直売所で売れるPOPの作り方|“安い”以外で選ばれる見せ方とは

直売所に野菜を出荷していると、隣に並んだ同じ品目と比べられ、つい値札を下げたくなる場面があります。しかし価格を下げることは、直売所において必ずしも合理的な選択ではありません。本記事では、価格以外の理由で選ばれるためのPOP(店頭販促物)の作り方を農林水産省のガイドラインを交えて解説します。

1. なぜ「安さ」で勝負すべきではないのか

1-1. 直売所の安値は「構造」から生まれる

直売所で価格が下がる最大の要因は、出荷者の努力不足ではなく供給過多という構造的な問題です。供給が需要を上回れば価格は自然に下がります。売れ残りを引き取りに行く手間を嫌って、思わず安値をつけてしまうケースも指摘されています。

つまり値下げは、構造への対症療法にすぎません。値下げではなく「他と違うものだと認識してもらう」ことが本質的な打ち手になります。名前が小さく印字されただけのシールは、いわば看板のないお店を建てているようなものだと表現されています。

1-2. 農産物は「見た目と名前」では価値が伝わらない

野菜が一般的な商品と決定的に違うのは、同じ品目でも生産者・品種・収穫のタイミングによって全く別のものになるという点です。それにもかかわらず、見た目や名前だけでは、その差が消費者に伝わりません。

1-3. POPは「販売員の代わり」である

売り場に来るすべてのお客様に、販売員や生産者が野菜の魅力を口頭で伝えることはできません。そこで販売員や農家に代わって魅力を伝えてくれるのがPOPという位置づけになります。POPは「いつもお客様のそばにいる販売員」とも表現されます。 表1:値下げとPOP整備の違い

観点値下げPOPの整備
効果の出方即効性がある継続的に効く
利益への影響手取りが直接減る単価を維持できる
模倣のしやすさ誰でもすぐ真似できる生産者固有の情報は真似できない
次回購入への波及残りにくい指名買い・リピートにつながりうる

2. POPに載せる4つの情報レイヤー

2-1. 商品説明(What)— 品種名と特徴を書く

直売所に来る消費者は、野菜や果物に詳しい人ばかりではありません。品種の情報を添えることが、商品を手に取ってもらう第一歩になります。

品種が複数ある場合は、品種名とそれぞれの特徴を一覧にすると、お客様が商品を比較できるようになります。特に果物は単価が高く好みも分かれやすいため、比較できるPOPがあると選びやすくなります。品種が複数出回る野菜については、直売所側が選ぶためのPOPを用意することも有効です。スーパーではこうしたPOPはなかなか見られないため、買い物体験そのものの差別化にもつながります。

2-2. 調理提案(How)— 凝ったレシピは要らない

ここで多くの生産者が構えすぎてしまいます。しかし複雑なレシピは求められていません。普段どおりの食べ方をそのまま書けば十分です。「簡単・手軽でおいしい」という食べ方を紹介し、ゆでる・炒める・煮るなど調理の方向性だけでも分かれば、お客様は手に取りやすくなります。品種情報に加えて、食べ方・下ごしらえの方法・レシピを併せて提供することが有効とされています。

応用として、その野菜を仕入れている地元飲食店とのコラボレシピを掲示する方法もあります。飲食店側のアピールにもなり、地域とのつながりを可視化できます。

2-3. 栽培背景(Why)— 誇張せず、あるがままに

マルシェや直売所で購入する醍醐味は、農家の考えや想いにふれられることにあります。普段から大事にしていることを書けばよく、無理に誇張する必要はありません

また、農業に関わる地域文化の発信も、直売所が取り組むと売り場が楽しくなり、農家とのつながりをアピールできる要素になります。

2-4. 生産者情報(Who)— 指名買いの起点をつくる

生産者を明確に区別できるようにすることは重要です。具体的には、顔写真付きのPOPを商品に隣接して置く、パッケージに「◯◯農園」と生産者名を印字する、といった工夫が挙げられます。

実際、生産者名が識別できる仕組みでは、おいしい野菜を見つけた消費者が「次も同じ人の作った野菜を買おう」と探して購入するという行動が報告されています。生産者への手紙を持参した消費者もいたといいます。これが指名買いの実態です。

なお、JAや行政が関わる直売所では、公平性の観点から一部の生産者だけPOPを作るのが難しいという事情もあります。ただしそれは供給側の都合であって、消費者の利便性とは関係がないという指摘があることも押さえておきたい点です。 表2:4つの情報レイヤーと記載例の方向性

レイヤー問いの形書く内容の方向性
What(商品説明)これは何か品種名、品種ごとの特徴、比較一覧
How(調理提案)どう食べるか普段どおりの簡単な食べ方、調理の方向性、下ごしらえ
Why(栽培背景)なぜこう作るか普段大事にしていること、地域文化
Who(生産者情報)誰が作ったか生産者名、顔写真、農園名

表示ルール:POPで「書いてはいけない」表現

ここは本記事で最も注意していただきたいセクションです。POPは自由な表現の場ではなく、法令とガイドラインの制約下にあります。

3-1. バラ売りでも「名称」と「原産地」の表示が必要

食品表示基準において、一括表示を行う対象は「容器に入れ、または包装されたもの」です。そのため直売所での量り売り・バラ売りは一括表示の対象外となり、一般の生鮮食品として①名称、②原産地の2点が掲示してあればよいことになります。

具体的には、生鮮食品をばら売りする場合、名称と原産地を表示した立て札などを食品に近い場所に掲示します。容器包装に入れられていない生鮮食品は、製品に近接した掲示その他の見やすい場所に、立て札やPOP等で表示することになります。ダンボールに入れたまま販売する場合は、そのダンボールに名称と原産地が表示されていれば表示の代わりとみなされます。

名称はその内容を表す一般的な名称を表示します。原産地は国産品であれば都道府県名を表示し、市町村名その他一般に知られている地名を原産地として表示することもできます(例:「大根(東京都)」「りんご(青森県産)」「みかん(土佐)」)。

なお、生産したその場で生産者自らが販売する場合(例:果樹園)は生鮮食品の表示義務の対象外とされています。しかし直売所は「生産した場所」ではないため、この特例は原則として当てはまりません。

3-2. 「無農薬」「減農薬」はPOPに書けない

これは知らずに書いてしまう生産者が非常に多い項目です。農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」では、「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」の表示は表示禁止事項とされ、これらの語は使用できません。「無化学肥料」等の文字を冠した表示や、そのまま使用する場合も含まれます。

禁止された理由は明確です。生産者にとって「無農薬」は「生産過程等において農薬を使用しない栽培方法により生産された農産物」を指す表示でしたが、消費者は「土壌に残留した農薬や周辺ほ場から飛散した農薬を含め、一切の残留農薬を含まない農産物」と受け取っており、優良誤認を招いていました。また「減農薬」は、比較の基準・削減割合・何が削減されたのか(使用回数か残留量か)がいずれも不明確で、消費者にとって曖昧な表示でした。

そのため、区分ごとの名称は「特別栽培農産物」という一括りの名称に統一され、化学合成農薬等使用資材の節減割合や使用していない旨を表示することとされました。

「特別栽培農産物」と表示するには、その農産物が生産された地域の慣行レベルに比べて、①節減対象農薬の使用回数が5割以下、②化学肥料の窒素成分量が5割以下という基準を満たす必要があります。

栽培期間中に農薬または節減対象農薬・化学肥料(窒素成分)を使用していない場合は、その旨を追加して表示することになります。実務上は「栽培期間中節減対象農薬不使用」「栽培期間中化学肥料(窒素成分)不使用」といった表現が適当とされています。 表3:POPにおけるNG表現とOK表現

NG表現OK表現の方向性
無農薬栽培期間中節減対象農薬不使用
減農薬特別栽培農産物(節減割合を併記)
無化学肥料栽培期間中化学肥料(窒素成分)不使用
減化学肥料特別栽培農産物(節減割合を併記)

なお、このガイドラインは関係者の自発的な行動によって守られる性格のものであり、ガイドライン自体には罰則がありません。しかし、消費者から照会や苦情が寄せられた場合、包装容器類に氏名や連絡先等を表示した栽培責任者などが第一義的に責任を負うことになります。「罰則がないから書いてよい」という話ではないという点は、明確に区別してください。

3-3. 表示義務違反には罰則がある

ガイドラインとは別に、食品表示基準を守らなかった場合は食品表示法違反となります。指示命令と公表、命令違反の場合は食品の回収や業務停止命令、1年以下の懲役または100万円以下の罰金(法第20条)、法人は1億円以下の罰金などの罰則に処されます。

また、加工品を扱う場合は景品表示法を所管する消費者庁の管轄となり、農産物とは判断の枠組みが異なります。判断に迷う表現は、所管の保健所や消費者庁への確認をおすすめします。

手書きか、印刷か

直売所に設置するPOPは、市販の定型文のものやパソコンで印刷したものよりも手書きの方が有効とされています。実際、直売所を複数展開する事業者では、すべての商品において生産者別・品目別に手書きPOPが付けられ、売り場のスタッフが手を入れている事例があります。

一方で、手書きには手間がかかるというデメリットがあります。パソコンのソフトやアプリを使えば手間は減りますが、生産者の想いは伝わりづらくなるという指摘もあります。

負担を下げる方法として、POPのフォーマットをあらかじめ用意しておくアプローチが報告されています。ある道の駅での研修では、フォーマットを提示して土台を作った状態でPOPを作成してもらった結果、8〜9割の生産者が約2時間で1枚を完成させたといいます。

また、近年は種苗メーカー各社がPOPをネット上でダウンロードできるようにしています。品種を開発したメーカーが作成しているため、品種特性の記述には信頼が置けます。自作にこだわらず、こうした素材を土台にするのも現実的な選択です。

情報を伝える3つの経路

お客様に情報を伝える方法は、大きく3つに整理されています。

  1. 店頭でお客様が購入する際に見てもらうPOP
  2. さまざまな情報を把握している店頭スタッフによる会話説明
  3. 野菜のパッケージへの印字など、商品自体に情報を載せる方法

POPは3つのうちの1つにすぎません。パッケージ印字と組み合わせることで、購入後も生産者名が消費者の手元に残ります。指名買いを狙うなら、この組み合わせが効いてきます。

なお、直売所の店頭POPの設置やデザインは基本的には出荷農家に任されているケースが多い一方、直売所側で用意できるものもあります。まずは出荷先の直売所に、どこまでが自分の裁量なのかを確認するところから始めてください。

まとめ

  • 直売所の安値は供給過多という構造から生まれる。値下げは対症療法にすぎない
  • 農産物は見た目と名前だけでは価値が伝わらない。POPは販売員の代わりとして機能する
  • POPにはWhat(品種)・How(食べ方)・Why(栽培背景)・Who(生産者)の4層を載せる
  • 調理提案は複雑なレシピ不要。調理の方向性が分かるだけで手に取られやすくなる
  • 「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」はガイドライン上の表示禁止事項。「栽培期間中節減対象農薬不使用」等の表現に置き換える
  • バラ売りでも名称と原産地の掲示は必要
  • POPは手書きが有効とされるが、フォーマット化や種苗メーカー素材の活用で負担は下げられる

価格を下げずに選ばれる売り場は、一枚のPOPから始まります。まずは1品目、1枚から着手してみてください。

参考文献