「クラインガルテン」という言葉を、はじめて目にする方も多いかもしれません。ドイツ語で「小さな庭」を意味するこの言葉は、日本では宿泊できる小屋(ラウベ)が付いた「滞在型市民農園」を指します。日帰りで畑仕事をするだけの一般的な市民農園とは異なり、泊まりながら菜園やガーデニングを楽しめるのが最大の特徴です。
畑付きの拠点に泊まれるという仕組みは、いま二拠点生活を考える方、ノマドワーカー・リモートワーカー、老後の過ごし方を模索する方、そしてロンジェビティな思考を大切にしたい方にとって、暮らしを一度に変えずに試せる「もうひとつの拠点」として注目されています。この記事では、クラインガルテンの成り立ちから制度のしくみ、費用や利用条件までを紹介します。
クラインガルテンとは何か
1-1. 「小さな庭」=ラウベ付きの市民農園
クラインガルテン(Kleingarten)は、ドイツ語で「小さな庭」を意味します。日本では「滞在型市民農園」や「宿泊施設付き市民菜園」として整備が進んでおり、菜園の区画に加えて「ラウベ」と呼ばれる小屋が併設されている点が特徴です。別荘やセカンドハウスのような感覚で借りることができ、プチ田舎暮らし・スローライフを体験してみたい人に向いた仕組みとされています。
茨城県八千代町の「クラインガルテン八千代」を例にとると、滞在型の区画は1区画あたり約270平方メートル(約81坪)の土地に、約29平方メートルのラウベが整備され、ラウベには水道・電気・お風呂・トイレが完備されています。同じ施設内には、ラウベのない日帰り型(約25平方メートルの農園のみ)も用意されています。
1-2. 一般的な市民農園(日帰り型)との決定的な違い
日本の市民農園の多くは、日帰りで通う「区画を借りて野菜を育てる」タイプです。クラインガルテンがこれと決定的に違うのは、「泊まれる」ことにあります。ラウベという滞在施設を拠点に、週末やまとまった休みを農園で過ごすことができます。下の表で、両者の違いを整理します。
| 項目 | 日帰り型市民農園 | 滞在型(クラインガルテン) |
|---|---|---|
| 宿泊 | できない | できる(ラウベに滞在) |
| 付帯施設 | 農園のみが基本 | ラウベ(水道・電気・風呂・トイレを備える例あり) |
| 区画の広さの例 | 約25平方メートル程度の例 | 約270〜500平方メートルの例 |
| 主な使い方 | 通いで野菜づくり | 滞在しながら菜園・ガーデニング・田舎暮らし体験 |
出典:クラインガルテン八千代(八千代町)、クラインガルテン栗源(香取市)、南アルプスクラインガルテン取材記(田舎暮らしの本Web)をもとに作成。区画の広さ・設備は施設ごとに異なります。
1-3. 発祥にある「健康」という原点
クラインガルテンはドイツ発祥の制度です。産業革命によって都市が急速に発展したドイツでは、庭用スペースの減少による生活環境の悪化が問題となり、市民のための緑地空間として農園制度が考案されました。1864年にはライプツィヒで、整形外科医のシュレーバーに由来する「シュレーバーガルテン」と呼ばれる農園運動が広がっていきます。その背景には、都市労働者の健康回復や、子どもたちが安全に自然と触れ合える場をつくるという動機がありました。
その後、1919年にクラインガルテン法が制定され、非営利の賃貸農園として整備が進みます。健康増進や子どもの教育に役立てるという目的で確立された制度は、ドイツ各地へと広まりました。現在のドイツでは、屋外で作業する時間が増えることで市民が健康になり、医療費の削減にもつながるという文脈でも語られています。
つまりクラインガルテンは、もともと「健康のために生まれた仕組み」だといえます。土に触れ、体を動かし、自然のなかで過ごすという営みが制度の原点にあることは、健康的な暮らしを大切にしたい現代の私たちにとっても、自然に響く部分ではないでしょうか。
なぜ今、4つのライフスタイルに向いているのか
ここからは、クラインガルテンが具体的にどんな暮らし方の受け皿になり得るのかを、4つのタイプ別に見ていきます。
2-1. 二拠点生活を検討している方へ
二拠点生活に興味はあっても、「いきなり移住して大丈夫だろうか」という不安はつきものです。クラインガルテンは、いまの暮らしを手放さずに、もうひとつの拠点を試せる中間解になり得ます。
実際に、山梨県南アルプス市の「南アルプスクラインガルテン」の利用者からは、「すぐに動ける場所として選んだ」「移住のステップとしては最適の環境」という声が紹介されています。この施設には最長5年という利用期限があり、これは裏を返せば「期間を区切ってじっくり試せる」ということでもあります。将来的な移住や別荘取得を見据えた“お試し期間”として活用しやすいのです。
この「お試し」としての効果は、調査でも裏付けられています。茨城県笠間市の「笠間クラインガルテン」の利用者を対象とした研究では、約1割が二地域居住に「非常に積極的」、約5割が「積極的」と回答しており、農園が提供する環境が魅力的な居住の選択肢として受けとめられていることが示されています。実際にこの農園の利用をきっかけに、二地域居住や移住へと進んだ人もいます(詳しくは後半のケーススタディで紹介します)。
2-2. ノマドワーカー・リモートワーカーの方へ
ラウベに電気・水道・トイレ・お風呂が備わっている施設であれば、そこは単なる休憩小屋ではなく、滞在しながら作業もできる拠点になります。
南アルプスクラインガルテンの取材記事では、コロナ禍で在宅の仕事が増えたことをきっかけに利用を始めた例が紹介されています。リモートワークと自然のなかでの菜園づくりを両立させる暮らし方は、働く場所を選ばない人にとって現実的な選択肢です。首都圏から通える距離にある施設もあり、「平日は都市、週末は畑のある拠点」といった使い分けもしやすくなっています。
笠間クラインガルテンの利用者調査でも、農作業のかたわら、休憩時間や作業を終えた後の時間を使ってリラクゼーションやリモートワークなど多様な活動が行われていることが確認されています。この研究は、クラインガルテンが単なる農業体験の場にとどまらず、農園生活の延長として「居住体験の場」としても機能していると指摘しています。
2-3. 老後の過ごし方を考えている方へ
定年後の時間の使い方として、菜園づくりは無理なく続けられる日課になります。前述の取材記事では、定年退職後に利用を始め、5年目を迎えた70代の利用者の例が紹介されています。現役時代から区民農園で野菜づくりをしていた方が、リタイア後に本格的に菜園ができる場所としてクラインガルテンを選んだというエピソードです。
また、香取市の「クラインガルテン栗源」のように、地元の農家がインストラクターとして栽培方法や管理の仕方を指導してくれる施設もあります。農作業の経験がなくても始めやすく、地域の人との交流も生まれます。体を動かし、人と関わり、季節を感じながら過ごす——そうしたセカンドライフの拠点として活用されています。
こうした利用のされ方は、データからも見てとれます。笠間クラインガルテンの利用者調査では、利用者の中心は60代・70代の定年退職者で、夫婦のみの世帯が主流であることが示されています。この研究は、その背景を「定年後の生活において、夫婦で共有できる趣味や活動の場としてクラインガルテンが利用されている」と説明しています。まさに、老後の時間をともに楽しむ拠点として選ばれているのです。
2-4. ロンジェビティな暮らしを大切にしたい方へ
第1章で見たとおり、クラインガルテンはそもそも都市労働者の健康回復という動機から生まれた制度です。ドイツでは、屋外で作業する時間が増えることで市民が健康になり、医療費の削減にもつながるという観点からも評価されてきました。
土いじりや屋外での作業、自然との触れ合いが日常に組み込まれる暮らしは、この制度の原点そのものです。「健康のために生まれ、健康を支えてきた仕組み」という文化的な背景は、ロンジェビティ(心身の健やかさ)を意識する人にとって、クラインガルテンを選ぶ一つの理由になるでしょう。
※本記事では、園芸や自然が健康に与える医学的な効果そのものについては扱っていません。あくまで、クラインガルテンという制度が歴史的に「健康」を目的として発展してきたという文脈を紹介しています。
利用する側から見た実際
ここでは、実際に借りる際の設備・費用・条件を、確認できている事例をもとに整理します。金額や条件は施設ごとに大きく異なるため、以下はあくまで「一例」としてご覧ください。
3-1. どんな設備があるのか
区画の広さは施設によって幅があります。確認できている例では、クラインガルテン八千代が約270平方メートル、クラインガルテン栗源が310平方メートル、南アルプスクラインガルテンが約500平方メートルとなっています。ラウベの設備も施設によって異なり、八千代の例では水道・電気・お風呂・トイレが完備されています。
3-2. 費用の目安
年間利用料の一例として、愛知県西尾市の佐久島クラインガルテンでは年間48万円という金額が報じられています。また、笠間クラインガルテンの利用者調査によれば、宿泊施設付きの区画は年間約40万円、日帰りの区画は年間約1万円とされています。ただし、これらはあくまで個々の施設の例であり、全国一律の相場ではありません。施設の設備水準や区画の広さ、立地によって料金は変わります。
なお、制度上の考え方として、農林水産省は市民農園の利用料金について「農園の円滑かつ有効な利用を考え、著しく高額とならないこと」という留意点を示しています。営利目的ではなく、多くの人が利用しやすいことが前提とされている点は、安心材料の一つといえます。
| 施設名(所在地) | 区画の広さ | ラウベ・設備/条件の例 |
|---|---|---|
| クラインガルテン八千代(茨城県八千代町) | 約270平方メートル | ラウベ約29平方メートル。水道・電気・風呂・トイレ完備 |
| クラインガルテン栗源(千葉県香取市) | 310平方メートル | ラウベ(休憩小屋)付き。地元農家が栽培指導 |
| 南アルプスクラインガルテン(山梨県南アルプス市) | 約500平方メートル | 利用は最長5年。首都圏から通える立地 |
| 佐久島クラインガルテン(愛知県西尾市) | 宿泊施設10棟(敷地7,300平方メートル) | 年間利用料48万円。年間70日以上の滞在が条件 |
| 笠間クラインガルテン(茨城県笠間市) | 宿泊施設付き50区画(1区画300平方メートル)ほか | 宿泊型の年間利用料約40万円/日帰り型約1万円。敷地全体で約4ヘクタール |
出典:各施設の公式情報および報道・研究(八千代町、香取市、田舎暮らしの本Web、日本経済新聞、付ほか2024)をもとに作成。数値は各出典の掲載時点のものです。
3-3. 利用条件・ルール
クラインガルテンには、施設ごとにいくつかの利用条件があります。よく見られるのが契約期間の上限と年間の滞在日数です。南アルプスクラインガルテンでは最長5年という決まりがあり、佐久島クラインガルテンでは年間70日以上の滞在が利用の条件とされています。
また、あくまで「滞在型の農園」であって定住(住民票を移して住むこと)を前提とした施設ではない点にも注意が必要です。ドイツのクラインガルテンでも、小屋での短期間の宿泊は認められる一方で、そこに住むことは禁止されています。この「暮らしの拠点ではあるが、定住地ではない」という性格が、二拠点生活やお試し移住と相性が良い理由でもあります。
3-4. 探し方・申し込みの流れ
多くのクラインガルテンは、自治体や農業協同組合(農協)が募集しています。人気の施設では応募が定員を上回り、抽選・補欠になるケースもあります。佐久島クラインガルテンの例では、抽選にはずれて補欠になったものの、空き区画が出て利用を始められたという利用者の話が紹介されています。気になる地域があれば、まずは自治体の広報や農政担当課の情報を確認するのが第一歩です。
制度としての裏側を知る
「畑に小屋を建てて泊まれる」と聞くと、法律的に問題はないのかと気になる方もいるかもしれません。クラインガルテンは、きちんとした法制度に支えられた仕組みです。ここでは制度の骨格を整理します。
4-1. 日本での広がり
日本では、1990年(平成2年)の市民農園整備促進法の制定や、2005年(平成17年)の特定農地貸付法の改正などにより、都市圏の日帰り農園だけでなく、郊外や地方で休閑地を利用した宿泊型の農園が積極的に整備されるようになりました。これらの貸し農園が「クラインガルテン」という名称で親しまれ、人気を得ています。
4-2. 市民農園を支える法制度
農林水産省によると、農地の適正な利用を確保するため、市民農園にはいくつかの法制度が設けられています。主なものは以下のとおりです。
| 法制度・方式 | 概要 |
|---|---|
| 市民農園整備促進法 | 農機具収納施設や休憩施設などの付帯施設を備えた市民農園の整備を促進するための法律 |
| 特定農地貸付法 (特定農地貸付に関する農地法等の特例に関する法律) | レクリエーション等を目的とした小規模な農地の貸付けを認める特例 |
| 都市農地貸借法 (都市農地の貸借の円滑化に関する法律) | 都市農地の貸し借りを円滑にするための法律 |
| 農園利用方式 | 農地の権利移動を伴わず、農作業を行ってもらう方式 |
出典:農林水産省「市民農園の開設方法」「市民農園に関係する法律」をもとに作成。
クラインガルテンでラウベ(小屋)の設置が可能なのは、こうした法制度による特例があるためです。とくに市民農園整備促進法は、農機具収納施設や休憩施設といった農園に附帯する施設の整備を対象としており、農地に休憩・滞在のための施設を整えられる根拠となっています。
なお、農林水産省は開設手続きの留意点として、施設整備にあたっては利用者が使いやすいよう配置することや、利用形式の制限は必要最小限とすることなどを挙げています。制度は「多くの市民が気軽に農に親しめること」を基本に組み立てられているのです。
4-3. 全国の設置状況
市民農園全体の数について、関東農政局は全国の市民農園数を4,273(令和7年3月末現在)としています。このうち関東1都9県が2,263で、全国の約52%を占めます。
ただし、この数字は日帰り型を含む市民農園全体のものであり、滞在型(クラインガルテン)だけの全国総数ではありません。滞在型に限った一覧も公表されていますが、これは掲載に同意した施設を整理したもので、すべてを網羅したものではないと注記されています。【要確認】滞在型クラインガルテンの正確な全国総数については、公式の網羅的な集計を今回の参考資料からは確認できませんでした。実際に施設を探す際は、各自治体の情報を個別に確認する必要があります。
ケーススタディ:笠間クラインガルテン(茨城県笠間市)
ここまで見てきた特徴を、ひとつの施設に即して具体的に見てみましょう。取り上げるのは、東京都心から約100キロメートル圏内に位置する笠間クラインガルテンです。二地域居住・移住との関わりを調べた研究(付ほか2024)があり、この記事のテーマにぴったりの事例です。
5-1. どんな施設か
笠間クラインガルテンは、旧笠間の市街地から約5キロメートル南の本戸(もとど)地区にあり、全体の規模は約4ヘクタールです。敷地内には、1区画300平方メートルの「宿泊施設付き市民農園」が50区画、1区画30平方メートルの「日帰り農園」が50区画あるほか、クラブハウス、トレーラーハウス、キャンプサイト、バーベキュー場、農産物直売所、レストランなどが併設されています。研究によれば、2000年度に基本施設が完成し、2001年に一部開園、2002年に全体がオープンしました。
5-2. 利用者はどんな人たちか
研究の調査結果から、利用者像がはっきりと浮かび上がります。出身地は関東地方が中心で、なかでも東京都からの利用者が平均して全体の4割を超えます。年齢層は60代が中心(各年度の50%以上)で、近年は70代の割合も増加しています。職業では定年退職者が大多数を占め、家族形態は夫婦のみの世帯が主流です。
利用の仕方も、この記事のテーマと重なります。研究では、利用者が農作業だけでなく、余暇によるリフレッシュ、菜園活動、そしてリモートワークなど多様な活動を行っていることが示されています。訪問の際の所要時間は2.5時間以上かかる人が6割を超え、遠方から週末を利用して通う利用者が多いこともわかっています。栽培される作物はトマト・ジャガイモ・玉ねぎなど、比較的育てやすい野菜が中心です。
5-3. 「お試し」から二拠点・移住へ
この事例で最も注目したいのは、クラインガルテンでの経験が、実際に二地域居住や移住のきっかけになっている点です。研究では、笠間クラインガルテンを利用したのち二地域居住・移住に至った4名への聞き取りが紹介されています。
たとえばある利用者は、農園を卒業後に東京と水戸市を拠点とする二地域居住を始めており、農園が運営されていた時期に職員から住まいを紹介してもらったことが定住につながったといいます。別の利用者は、クラインガルテンを通じて知り合った地域住民から土地を借り、仲間とともに家を建てて移り住みました。さらに、移住した利用者のなかには、「移住の要因の8割はクラインガルテンでの経験だった」と語る人もいます。イベントやサークル活動を通じて地域住民との交流が生まれ、移住前後の適応の壁が低くなったというのです。
ここからわかるのは、クラインガルテンが「地域コミュニティに受け入れられる」というソフト面だけでなく、「住む場所が見つかる」というハード面の両方で、二拠点・移住を後押ししているということです。いきなり移住するのではなく、まず滞在しながら地域とつながり、そのうえで次の一歩を決める——そうした段階的な移り住み方の入口として、クラインガルテンが機能していることを、この事例はよく示しています。
5-4. 運営を担う主体の移り変わり
笠間クラインガルテンは、運営を担う主体が時代とともに変わってきた施設でもあります。研究によれば、開設当初は笠間市の農政課が管理していましたが、その後JA(農業協同組合)、一般財団法人笠間市農業公社へと移管され、2022年からは民間企業(株式会社マイファーム)が管理運営を行っています。民間企業への移管後は、キャンプサイトやバーベキュー場といった新たなサービスが加わり、若い世代を呼び込む取り組みも行われるようになりました。この変遷は、次の章で触れる「開設・運営する側の視点」を考えるうえでも参考になります。
知っておきたい現実と、開設する側の視点
6-1. 利用者側の注意点
クラインガルテンは人気の一方で、近年は空き区画が発生している施設も見られるという指摘があります。ある研究では、その背景として、中心的な利用者層である60歳前後の世代の利用者の高齢化が進んでいることや、新しいクラインガルテンが次々に開設されたことで供給が需要を上回ったことなどが理由として挙げられています。
つまり、「人気で入れない施設」と「空きがある施設」の両方が存在するのが実情です。焦って申し込む必要はなく、複数の地域・施設を比較しながら、自分の暮らし方に合う場所を選ぶのが賢明といえます。
6-2. 【補足】開設する側から見ると
最後に、自治体や事業者としてクラインガルテンを「つくる側」の視点にも少し触れておきます。
農林水産省によると、市民農園を開設する方法には4つのパターンがあります。すなわち、①市町村が開設する場合、②農業協同組合が開設する場合、③農地を所有する者(農家等)が開設する場合、④農地を所有しない者(企業・NPO等)が開設する場合です。開設にあたっては、整備・運営に関する計画を作成し、市町村の認定を受けるといった手続きが必要になります。
| 開設主体 | 該当する例 |
|---|---|
| 市町村 | 自治体が地域振興・交流促進のために開設 |
| 農業協同組合(農協) | 農協が組合員の農地等を活用して開設 |
| 農地を所有する者(農家等) | 農地の所有者が自ら開設 |
| 農地を所有しない者(企業・NPO等) | 企業やNPOなどが農地を借りて開設 |
出典:農林水産省「市民農園の開設方法」をもとに作成。
一方で、開設には相応のハードルもあります。滞在型は宿泊できるラウベを整備するため、初期投資が大きくなりがちです。たとえば佐久島クラインガルテンは、限界集落とされる島に移住者を増やす目的で、西尾市が2012年に約3億円をかけて開設したと報じられています。さらに、前項で触れたとおり空き区画・需要の見極めというリスクもあります。つくって終わりではなく、継続的に利用者を惹きつけられるかどうかが、事業として成立させる鍵になります。
また、運営を「誰が担うか」も長く続けるうえで重要な論点です。先に紹介した笠間クラインガルテンのように、自治体・JA・農業公社・民間企業へと運営主体が移り変わってきた施設もあります。地域住民の高齢化などで従来の運営が難しくなるなか、民間の力を取り入れて新たなサービスや集客の工夫を加えるという動きは、これから開設・運営を考える際の一つの参考になるでしょう。
まとめ
クラインガルテンは、ドイツ語で「小さな庭」を意味する滞在型の市民農園です。宿泊できるラウベを拠点に、菜園やガーデニングを楽しめるこの仕組みは、市民農園整備促進法や特定農地貸付法などの法制度に支えられた、安心して利用できる制度です。
そして何より、暮らしを一度に変えることなく、少しずつ試せるのがクラインガルテンの魅力です。二拠点生活の入口として、リモートワークの拠点として、リタイア後のセカンドライフの場として、そして健康的な暮らしを支える原点として——それぞれの目的に応じた入口が用意されています。
もし関心を持たれたなら、まずはお住まいの地域の近くにあるクラインガルテンを、見学・体験してみることから始めてみてはいかがでしょうか。人気の施設もあれば空きのある施設もあり、選択肢は決して少なくありません。「小さな庭」から、あなたの暮らしの再設計が始まるかもしれません。
参考文献
農林水産省「市民農園の開設方法」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/tosi_nougyo/s_kaisetsu.html
農林水産省「市民農園に関係する法律」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/tosi_nougyo/s_houritsu.html
関東農政局「都市農業の振興・市民農園について」
https://www.maff.go.jp/kanto/nouson/shinkou/nouen/
関東農政局「滞在型市民農園(クラインガルテン)開設状況一覧(令和6年3月31日時点)」
https://www.maff.go.jp/kanto/syo_an/seikatsu/shokuiku/attach/pdf/shiminnouen-11.pdf
八千代町「クラインガルテン八千代」
https://www.town.ibaraki-yachiyo.lg.jp/page/page000195.html
香取市「滞在型市民農園 クラインガルテン栗源」
https://www.city.katori.lg.jp/nogyo_sangyo/koryu/kleingarten.html
田舎暮らしの本Web(宝島社)「リモートワークにも使える、菜園付き滞在施設『クラインガルテン』が今話題!」
https://inakagurashiweb.com/archives/2329/
日本経済新聞「お試し移住に中高年集う クラインガルテンで“農”体験」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO95153950V11C15A2NZ1P02/
ドイツニュースダイジェスト「クラインガルテン発祥の地、ライプツィヒ」
http://www.newsdigest.de/newsde/regions/reporter/leipzig/4804-946/
ドイツニュースダイジェスト「ドイツ人が庭仕事を愛する理由 クラインガルテンとは?」
http://www.newsdigest.de/newsde/features/11763-kleingarten/
コトバンク(小学館 日本大百科全書ニッポニカ ほか)「クラインガルテン」
https://kotobank.jp/word/くらいんがるてん-3149897
日本大学理工学部 学術講演会論文集「日本版クラインガルテンの展望 ドイツとの比較を通じて」
https://www.cst.nihon-u.ac.jp/research/gakujutu/63/pdf/I-28.pdf
「地域交流および二地域居住・移住に対する滞在型市民農園の役割―笠間クラインガルテンを事例に―」
https://www.geoenv.tsukuba.ac.jp/~chicho/nenpo/46/6.pdf
笠間クラインガルテン(公式サイト)
https://www.kasama-kg.jp/
