際の収支は地域・品種・栽培技術・市況により大きく変動する点にご留意ください。

品目粗収益目安
(10a当たり)
農業所得目安
(10a当たり)
労働時間目安初期投資の重さ収益化までの期間
水稲10〜15万円程度数万円〜10万円程度少ない(機械化体系)中(農機具の有無に左右)単年
露地野菜
(キャベツ等)
30〜40万円程度10〜20万円程度少〜中単年
露地野菜
(労働集約型)
100万円超も可能100万円超も可能多い(年間1,000時間超も)小〜中単年
施設野菜
(ミニトマト等)
高水準150〜200万円程度中〜多い大(ハウス・設備費)単年〜(設備投資回収は複数年)
果樹成園後は高水準成園後は高水準中(剪定等の技術労働)中〜大数年〜10年(未収益期間あり)

※上表は農林水産省「品目別経営統計」「営農類型別経営統計」等の公表データおよび関連業界メディアの集計を参照し、概算で整理したものです。正確な数値での検討には、必ず一次統計(巻末参考文献参照)をご確認ください。

1反スタート時の品目選定基準

以上を踏まえ、1反から農業経営を始める際の品目選定基準を4つの軸で整理します。

①初期資金の制約

資金に制約がある場合は、露地野菜>水稲>施設野菜>果樹の順で参入のハードルが低くなります。施設野菜・果樹は初期投資が重くなりやすいため、自己資金や融資制度の活用可否が選定を左右します。

②労働力の制約

兼業での開始を想定する場合、労働時間の少ない水稲や省力的な露地野菜が現実的です。専業で時間を確保できるのであれば、労働集約的だが高所得を狙える施設野菜・労働集約型野菜も選択肢に入ります。

③収益化までの許容期間

果樹は初年度からの黒字化を前提にできない品目です。当面の生活費を他の収入源で確保できるかどうかが、果樹への参入可否を分けます。野菜・水稲は単年での収支完結が基本のため、資金繰りの予測が立てやすい点がメリットです。

④将来の規模拡大方針

1反を「実証段階」と位置づけるか、「本格経営の第一歩」と位置づけるかによっても選ぶべき品目は変わります。将来的に規模拡大を見据えるなら、規模拡大時の労働生産性(時給換算)が高い品目を先に検証しておくことが、後々の経営判断に活きてきます。

1反経営を始める際の注意点

統計データを参照する際は、いくつかの注意点があります。

第一に、農林水産省の統計には「1経営体当たり」の数値と「10a(1反)当たり」の数値が混在しているため、引用元がどちらの単位かを必ず確認する必要があります。経営体当たりの数値をそのまま1反の数値と誤読すると、実態とかけ離れた皮算用になりかねません。

第二に、果樹のように経営規模が10aを大きく上回る統計しか存在しない品目については、10a換算はあくまで概算であり、実際の経営判断には専門家や普及指導員への相談を併用することをおすすめします。

第三に、新規就農者向けの支援制度(経営開始資金など)を活用できれば、1反規模での収支が赤字基調であっても、就農初期の生活を下支えできる可能性があります。資金面の不安がある場合は、各自治体の就農相談窓口や支援制度の活用も検討してみてください。

まとめ

1反(10a)からの農業経営は、専業として完結させる規模ではなく、品目の収益構造を実地で検証するためのステップとして捉えるのが現実的です。

  • 水稲:労働負担は小さいが、1反単独での所得額は小さい。兼業・複合経営向き
  • 露地野菜:初期投資が小さく最も着手しやすいが、品目によって労働生産性に大きな差がある
  • 施設野菜:所得水準は高いが、初期投資とランニングコストの負担が重い
  • 果樹:未収益期間が長く、1反単独での経営完結は難しい。長期視点の複合経営向き

品目選定にあたっては、所得額だけでなく初期資金・労働力・収益化までの期間・将来の拡大方針を総合的に勘案することが重要です。本記事のシミュレーションを出発点に、ぜひご自身の状況に合わせた収支試算を行ってみてください。


参考文献

  • 農林水産省「営農類型別経営統計」
    https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukei/einou/
  • 農林水産省「品目別経営統計の概要」
    https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukei/hinmoku/gaiyou1/
  • 農林水産省「分野別分類/農家の所得や生産コスト、農業産出額など」
    https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kensaku/bunya3.html
  • 農林水産省「『令和6年産水稲の10a当たり平年収量』について」
    https://www.maff.go.jp/j/press/tokei/seiryu/240312.html
  • 農林水産省「令和6年産水稲の作柄表示地帯別10a当たり平年収量について」
    https://www.maff.go.jp/j/press/tokei/seiryu/240628.html
  • 農林水産省「水稲の作柄に関する検討会(令和6年度第2回)配布資料」
    https://www.maff.go.jp/j/study/suito_sakugara/r6kenntoukai_2/index.html
  • 農林水産省「果樹農業の現状と課題について」(令和6年10月)
    https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kazyu/r06_01_kazyubukai/attach/pdf/241016-12.pdf
  • 農林水産省中四国農政局「果樹をめぐる情勢」(令和5年12月)
    https://www.maff.go.jp/chushi/seisan/fruits/attach/pdf/kaju.meguji0.pdf
  • 農林水産省「果樹に関する統計データ」
    https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/fruits/toukei.html
  • 農業利益創造研究所「農業簿記データから稲作経営の経営指標を作成する」
    https://nougyorieki-lab.or.jp/management/14834/
  • 農業利益創造研究所「2024年版『儲かり野菜』ランキング!所得率48%超の意外な1位とは?」
    https://nougyorieki-lab.or.jp/income/15229/
  • minorasu「野菜の品目別反収一覧表!農業で『儲ける』ために選ぶべき作物は?」
    https://minorasu.basf.co.jp/80104
  • minorasu「農業で儲かる作物とは?新規就農者が知るべき収益性と選び方」
    https://minorasu.basf.co.jp/81022
  • minorasu「農業収入はどのくらい?作物別の所得目安と安定経営のポイント」
    https://minorasu.basf.co.jp/81029
  • minorasu「ナス農家は儲かる?露地・施設別の年収や高収入をめざすポイントを解説」
    https://minorasu.basf.co.jp/80802
  • イノチオグループ「農家・農業は儲かるのか?儲かる作物や利益率について解説」
    https://inochio.co.jp/column/51/
  • とちの(栃木県就農支援サイト)「農業コンサルタントが教える新規就農1年目のお金事情|品目別収支シミュレーション」
    https://tochi-no.jp/article/detail/616
  • イノチオアグリ「【2025年最新】新規就農者の支援制度を解説」
    https://inochio.co.jp/column/8/
  • minorasu「新規就農の資金はいくら必要?内訳や平均、調達方法を解説」
    https://minorasu.basf.co.jp/80446