農地付き空き家の改修費・維持費はいくら?取得後の支出全体像

「物件価格は数十万円と安いのに、住み始めてから想定外の出費が続く」——農地付き空き家では、こうした声が少なくありません。安さの裏には、価格表には載らない取得後コストが隠れているからです。

この記事では、移住就農を検討している方に向けて、農地付き空き家を取得したあとに効いてくる支出を「改修費」「住宅の維持費」「農地の維持コスト」の3層に分けて整理します。あわせて使える補助金・支援制度、取得前に総額を見積もる手順も解説します。取得判断は物件価格ではなく、取得後の総支出で考える——これが本記事を通じてお伝えしたい視点です。

なお、本記事で示す金額は民間メディアや行政資料で公表されている相場・目安であり、地域や物件の状態によって大きく変動します。実際の費用は必ず現地調査と見積りで確認してください。

なぜ「取得後コスト」を見落とすのか

農地付き空き家が安く出回る背景には、人口減少・少子高齢化に伴う空き家や遊休農地の増加という構造的な事情があります。国土交通省は、都市からの移住者に対して空き家と隣接農地をセットで提供する「農地付き空き家」の取組を、地方創生や地域の活力維持につながるものとして位置づけ、自治体職員や関係者向けに手引きを公表しています。

また内閣官房は、農山村地域等における農地付き空き家等を活用した移住促進を支援するため、取引の円滑化を図る「既存住宅活用農村地域等移住促進事業」を創設しています。こうした制度が整うほど物件は動きやすくなりますが、安く取得できることと、取得後に費用がかからないことは別問題です。

取得後にかかる支出は、大きく次の3層に分けて考えると全体像がつかめます。

図表1:農地付き空き家の「取得後コスト」3層構造

いつかかるか主な内容
①改修費取得時(一時)水回り交換、内装、耐震・断熱、設備更新
②住宅の維持費毎年(継続)固定資産税、光熱費基本料、火災保険、修繕
③農地の維持コスト毎年(継続)草刈り・除草、遊休農地化リスクへの対応

改修費 ― 取得時にまとまってかかるお金

移住就農者が最初に直面する大きな山場が改修費です。費用は物件の状態によって大きく変わります。

築年数が浅く空き家になってからの期間が短い場合は、水回りの交換やクロス・床の張り替えといった部分的なリフォームで済むこともあり、その場合は200万〜500万円程度が目安とされています。一方、築年数が古く長年空き家だったケースでは、耐震補強や断熱改修を含む大がかりな工事が必要になりがちで、1,000万円以上、構造の劣化状態によっては2,000万円を超えることも、あるいは「リフォームはできず建て替えが必要」と判断されることもあります。

建物全体を改修する場合、一般的な費用相場は500万〜2,000万円の範囲、工期は3〜4カ月程度とされています。

改修の規模主な工事内容費用の目安
部分改修水回り交換、クロス・床張り替え200万〜500万円程度
建物全体の改修全面的な改修500万〜2,000万円
大規模改修耐震補強・断熱改修を含む1,000万円以上(2,000万円超も)

出典:リフォームガイド、ワケガイ

古民家・田舎物件に特有の改修コスト

移住就農で取得する物件には、築古の古民家が含まれることも多くあります。古民家では耐震補強や断熱工事、大幅な間取り変更などで工事が大規模になり、費用も大きくなりがちです。

費用の内訳の目安として、現代の耐震基準に合わせるための工事に150万〜200万円程度、断熱性能の向上におおよそ300万円程度が見込まれ、水回りの交換や間取り変更を含む大規模リノベーションでは平均1,500万円程度、工事箇所が多く規模が大きい場合は総費用2,000万〜3,000万円に達することも珍しくないとされています。

行政資料でも、古民家の改修の実態が示されています。長野県の古民家等活用マニュアルによれば、調査対象の古民家は耐震改修工事前の耐震性能(総合評点)が平均0.48(大地震で倒壊する可能性が高い水準)で、全体工事費は平均約393.8万円(同時に実施したリフォーム費用等を含む)でした。同マニュアルは、不特定多数が利用する施設に用途変更する場合、建築基準法や消防法の防火・避難関係の規定が適用され、多額の改修費用が必要になる点にも触れています。

いずれの数値もあくまで目安であり、実際の費用は物件の状態を見ないと確定しません。リフォーム会社に現状を確認してもらい、複数社から見積りを取ることが基本です。

住宅の維持費 ― 毎年じわじわ効く固定費

改修が終わっても支出は終わりません。住み続ける限り、あるいは所有し続ける限り、毎年かかるランニングコストがあります。空き家の維持管理にかかる費用は項目が多く、特に税金・光熱水費・保険料といった固定費の負担が大きいとされています。

項目別の目安は次のとおりです。固定資産税は年間8万〜15万円、都市計画税は年間1万5,000〜3万円、水道光熱費は年間2万〜4万円程度、火災保険料は年間1万〜6万円が目安とされ、これらを合わせた維持費用はおおよそ年間18万5,000〜28万円という試算があります。別の解説では、所有しているだけで年間30万円以上は必要という水準が目安として示されています。

項目年間の目安備考
固定資産税8万〜15万円評価額 × 1.4%
都市計画税1万5,000〜3万円評価額 × 0.3%(市街化区域)
水道光熱費2万〜4万円程度解約しなければ基本料金が発生
火災保険料1万〜6万円補償内容による
合計の目安年間18.5万〜28万円 / 30万円以上地域・物件により変動

出典:オープンハウス、AlbaLink、アキサポ

ここで見落としやすいのが水道光熱費の基本料金です。上水道・下水道、電気、ガスは、使っていなくても解約していなければ基本料金がかかります。清掃や管理で現地に通ううちは解約しづらく、二拠点生活の期間はこの固定費が続きます。

さらに注意したいのが、放置による税負担の増加です。適切に管理せず「特定空き家」に指定されると、固定資産税が最大で6倍になるリスクがあります。維持費は「払う」だけでなく「放置するとさらに膨らむ」性質があることを押さえておきましょう。

農地の維持コスト ― 空き家維持費に隠れがちな「第4の支出」

ここが農地付き空き家ならではのポイントです。住宅の維持費だけを見積もって、農地の管理コストを忘れてしまうケースが少なくありません。

草刈り・除草の負担

庭のある一軒家でも年2〜4回程度の草刈りや剪定が必要で、専門業者に依頼すると1回あたり3〜5万円程度、年間では10万円以上になるケースもあるとされています。農地が付けば、この管理対象がさらに広がります。

農地の維持管理では、畦畔(あぜ道)や農用地の法面の草刈りが欠かせません。農林水産省の多面的機能支払交付金の解説でも、農地維持活動の内容として、遊休農地の発生防止、畦畔・農用地法面・防風林等の草刈り、施設の適正管理などが挙げられています。取得した農地を耕作しない期間も、管理の手は必要になるという点は、移住就農のスケジュールを組むうえで重要です。

遊休農地化がもたらすペナルティ

雑草を放置し続けると、行政から「耕作放棄地(遊休農地)」と認定されるリスクがあります。これは名称の問題にとどまりません。適切な管理がなされていないと判断されると、固定資産税の農地評価(税の優遇措置)が解除される可能性があり、その結果、固定資産税が約1.8倍、場合によっては原野や雑種地並みの税額に跳ね上がるリスクがあるとされています。

さらに、一度荒廃して再生困難とみなされると、農地法上の売買許可が下りにくくなり、売りたくても売れない・貸したくても借り手がいない「負動産」化が進むおそれもあります。農地は「持っているだけ」で管理責任が発生し、放置するほど価値も選択肢も失われる——これが住宅の維持費に隠れがちな第4の支出の正体です。

放置による影響内容
税負担の増加農地評価が解除され固定資産税が約1.8倍になる可能性
流動性の低下再生困難とみなされると売買許可が下りにくくなる(負動産化)
周辺への影響遊休農地の発生。管理活動として草刈り等が必要

出典:GMO不動産査定、農林水産省 多面的機能支払交付金 解説

使える補助金・支援制度

ここまで見てきた支出は、制度をうまく使うことで一部を軽減できる可能性があります。取得・改修・農地維持・就農の各フェーズで活用しうる制度を整理します。ただし制度の有無・要件・金額は地域によって大きく異なるため、最終的には必ずお住まい予定の自治体・農業委員会・土地改良区に確認してください。

取得・移住のフェーズ

内閣官房の「既存住宅活用農村地域等移住促進事業」は、農地付き空き家等を活用した移住促進を支援し、取引の円滑化を図る制度です。移住者による既存住宅の取得等について、都道府県知事等が都市計画法等の許可処分にあたって適切に配慮するなどの措置が設けられています。

また、農地取得のハードルそのものも下がっています。令和5年4月1日に施行された農地法等の改正により、農地の権利取得時の下限面積要件が廃止されました。これにより小規模な農地付き物件が取得しやすくなっています。

農地維持のフェーズ

農林水産省の多面的機能支払交付金は、地域の共同活動として、農地の法面・畦畔・農道・ため池周りの草刈り等を対象としうる制度です。加えて、自治体によっては独自の草刈り助成を設けている場合もあります。補助の有無・要件・金額は地域差が大きいため、農地の草刈りに使える補助があるか、市区町村・農業委員会・土地改良区に確認するのが確実です。

就農のフェーズ

就農に向けては、研修中の生活を支える資金制度があります。就農準備資金(新規就農にあたり研修を受ける人向け)は、農業大学校や先進農家等で研修を受ける場合に、研修期間中に年間最大150万円を最長2年間交付する制度です(就農予定時49歳以下であることなどの要件があります)。

なお、農林水産省の2026年度当初予算では、新規就農を促進するため、就農準備資金と経営開始資金の助成が増額されるなどの動きが報じられています。制度は年度ごとに内容が変わりうるため、申請を検討する際は交付機関の最新情報を必ず確認してください。

フェーズ制度・支援ポイント
取得・移住既存住宅活用農村地域等移住促進事業取得等の円滑化に向けた配慮措置
取得(農地)農地法改正(下限面積要件の廃止)令和5年4月施行。小規模農地を取得しやすく
農地維持多面的機能支払交付金/自治体の草刈り助成草刈り等が対象になりうる。地域差大
就農就農準備資金 ほか研修中 年間最大150万円・最長2年(要件あり)

出典:内閣官房、国土交通省、農林水産省、agrijob、AGRI JOURNAL

取得前チェックリスト ― 総額を見積もる手順

最後に、取得判断の前に確認しておきたいポイントを整理します。物件価格だけでなく、「改修費 + 当面の維持費 + 農地の管理費」で総額を試算するのが基本の考え方です。

  • 建物の状態を専門家に確認する:水回り・構造・老朽化の程度。改修費は物件を見ないと確定しないため、複数社から見積りを取る。
  • 住宅の年間維持費を把握する:固定資産税・都市計画税・光熱費の基本料金・火災保険。放置による特定空き家指定のリスクも念頭に置く。
  • 農地の維持コストを織り込む:草刈りの頻度と、自力管理か業者依頼か。遊休農地化による税負担増のリスクも確認する。
  • 補助金の窓口を先に押さえる:自治体・農業委員会・土地改良区に、移住・改修・草刈り・就農の各支援の有無を問い合わせる。
  • 移住・就農のタイミングと費用のかかり方を合わせる:二拠点期間は住宅の固定費と農地管理が並行して発生する点に注意。

まとめ

農地付き空き家の物件価格の安さは、あくまで入口にすぎません。勝負は取得後の総コストにあります。取得時にまとまってかかる改修費、毎年じわじわ効く住宅の維持費、そして見落とされがちな農地の維持コスト——この3層を早めに把握し、使える補助金・支援制度を組み合わせれば、移住就農の資金計画は現実的に描けます。

本記事の金額はいずれも目安であり、地域や物件の状態で大きく変わります。取得を具体的に検討する段階では、必ず現地調査・見積りと、自治体窓口への確認を行ってください。

参考文献

  • 国土交通省「『農地付き空き家』の手引き」(平成30年3月作成、令和6年10月改訂) 
  • https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk2_000095.html
  • 内閣官房 地方創生推進事務局「農地付き空き家関連(既存住宅活用農村地域等移住促進事業)」 
  • https://www.chisou.go.jp/tiiki/tiikisaisei/nouchitukiakiya.html
  • 農林水産省「多面的機能支払交付金 農地維持活動 解説」(PDF) 
  • https://www.maff.go.jp/j/nousin/kanri/pdf/27_iji_kaisetsu.pdf
  • 長野県「古民家等活用マニュアル(古民家等の改修における課題)」(PDF) 
  • https://www.pref.nagano.lg.jp/kenchiku/kominka/documents/3-kadai.pdf
  • アキサポ「空き家維持にかかる年間費用は?」 
  • https://www.akisapo.jp/column/3025/
  • オープンハウス「空き家の維持費用は年間いくら?費用の内訳と相場を徹底解説」 
  • https://kaitori.openhouse-group.com/column/knowledge/081/
  • AlbaLink「空き家の維持費は年間30万円以上!内訳と放置のリスク・節約術」 
  • https://akiya-kaitoritai.com/vacant_house_maintenance_costs/
  • ALSOK「空き家の維持費は年間いくら?空き家を持ち続ける費用とリスク」 
  • https://www.alsok.co.jp/person/recommend/2332/
  • リフォームガイド「空き家リフォーム(リノベーション)費用や注意点、補助金を解説」 
  • https://www.reform-guide.jp/topics/akiya-reform/
  • ワケガイ「空き家のリフォームではどのくらいの費用が必要?補助金も合わせて解説」 
  • https://wakegai.jp/column/akiya/vacant-house-renovation/
  • タウンライフ「古民家リノベーションの費用相場は?費用を安く抑える方法まで解説!」 
  • https://www.town-life.jp/land/media/col_akiya/old-house-renovation/
  • GMO不動産査定「休耕地の雑草対策|除草・防草・花を植える(グランドカバー)など方法を解説」 https://e-estate.jp/media/estate-sale/blog/13210/
  • agrijob「【2026年最新版】農業で使える補助金・助成金まとめ」 
  • https://agrijob.jp/contents/myagri/assistance-payment
  • AGRI JOURNAL「農業を地方に移住してやりたい!就農の方法と使える補助金を徹底解説!」 
  • https://agrijournal.jp/farmer/80260/