トマト・きゅうり・ピーマンで比べる施設園芸の利益構造|向く販路と労働時間

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施設園芸への参入を検討するとき、多くの方が最初に気にするのは「どの作物が儲かるのか」という点です。しかし、売上(粗収益)の大きさだけで作物を選ぶのは危険です。ハウス本体や暖房機、灌水設備などの初期投資、そして燃料費や労働費といったランニングコストを差し引いた「所得(手元に残る利益)」で判断する必要があります。

この記事では、施設園芸の人気作目であるトマト・きゅうり・ピーマンの3品目を、単価・収量・労働時間・販路適性の4つの観点から比較します。公的統計や農業専門メディアの経営指標をもとに、それぞれの作物が持つ利益構造の違いを整理していきます。

まず押さえたい3作物の基本ポジション

まず押さえたい3作物の基本ポジション

なぜこの3品目を比べるのでしょうか。いずれも施設園芸の主力品目でありながら、収益と労働の構造が異なるためです。

トマトは、施設園芸の代表格です。農林水産省の資料によれば、トマトは作付面積の57%、収穫量の74%を施設栽培が占めており、露地栽培中心だった時代から施設園芸の普及によって周年出荷が可能になった品目です。

きゅうりは、指定野菜として市場流通の中核を担う品目で、施設栽培と露地栽培の両方が広く行われています。

ピーマンも消費量が多く、天候に左右されにくい施設栽培に向いた品目です。ピーマンは施設栽培のほうが高収入を期待できる一方で、施設栽培では所得率(粗収益に占める所得の割合)の向上が課題となる、という特徴を持っています。

作物施設園芸での位置づけ特徴
トマト施設園芸の代表格。周年出荷が確立作付面積の57%、収穫量の74%が施設栽培
きゅうり指定野菜。施設・露地の両方が存在市場流通の中核品目
ピーマン施設栽培で高収入が期待できる品目施設栽培は所得率の向上が課題

単価・作型の比較|収穫期と価格の考え方

単価(kg当たり価格)そのものの水準だけでなく、いつ出荷するか(作型)によって収益が大きく変わる点も、作物選びの重要なポイントです。

トマトは、年間を通じて引き合いがある品目ですが、出荷時期や産地の切り替わり、天候の影響によって価格が動きやすい側面を持ちます。実際に、2025年夏は高温の影響で主産地の出荷数量が平年を下回り、価格はやや平年を上回る見通しが示されました。ここで注意したいのは、価格が上がっても、高温によって出荷量そのものが減れば、経営全体では収入増につながらない場合があるという点です。品質低下や規格外の増加によって、販売できる数量が減るためです。

ピーマンには、春夏に収穫する半促成栽培、夏秋に収穫する普通栽培、秋冬に収穫する抑制栽培、冬春に収穫する促成栽培といった作型があります。需要期に合わせた作型を選ぶことが収益を左右します。ただし、収量の少ない促成栽培は収益が上がりにくく、収量を確保できる半促成栽培は採用する農家が多いため単価が低くなりやすい、という作型ごとの課題もあります。

収量・収益性の比較|「所得」で見る利益構造

ここが本記事の核心です。単価×収量で計算される粗収益ではなく、経費を差し引いた「所得」で見ていきます。

トマトの費用構造

日本政策金融公庫がトマト主体の個人経営体266先の決算データを分析した調査によれば、売上高の平均は3,474万円、農業所得の平均は976.5万円で、売上高に占める農業所得の割合(売上高農業所得率)は28.1%でした。費用の内訳は、売上高に占める割合の大きい順に、材料費22.3%、その他費用18.1%、労務費11.1%、燃料動力費9.6%、減価償却費9.2%、賃料・リース料1.6%となっています。

施設園芸では材料費・労務費・燃料費が経営を大きく左右することが、この内訳から読み取れます。

10a当たり所得・労働時間・時給の目安(トマト)

農業バイト情報メディアが農林水産省「農業経営統計調査」等をもとにまとめたデータでは、施設栽培の主要作型について、10a当たりの所得・労働時間・時給換算の目安が示されています。

作物(作型)10a当たり所得労働時間時給換算
施設 大玉トマト122万円946時間約1,295円
施設 ミニトマト(粗収益407万円)相対的に短め約1,363円
※野菜約30品目の10a当たり平均所得は約75万円、平均労働時間は777時間、時給平均は約965円。出典:農業バイト情報メディアが農林水産省「農業経営統計調査」等をもとに作成した数値。

施設栽培のトマトは、労働時間当たりの利益(時給換算)で見ても、野菜全体の平均を上回る水準にあります。ミニトマトは他の施設野菜と比べて労働時間が短く、効率よく利益を出しやすいとされています。

きゅうりの収支モデル

きゅうりについては、福島県の就農支援情報サイトが公表している夏秋きゅうりの雨よけ長期どり栽培の経営モデルが参考になります。これは露地栽培ですが、雨よけのためパイプハウスと付帯設備を必要とするモデルです。作付面積20aを想定し、平均的な単収である10a当たり10,000kgで農業所得は179万円、単収を14,000kgまで上げられれば、同じ20aで351万円になると試算されています。この設備投資は、軽トラックや動力噴霧器などを含めて1,090万円が想定されています。

このモデルからは、きゅうりは単収を高めることが収益を大きく左右することがわかります。

ピーマンの収支(露地・施設の作型別)

ピーマンについては、農林水産省の品目別経営統計(2007年で調査終了、参考値)をもとにした10a当たり収支の比較データがあります。作型による差が明確に表れています。

項目露地(夏秋)施設(夏秋)施設(冬春)
粗収益142.7万円147.2万円405.1万円
経営費53.2万円84.9万円247.4万円
農業所得89.5万円62.3万円157.7万円
農業所得率62.7%42.3%38.9%
出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸当たり)」をもとに専門メディアが作成。※2007年で調査終了のため参考値。

この表から、いくつかの重要な点が読み取れます。まず、施設の冬春ピーマンの粗収益405.1万円は、露地の夏秋ピーマンの約2.8倍、農業所得も157.7万円と約1.9倍に達しています。一方で、施設栽培は経営費が高いため所得率は下がるという構造も明確です。露地の夏秋ピーマンは所得率62.7%と高いものの、施設の冬春ピーマンは38.9%にとどまります。「粗収益が大きい=手元に残る割合が大きい」わけではない、という施設園芸の本質がここに表れています。

労働時間・作業負荷の比較|「稼げる」と「回せる」は別

所得が高くても、労働負荷が大きすぎると経営を継続できません。作業の質と量の両面に目を向ける必要があります。

ピーマンの労働時間(作型別)

ピーマンの10a当たり年間労働時間は、作型によって大きく異なります。

作型10a当たり労働時間
露地(夏秋)775.6時間
施設(夏秋)784.7時間
施設(冬春)1,479.8時間
出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 分析指標・労働時間(1戸当たり)」をもとに専門メディアが作成。※参考値。

施設の冬春ピーマンは10a当たり約1,480時間と、露地・施設の夏秋(約780時間)の約1.9倍の労働時間を要します。これは、収穫期間が長く、その間に脇芽かき・摘葉・整枝などの栽培管理を継続しなければならないためです。前掲の表3で見た「冬春ピーマンの高い所得」は、この長い労働時間と引き換えに得られるものだといえます。

トマトの省力化の実例

トマトについては、大規模施設園芸のテキストに省力化の実例が示されています。栃木県の産地では、誘引方法の変更、定植時期の前進化、収穫期間の延長、苗生産と選果の外部委託といった工夫によって、収益性を高めると同時に省力化やゆとりを生み出した事例が報告されています。収益性が高まり、ゆとりが生まれたことで、後継者の就農も増えたとされています。

きゅうりの労働の考え方

きゅうりは、単収の向上が収益に直結する品目です。前掲の福島県モデルが示すように、限られた面積でも単収を高めることで所得を大きく伸ばせるため、栽培管理の精度が労働の価値を左右します

作物労働・作業面の特徴省力化・効率化のポイント
トマト誘引・収穫が連続する苗生産・選果の外部委託、収穫期間の延長
きゅうり単収向上が収益に直結栽培管理による単収アップ
ピーマン冬春栽培は労働時間が長い(約1,480時間/10a)炭酸ガス施用・環境制御による単収向上

向く販路の比較|収益構造は売り先で決まる

同じ作物でも、どこに売るかによって収益構造は変わります。作物ごとに適した販路を整理します。

トマトは、販路の選択肢が広い品目です。市場出荷のほか、直売所や道の駅、スーパーの地場産コーナーへの直接出荷といった方法があります。専門メディアが紹介する新規就農者の事例では、朝市を起点に、スーパーの地場産コーナーや道の駅への出荷を広げていった過程が語られています。これらは「農協出荷」ではなく、店の出荷者として登録し、自分の名前で価格を決めて販売する形です。一方で、販売スペースには限りがあり、収穫ピーク時には野菜コーナーがトマトで溢れて大量に置けないという販路確保の難しさも同時に示されています。

ピーマンは、周年供給と単価維持の両立が販路上の論点となります。産地では、促成栽培・半促成栽培・抑制栽培を組み合わせて1年を通じて出荷する周年栽培が行われてきました。周年で安定供給できれば、販売先との継続的な取引につながります。ただし前述のとおり、多くの農家が採用する作型は単価が低くなりやすいため、需要期の作型をどう組むかが販路戦略の鍵になります。

作物向く販路・販路上の論点
トマト市場出荷/直売所・道の駅/スーパー地場産コーナー
きゅうり市場流通・共同出荷が中心
ピーマン作型を組み合わせた周年出荷/需要期の単価確保が論点

まとめ|「どれが儲かる」ではなく「自分に合うのはどれか」

3作物を4つの観点から見てきました。重要なのは、単一の「儲かる作物」を探すのではなく、自分の資金・労働力・立地に合った作物を選ぶという視点です。

トマトは、施設栽培で周年出荷が確立し、販路の選択肢も広い品目です。日本公庫のデータでは売上高農業所得率28.1%という実績が示されており、10a当たりの所得・時給換算でも野菜平均を上回る水準にあります。ただし、天候による価格・出荷量の変動リスクには注意が必要です。

きゅうりは、単収を高めることが収益を大きく左右する品目です。福島県のモデルでは、単収を上げることで同じ面積でも所得を大きく伸ばせることが示されており、栽培技術と単収の向上が経営の鍵となります。

ピーマンは、施設の冬春栽培で高い粗収益・所得を狙える一方、経営費が高く所得率は下がり、労働時間も約1,480時間/10aと長いという構造を持ちます。高収益と労働負荷はトレードオフの関係にあり、炭酸ガス施用や環境制御による単収向上が所得率改善の鍵になります。

施設園芸は初期投資が大きいため、「売上が大きいか」よりも「資金ショートせず継続できるか」を重視することが、経営判断の基本となります。本記事の数値はあくまで目安であり、実際の参入検討にあたっては、自身の条件に即した経営シミュレーションと最新データの確認をおすすめします。


参考文献

※本記事の数値は各出典の公表時点のものであり、経営条件や栽培技術によって変動します。特にピーマンの経営統計は2007年で調査終了した参考値である点にご留意ください。実際の参入判断にあたっては最新の一次データをご確認ください。