米価の高止まりが続く一方で、令和9年度からは水田政策そのものが根本的に見直される見通しです。転作を続けるにしても、「どの品目なら採算が取れるのか」を、感覚ではなく数字で押さえておきたいところです。
本記事では、水田の転作候補となる品目を10aあたりの利益ベースで横並びに比較します。ポイントは、利益を「交付金を除いた作物本体の採算」と「交付金を含めた手取り」の両面で見ることです。交付金の見直しが議論される局面だからこそ、この2つを分けて捉えることが、品目選びの判断材料になります。
なお、地域・単収・契約条件によって実際の採算は変動しますので、あくまで採算の「感覚」をつかむための比較としてお読みください。
なぜ今、10a利益を「交付金の内と外」で見るのか
2025年11月に財務省の財政制度等審議会に提出された資料では、水田政策の見直し方針があらためて整理されました。2025年4月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」では、令和9年度から水田活用の直接支払交付金を「作物ごとの生産性向上等への支援へと転換する」という方針が示されています(出典1)。
飼料用米への交付単価は、すでに段階的な引き下げが決まっています。一般品種の標準単価は、令和7年度が7.0万円/10a(5.5〜8.5万円)、令和8年度が6.5万円/10a(5.5〜7.5万円)と、年を追って下がる設計です(出典1)。
ここで重要なのは、交付金に支えられている品目ほど、交付金が縮小したときに採算が揺らぐという点です。だからこそ、「交付金を除いた作物本体でどれだけ残るか」と「交付金を含めた最終的な手取り」を分けて見る必要があります。次章から、実際の数字で確認していきます。
一次資料でみる転換作物の10a所得(令和7年度)
財務省資料には、主食用米と主な転換作物について、10aあたりの販売収入・経営費・所得・交付金を並べた比較が掲載されています。これは農林水産省の統計をもとにした令和7年度の数値で、交付金の内訳まで示されている貴重なデータです(出典1)。
以下は、その資料に記載された数値を整理したものです(単位:千円/10a)。資料上、単位未満の四捨五入により内訳と合計が一致しない場合がある旨が注記されています。
| 品目 | 販売収入 | 経営費 | 販売所得 (交付金を除く) | 水田交付金 | ゲタ交付金 | 合計の目安 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 主食用米 | 124 | 104 | 約20〜31 | — | — | 約124 |
| 飼料用米(標準単収) | 16 | 90 | — | 89 | — | 約106 |
| 小麦 | 17 | 115 | — | 39 | 42 | 約135 |
| 大豆 | 22 | 52 | — | 50 | 56 | 約106 |
| WCS用稲 | 20 | 76 | — | 86 | — | 約106 |
出典1(財務省 財政制度等審議会 資料4、2025年11月7日)掲載の「主食用米・転換作物の所得比較(令和7年度)」より作成。単位:千円/10a。数値は資料記載値を引用。四捨五入により内訳と合計は必ずしも一致しない。
この表から読み取れることは明確です。麦・大豆・飼料用米・WCS用稲といった土地利用型の転換作物は、販売収入だけでは経営費すら賄えず、交付金によって初めて主食用米並みの水準(合計で10aあたり約10万円)に達しているという構造です。
財務省資料でも、これらの土地利用型作物について「水田を前提にその年々の転作を助成する水田活用の直接支払交付金等」が過去10年間で1,000億円以上増加したことが問題として指摘されており、令和9年度以降は「広く薄い財政支援」からの転換が検討されていると記されています(出典1)。つまり、交付金前提の採算は、今後の制度変更リスクを抱えているということです。
交付金単価を正確に押さえる
両建てで採算を試算するには、交付金の単価を正確に押さえておく必要があります。令和7年度の水田活用の直接支払交付金(戦略作物助成)の単価は、以下のとおりです(出典1・出典2)。
| 対象作物 | 交付単価 |
|---|---|
| 麦、大豆、飼料作物 | 35,000円/10a |
| WCS用稲(稲発酵粗飼料) | 80,000円/10a |
| 加工用米 | 20,000円/10a |
| 飼料用米、米粉用米 | 収量に応じ 55,000〜105,000円/10a |
出典2(茨城県農業再生協議会「水田活用の直接支払交付金」)および出典1より作成。
このほか、地域が単価を設定できる産地交付金があり、そば・なたね・新市場開拓用米の作付けに20,000円/10a、飼料用米・米粉用米の複数年契約(3年以上)に12,000円/10aなどが設定されています(出典2)。
さらに、高収益作物への転換を後押しする加算として、高収益作物等拡大加算30,000円/10aなどが用意されています。加工用米も、この「高収益作物等」に含まれます(出典2)。
加工用・業務用野菜と契約栽培という選択肢
土地利用型作物が交付金頼みになりがちな一方で、加工・業務用向けの野菜を契約栽培するという選択肢は、性格がまったく異なります。
農畜産業振興機構(alic)の2025年の資料によれば、加工原料需要と業務用需要を合わせた「加工・業務用需要」は、野菜需要全体の約56%(2020年度)を占め、そのうち32%を輸入品が占めています(出典3)。この輸入分を国産に置き換えることを目指すのが、農林水産省の「国産野菜シェア奪還プロジェクト」です。
契約栽培が転作候補として注目される理由は、価格の安定性にあります。alic資料は、加工・業務用取引の特徴として「定時・定量・定質・定価」を挙げ、用途別・品目別に一定の幅を持った目安となる取引価格(単価)が、契約価格として事前に設定されることが多いと説明しています(出典3)。
市場価格の変動に一喜一憂する露地野菜の相対取引と比べ、契約栽培はあらかじめ決まった価格で数量を引き取ってもらえるため、経営の見通しが立てやすいという利点があります。alic資料は、こうした契約取引において「低コスト化によって生じた差額分を生産者の所得増加へつなげることが大切である」とも指摘しており、生産性を高めた分がそのまま手取りに反映されやすい構造である点も、交付金頼みの品目との大きな違いです(出典3)。
一方で、加工・業務用向けには相応の対応も求められます。alic資料は、カット野菜・冷凍野菜の原料では加工歩留まりを高めるための大型規格が必要になることや、キャベツ・レタスでは内部品質、ほうれんそう・ブロッコリーなどの冷凍原料では異物混入への対応が重要になることを挙げています(出典3)。契約栽培は「安定」の裏側に、実需者の求める品質・規格を満たす生産管理が前提になる、という点は押さえておく必要があります。
高収益作物への転換事例
実際に水田から高収益作物・契約栽培へ転換した産地の事例は、農林水産省が「高収益な農業の実現に向けた取組事例集」として公表しています(出典4・出典5)。
事例集には、加工・業務用野菜の需要に対応した全国規模での契約栽培に取り組む茨城県の事例や、畑地かんがいを活かしたキャベツ(千葉県銚子市)、たまねぎのブランド化と輸出(兵庫県南あわじ市)、アスパラガス導入による法人経営の展開(広島県東広島市)などが収録されています(出典4・出典5)。
これらは、いずれも「交付金に依存しない作物本体の収益力」で経営を成り立たせる方向を示す事例といえます。品目選定の際には、こうした先行事例で、どの品目がどの地域・条件で成立しているかを確認しておくと参考になります。
品目選定の判断軸
ここまでの一次資料を踏まえると、転作品目を選ぶ際の判断軸は、次のように整理できます。
(1)交付金への依存度を下げられるか。 麦・大豆・飼料用米は交付金で主食用米並みの水準に達しますが、令和9年度以降の制度見直しリスクを抱えます(出典1)。交付金抜きでも採算が立つ品目ほど、制度変更に強い経営になります。
(2)契約で価格を固定できるか。 加工・業務用野菜の契約栽培は、事前に取引価格が決まるため価格変動リスクが小さく、低コスト化の成果を手取りに反映しやすい構造です(出典3)。
(3)求められる品質・規格に対応できるか。 契約栽培は大型規格や内部品質、異物混入対策など、実需者側のニーズへの対応が前提になります(出典3)。導入前に、自地域の生産体制で対応可能かを見極める必要があります。
個人農家であれば労働時間あたりの収益と初期投資、規模拡大を志向する法人・担い手であれば規模適性と交付金縮小への耐性が、それぞれ重視すべきポイントになります。
まとめ
転作品目の採算は、「交付金を除いた作物本体の所得」と「交付金を含めた手取り」の両面で見ることで、はじめて実像が見えてきます。財務省資料が示すとおり、麦・大豆・飼料用米などの土地利用型作物は交付金によって採算が支えられており、令和9年度からの制度見直しはその前提を揺るがしかねません(出典1)。
一方、加工・業務用野菜の契約栽培は、価格の安定性と、生産性向上が手取りに反映されやすい構造という点で、交付金縮小の局面において相対的な優位が高まる選択肢といえます(出典3)。
本記事の数値はいずれも全国・標準的な条件に基づく目安です。実際の品目選定にあたっては、自地域の単収・契約単価・産地交付金の設定を当てはめて、あらためて試算し直すことをおすすめします。
参考文献
財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会 資料4「農林水産」(2025年11月7日)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20251107/04.pdf
茨城県農業再生協議会「4 水田活用の直接支払交付金」
https://www.ibaraki-suiden.jp/project/keiei-antei/4suiden-katsuyo/
農畜産業振興機構(alic)小林茂典「加工・業務用野菜の生産・供給拡大に向けた取り組みの方向」野菜情報2025年4月号
https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/wadai/2504_wadai1.html
農林水産省「高収益な農業の実現に向けた取組事例集」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kousyueki-zirei.html
農林水産省「高収益な農業の実現に向けた取組事例集(第2弾)」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kousyueki2-zirei.html
