土壌分析票を受け取っても、数字がずらりと並ぶだけで「結局どうすればいいのか分からない」と感じたことはありませんか。実は、押さえるべき指標は多くありません。本記事では pH・EC・CEC という3つの主要指標にしぼって読み方を解説し、そこから 施肥の見直し(特に減肥によるコスト削減) につなげる考え方までをまとめます。長年の「勘と経験」にデータを一つ加えるだけで、土づくりの精度と再現性は大きく変わります。

なぜ土壌分析が必要なのか

作物にとって良い土壌は、物理性・化学性・生物性の3つがバランスよく保たれた状態を指します。このうち土壌分析が科学的に「見える化」してくれるのが、養分の状態=化学性の部分です。

土壌分析を行うと、どの養分が不足し、どの養分が過剰なのかが数値で分かります。不足を補い、過剰を減らすことで「良い土壌」に近づけば、収量や品質が安定・向上します。さらに、過剰な養分を減らせば、その分の肥料代を節約できるという大きなメリットもあります。

ポイント: 日本の農地では、野菜・果樹の圃場を中心にリン酸やカリが過剰に蓄積している圃場が多いことが各地の普及センターの調査で分かっています。つまり、多くの畑で「減肥できる余地」が眠っているということです。土壌分析はその余地を見つける第一歩になります。

pHの読み方 ― 酸性・アルカリ性のバランス

pHは、土壌中の水素イオン濃度を 0〜14 の数値で表した指標です。7が中性で、小さいほど酸性、大きいほどアルカリ性になります。

多くの作物の適正域は pH5.5〜7.0 で、特に pH6.0〜6.5の弱酸性でよく育つ作物が多くなっています。

pHが適正域から外れると、次のような問題が起こります。

状態起こりやすい問題主な対策
酸性に傾きすぎ
(pH5.5未満)
リン酸が吸収されにくくなる/アルミニウム・鉄・マンガンの過剰害で根が傷む/土壌微生物の活力低下石灰質資材(苦土石灰など)で酸性を矯正
アルカリに傾きすぎ
(pH7.0超)
鉄・マンガン・ホウ素など微量要素が溶けにくくなり欠乏症が出やすい硫安・硫加などの生理的酸性肥料で調整

覚えておきたいこと: ミネラル(養分)の効きやすさはpHに大きく左右されます。pH5.5〜6.5でほとんどの養分が効きやすくなるため、この範囲を目標にするのが基本です。

ECの読み方 ― 肥料の残り具合を知る

EC(電気伝導度)は、土壌中の塩類濃度=肥料分の残り具合を示す指標です。単位は mS/cm(=dS/m、表記が違うだけで同じ値)で表します。肥料分が多く残っているほど電気を通しやすくなり、EC値は高くなります。

一般的な適正値の目安は 0.4〜1.0mS/cm程度です。1.0〜1.5を超えると養分が過剰に残っている可能性が高く、そのまま元肥を入れると肥料焼け(濃度障害)のリスクが高まります。EC値が高いと、浸透圧の関係で根の中の水分が逆に土壌へ出ていってしまい、根が水も養分も吸えなくなるのです。

施設栽培は要注意: ハウスなどの施設栽培は、もともと施肥量が多いうえに雨で塩類が流されず、地温上昇による水分蒸発で養分が地表に上がってくるため、ECが高くなり塩類集積が起こりやすい環境です。露地より少ない施肥で済むのが本来の利点なので、EC測定でこまめに確認したい場所です。

ECを施肥改善に直結させる ― 減肥の目安表

ECの一番の使いどころは、次作の元肥をどれだけ減らせるかの判断です。JAあつぎが示す目安を例に挙げます。

施肥前のEC値 (mS/cm)元肥の施用量の目安
0.3 以下基準の施肥量どおり
0.4 〜 0.7基準量の 2/3 に減肥
0.8 〜 1.2基準量の 1/2 に減肥
1.3 〜 1.5基準量の 1/3 に減肥
1.6 以上無施用(元肥を入れない)

ECを読むときの注意: ECはあくまで塩類の「総量」を示すもので、窒素・リン酸・カリのどれがどれだけあるかまでは分かりません。また、塩類が集積した施設土壌では石灰などが集積してイオンの種類が変わり、硝酸態窒素とECがきれいに相関しない場合もあるため、EC値だけからの窒素推定には注意が必要です。作物ごとの適正値も異なります。

CECの読み方 ― 土壌の「養分を蓄える力」

CEC(陽イオン交換容量)は、土壌が養分(陽イオン)をどれだけ蓄えておけるかという容量の大きさを示す指標です。単位は meq/100g で表します。

分かりやすいたとえを使うと、次のようになります。

指標たとえ意味
CEC胃袋の大きさ養分を蓄えられる容量そのもの
塩基飽和度満腹度合いその容量が養分でどれだけ満たされているか(%)

CECの大きさは粘土の種類や腐植の量で変わります。CECが大きい土ほど養分をたっぷり蓄えられ、肥料が効きすぎたり切れたりしにくい「懐の深い土」になります。逆にCECが小さい砂質土は、少しの施肥で効きすぎたり流れやすかったりします。

塩基バランス ― 石灰・苦土・カリの理想比率

塩基飽和度は、CECに対してカルシウム(石灰)・マグネシウム(苦土)・カリウム(カリ)といった塩基がどれだけ占めているかを示します。壌土では 塩基飽和度70〜80% が適正の目安とされます。さらに、その内訳のバランスも重要です。

成分CECに占める割合の目安
石灰(カルシウム)60 〜 70%
苦土(マグネシウム)10 〜 15%
カリ(カリウム)2 〜 5%
合計70 〜 90%

pHとつながっています: 塩基飽和度とpHには相関があり、pHが高いほど塩基飽和度も高く、pHが低いほど低くなります。作物が根から陽イオンを吸うときに水素イオンを放出して土壌が酸性化するため、pHから養分の吸着割合をおおまかに推定できるのです。pH・塩基飽和度・CECは互いに結びついていると理解しておきましょう。

pH×ECで土壌タイプを診断する

pHとECは、組み合わせて読むとさらに多くのことが分かります。2つの指標を掛け合わせると、土壌のおおよその状態を4つのタイプに分けて判断できます。

EC 高いEC 低い
pH 低い窒素過剰・障害型
硝酸などの陰イオン蓄積でpHが下がりECが高い。生育がいじけ根が傷む。窒素の多施用・多かん水の畑に多い。→ 減肥・除塩
肥料不足型
全体に肥料が足りず葉色が淡い。施設ではまれ。→ 適量を補う
pH 高い石灰などの塩基が過剰に集積した状態。微量要素欠乏に注意。→ 石灰施用を控える微量要素欠乏型
塩基は多いが窒素が少ない。高pHで鉄・マンガン等が欠乏しやすい。→ 標準施肥+微量要素の補給

好ましくない状態に位置していても、悲観する必要はありません。適切な対策を行えば土壌は回復します。まずは自分の畑がどのタイプに当てはまるかを知ることが、改善のスタートラインです。

分析結果から施肥改善へ ― 減肥でコストを下げる

指標が読めるようになったら、いよいよ施肥の見直しです。ここでは、実際の土壌診断結果からリン酸とカリを減肥する具体的な考え方を紹介します。茨城県の普及センターが示す方法が実践的です。

リン酸の減肥

リン酸は土壌に固定されやすいため、通常は作物の吸収量より多めに施肥します。しかし、土壌中のリン酸が基準値の上限を超えている場合は、作物の吸収量相当の施肥だけでも十分に生育できます。さらにリン酸が 100mg/100gを超える圃場では施肥の効果がほとんどないため、無施肥とします。

カリの減肥 ― 計算例

カリは、基準値の上限を超えた分を基肥基準量から差し引きます。具体例で見てみましょう。

項目数値
土壌のカリ含量46 mg/100g
基準値40 mg/100g
超過分(46 − 40)6 kg/10a 相当
カンショのカリ基肥基準量10 kg/10a
実際に必要なカリ施肥量(10 − 6)4 kg/10a

銘柄の見直しも有効: 窒素に対してリン酸・カリの成分が少ない肥料銘柄も流通しています。土壌診断値を参考に使用銘柄を見直すことで、さらに施肥コストを節減できます。「入れないこと」も立派な施肥設計です。

自分で測る ― おすすめ測定機器

ここまでの内容を実践するには、まず自分の畑の状態を測る必要があります。指標によって「自分で測れるもの」と「プロに依頼すべきもの」が分かれるので、役割分担で考えるのがおすすめです。

7-1. 家庭菜園向け ― まずpHを手軽にチェック

シンワ測定 デジタル土壌酸度計 A-2 大文字 72730

土に挿すだけでpHを測れる、家庭菜園向けの入門機です。まずは「自分の畑が酸性寄りかどうか」の傾向をつかみたい方に向いています。電源不要で扱いやすく、価格も手頃なので、最初の1台として気軽に導入できます。

メリット:挿すだけで手軽/低コスト/電池不要
知っておきたい限界:簡易測定のため、精密な分析値ほどの正確さはありません。1か所だけでなく複数地点で測り、平均を取ると精度が上がります。▶ Amazonで詳細を見る

7-2. pH・EC両方を精密に ― 本格派・営農向け

ハンナ インスツルメンツ GroLineコンボ pH/EC/TDS/℃テスター HI98131

pH・EC・TDS・水温を 1台でまとめて測定できる多機能テスターです。前章で紹介したEC値による減肥判断まで踏み込みたい方、施設栽培や水耕栽培でこまめな管理をしたい方に向いています。EC・TDSを日常的にモニタリングできると、肥料管理の精度が一段上がります。

上澄み液での測定手順(簡易版):

  1. 畑の5地点(四隅と中央)から土を採り、混ぜて風通しの良い場所で乾かす(風乾細土)
  2. 風乾細土と水を 1:5 の割合で混ぜ、よく撹拌する
  3. しばらく静置し、電極を浸して数値が安定したら読み取る

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7-3. CECは専門機関による土壌診断が必要

ここが重要なポイントです。CEC・塩基飽和度・各養分の定量値は、簡易測定器では測れません。これらを正確に知るには、専門機関による土壌診断が必要です。

依頼先の例:

  • JA(営農指導員に相談すれば、pH・ECに加え、窒素・リン酸・カリの過不足やCEC等を分析してもらえます)
  • コメリなどのホームセンターの土壌診断サービス

採土のコツは 7-2 と同じで、圃場5点から採取して混ぜ、風乾したものを提出します。

指標自分で測るプロに依頼おすすめの頻度
pH◎(酸度計)作付けごと・日常
EC◎(EC計)作付けごと・日常
CEC・塩基飽和度×◎(JA・コメリ)年1回程度
各養分量(N・P・K等)×◎(JA・コメリ)年1回程度

おすすめの役割分担:pH・ECは自分の測定器で日常的にチェックし、CECを含む精密診断は年1回プロに依頼する。この組み合わせが、コストと精度のバランスが取れた現実的なやり方です。

まとめ

土壌分析票は、次の3つの指標を押さえれば読めるようになります。

指標意味適正の目安主な使いどころ
pH酸性・アルカリ性6.0〜6.5石灰・酸度の調整
EC肥料の残り具合0.4〜1.0 mS/cm元肥の減肥判断
CEC養分を蓄える力作物・土性による塩基バランス設計

そして大切なのは、これらを読むだけで終わらせず施肥改善につなげることです。特にリン酸・カリが過剰な圃場では、減肥によって収量・品質を落とさずに肥料代を下げられる可能性が十分にあります。

まずは手元の畑で pHとECを測ってみることから始めましょう。数値という共通の物差しを持つことで、来年の土づくりは確実に一歩前進します。

参考文献

  • 農林水産省「主要作物の土壌診断基準」(宮崎県・CEC と塩基バランスの解説を含む)
    https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/miy03.html
  • 農林水産省 掲載資料(鳥取県)「土壌pH・ECの診断」
    https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/attach/pdf/tottori01-1.pdf
  • 農林水産消費安全技術センター(FAMIC)「肥料等試験法(2024)」
    https://www.famic.go.jp/ffis/fert/bunseki/sub9_shiken2024.html
  • JA全農「土壌診断なるほどガイド」
    https://www.zennoh.or.jp/members/pdf/gijyutu_1_01b.pdf
  • 茨城県「土壌診断の処方箋の見方と減肥の方法」(農業いばらき)
    https://nouiba.jp/environment/fertilizer/2023/05/2654/
  • ヤンマー 営農PLUS「肥沃な土壌とは(CECと塩基飽和度)」
    https://www.yanmar.com/jp/agri/agri_plus/soil/articles/05.html
  • 現代農業WEB「肥料を上手に使うためにpHとECによる簡易診断を」
    https://gn.nbkbooks.com/?p=18778
  • カクイチ「今さら聞けない土壌診断の用語」
    https://www.kaku-ichi.co.jp/media/crop/earth-building/soil-diagnostic-terms
  • JAあつぎ「作物の生育とpH・ECの関係性について」
    https://www.ja-atsugi.or.jp/member/einou/2022/03.html
  • ハンナ インスツルメンツ「土壌のpH、ECはどうやって測定するの?」
    https://e-hanna.info/measure_soil

※適正値は作物・品種・土壌の種類によって異なります。施肥設計にあたっては、お住まいの都道府県の施肥基準やJAの営農指導員にご確認ください。