「農地を借りるハードルは下がった。それなのに、なぜ農業法人の倒産は増え続けているのか」――。異業種から農業への参入を検討する企業にとって、これは避けて通れない問いです。
東京商工リサーチによると、2025年の「農業」倒産は103件(前年比18.3%増)で、1996年以降の30年間で最多を記録しました。倒産が100件を超えたのはこれが初めてです。一方で、農林水産省の2025年農林業センサスでは、法人経営体は3万3千経営体と5年前より7.9%増えています。「法人化・大規模化は進むのに、倒産も過去最多」という一見矛盾した構造が、いまの日本農業の現実です。
本記事では、公的統計と信頼できる倒産動向データに基づき、農業生産法人の代表的な失敗例を5つ取り上げ、それぞれに対応する事前対策を整理します。参入を「しやすさ」だけで判断しないための材料として、ご活用ください。
なぜ今「農業法人の失敗」を学ぶ必要があるのか
まず、農業法人を取り巻く環境を数字で確認しておきましょう。
農林水産省の2025年農林業センサス(概数値)によると、全国の農業経営体は82万8千経営体で、5年前に比べ23.0%減少しました。このうち個人経営体は78万9千経営体で23.9%減った一方、法人経営体は3万3千経営体と7.9%増加しています。団体経営体に占める法人の割合は84.0%まで上昇しました。個人が減り、法人へと集約が進む二極化が進行しています。
参入の制度面も緩和が進みました。AGRI JOURNALによれば、2009年の農地法改正で農地リース方式などが整備され、農業関連のリース法人数は2009年時点の311から、2024年1月時点で4,554法人へと増加しています。企業が農地を借りて農業経営を行うハードルは、確実に下がっています。
ところが、倒産は増え続けています。東京商工リサーチの集計では、「農業」倒産は4年連続で増加し、2025年に暦年で103件、年度(4〜3月)ベースでは105件に達しました。いずれも30年間で初めて100件を超えた水準です。
つまり、「参入しやすくなったこと」と「経営を続けられること」はまったく別の問題だということです。ここから、実際にどのような失敗が起きているのかを見ていきます。
| 指標 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
| 農業経営体数(2025年) | 82万8千経営体 | 5年前比 23.0%減 |
| うち法人経営体数(2025年) | 3万3千経営体 | 5年前比 7.9%増 |
| 農業関連リース法人数(2024年1月) | 4,554法人 | 2009年は311法人 |
| 「農業」倒産件数(2025年・暦年) | 103件 | 前年比 18.3%増/30年で最多 |
| 負債総額(2025年・暦年) | 402億8,000万円 | 前年比 109.1%増 |
出典:農林水産省「2025年農林業センサス(概数値)」、東京商工リサーチ倒産動向、AGRI JOURNAL
農業法人の失敗例5選
ここからは、倒産動向データと専門メディアの記載事実に基づき、代表的な失敗例を5つ紹介します。いずれも「何が起きたか」と「なぜ黒字化できなかったか」に絞って整理しています。
失敗例① 過大な初期投資で資金ショート
設備投資が重荷となって資金繰りが行き詰まるパターンは、施設園芸やスマート農業型で顕著です。
帝国データバンクによると、2025年12月に民事再生法の適用を申請した株式会社サラ(岡山県笠岡市)は、太陽光利用型設備を用い、国内最大級の菜園を運営していた「スマート農業」の先駆け的存在でした。ファンドからも多額の出資を受けていた同社は、設立5年で黒字化を達成したものの、その後の猛暑の影響で野菜の生産量が伸び悩み、最終的には設備投資分の借入金返済が重荷となって、負債額は約157億円にまで膨らみました。
イノチオグループのコラムでも、農業参入に失敗する企業の特徴として、「大規模化・効率化・省力化を求めて初期段階から設備や農業機械に高額の投資を行ったが、想定した収益を上げられず資金繰りが悪化して撤退する」ケースが挙げられています。初期投資の回収には数年単位の時間がかかるため、想定どおりに生産・販売が進まないと、返済が経営を圧迫します。
失敗例② 販路を確保せずに生産を始めた
作れば売れるとは限りません。販路を後回しにした結果、需要の変化に対応できず行き詰まる例があります。
東京商工リサーチによると、2023年度で農業倒産の負債が最大となった有限会社ワールドファーム(茨城県)は、全国に10カ所以上の農場を展開し、野菜の栽培から加工、販売までの一貫体制を構築していました。行政と連携した農地バンクの活用による耕作放棄地の解消や、新規就農者の育成事業でも注目を集めた企業です。ところが、コロナ禍で飲食店の休業や休校が広がり、業務用カット加工野菜の需要が急減したことで経営に行き詰まり、破産に至りました。
販路の構造変化も背景にあります。イノチオグループのコラムによれば、卸売市場を経由した青果物取引は市場外流通の増加などに伴い減少・横ばい傾向にある一方、外食・中食の割合が増え、外食産業や食品工場などは安定した価格・品質を求めるという需要側の変化が起きています。特定の販路に依存した設計は、その販路が揺らいだときのリスクが大きくなります。
失敗例③ 技術・人材の裏付けなき参入
農業には固有の栽培技術が必要で、その習得を軽視した参入は続きません。
AGRI JOURNALが紹介する全国農業会議所の調査では、新規就農者の56%が「営農技術の取得」で苦労しているとされています。技術の裏付けがないまま規模を追うと、収量や品質が安定せず、収益計画が崩れます。
この点は倒産データにも表れています。東京商工リサーチの2023年度の分析では、倒産した農業企業のうち業歴20年未満の新興企業が約6割を占め、「新たな取り組みほど事業継続が難しい」ことが指摘されています。また2024年には、完全人工光型野菜プラントの株式会社スプレッドや、大学発ベンチャーで食用コオロギ生産の株式会社グリラスなど、技術力や話題性を武器にした農業ベンチャーの破綻も相次ぎました。話題性や技術の新しさが、経営の持続性を保証するわけではありません。
失敗例④ 人手不足・後継者難による行き詰まり
担い手の確保は、農業全体の根本課題です。法人であっても例外ではありません。
東京商工リサーチによると、2025年の農業倒産のうち「人手不足」倒産は14件(前年比133.3%増)で、このうち後継者難が7件(同75.0%増)発生しました。同社は、これを「農業の事業承継問題の深刻さを示した」と評しています。
後継者難は農業に限った問題ではありませんが、小規模法人ほど深刻です。東京商工リサーチの後継者難倒産調査では、後継者難倒産の資本金1,000万円未満が62.1%を占め、「小・零細企業ほど代表者への依存が高く、代表者が健康上の問題を抱えると事業継続に大きなダメージを与えかねない」と指摘されています。農業倒産の資本金別内訳でも、1,000万円未満が82件(構成比79.6%)と大半を占めています。
失敗例⑤ コスト高を価格転嫁できない収益構造
近年の農業経営を圧迫している最大の要因の一つが、コスト高です。
東京商工リサーチによると、2025年の農業倒産のうち「物価高」倒産は20件(前年比25.0%増)に達しました。背景には、2022年度以降の円安による資材・飼料価格の上昇、原油価格高騰による暖房費用や物流費の増大があります。
問題は、これらのコスト上昇を売価に反映しにくいことです。東京商工リサーチは「高止まりする生産コストに見合う価格転嫁が難しい小・零細規模の事業者が倒産を押し上げる傾向」を指摘しています。資本金1,000万円未満の小規模法人ほどコスト上昇を吸収しにくく、収益が悪化しやすい構造です。天候不順による不作や品質不良も重なり、外部環境に収益が大きく左右される点が農業経営の難しさです。
| 失敗例 | 主な要因 | 関連データ |
|---|---|---|
| ①過大な初期投資で資金ショート | 設備投資の借入返済が重荷 | サラ(負債約157億円) |
| ②販路を確保せず生産開始 | 単一販路依存・需要急減 | ワールドファーム(業務用需要急減で破産) |
| ③技術・人材の裏付け不足 | 栽培技術の習得困難 | 新規就農者の56%が技術取得で苦労/倒産の約6割が業歴20年未満(2023年度) |
| ④人手不足・後継者難 | 担い手・承継者の不在 | 人手不足倒産14件・後継者難7件 |
| ⑤コスト高を価格転嫁できない | 資材・飼料・燃料高 | 物価高倒産20件/資本金1,000万円未満が79.6% |
出典:東京商工リサーチ倒産動向(2023年度・2025年)、帝国データバンク、AGRI JOURNAL
黒字化できない経営に共通する4つのパターン
5つの失敗例を横断すると、黒字化できない経営にはいくつかの共通した構造が見えてきます。
第一に、農業を「単なる新規事業」として設計してしまうことです。イノチオグループは、農業を事業として軌道に乗せるには多くの課題があり、「農業の特性を理解しないまま参入することは危険」と指摘しています。
第二に、投資規模の見積もりを誤ることです。失敗例①のように過大な初期投資が資金繰りを圧迫する一方、技術や販路への投資が過小であれば収益は立ちません。
第三に、販路を後回しにすることです。失敗例②で見たとおり、生産体制を整えても、売り先が定まっていなければ需要変化に耐えられません。
第四に、天候・相場という制御不能な変数への備えがないことです。倒産動向の各報告は、農業が「天候などの外部環境に大きく左右され、不作や品質不良に見舞われるケースが相次いでいる」ことを繰り返し指摘しています。サラの生産量が猛暑で伸び悩んだ例は、その象徴です。
いずれも共通するのは、参入前の事業設計の甘さです。裏を返せば、これらは事前の準備によって相当程度まで対策が可能な領域でもあります。
参入前にできる5つの事前対策
失敗例に対応する形で、参入前・参入初期に取り組める対策を整理します。
対策① スモールスタートで投資を段階化する
イノチオグループは、「試験も兼ねて事業を小さくはじめたうえで、軌道に乗りそうな方向へ大きく投資していく方法をとったほうが、リスクを減らすことができる」としています。初期から大規模設備に投じるのではなく、段階的に投資規模を広げることで、資金ショートのリスクを抑えられます。
対策② 販路を先に押さえ、複数チャネル化する
イノチオグループは、農業参入で利益を生み出すには「販売経路の開拓」が肝になると述べています。外食・中食・食品工場など安定した価格・品質を求める業務需要が拡大している点を踏まえ、生産を始める前に販路を確保し、単一の販路に依存しない設計にすることが重要です。
対策③ 栽培経験者の雇用・伴走支援を活用する
AGRI JOURNALは、栽培技術の習得が参入企業の苦労する課題の一つだとしたうえで、「栽培経験者を直接雇用するか、栽培技術に関する自治体やJAなどの伴走支援サービスを活用することが有効」としています。技術を外部から取り込む仕組みを最初から用意しておくことが、失敗例③の回避につながります。
対策④ 制度資金を計画的に設計する
資金面では、公的な制度資金の活用が有効です。AGRI JOURNALによれば、日本政策金融公庫の「青年等就農資金」は認定新規就農者を対象とした無利子融資で、限度額は3,700万円(特認1億円)、返済期間は17年以内です。また「経営体育成強化資金」では、農業参入法人の場合1億5,000万円以内の融資が受けられます。自治体独自の補助金制度もあるため、参入候補地域の支援策を事前に確認しておくとよいでしょう。
対策⑤ リスク管理と付加価値化で収益を安定させる
コスト高や価格変動への備えとして、リスクの分散が求められます。市場価格の変動は収益に大きく影響しますが、契約栽培や販路の多様化、6次産業化やブランド化による付加価値向上によって、安定した経営に近づけることができます。作物の選定においても、栽培のしやすさと販路開拓のしやすさがトレードオフの関係にある点を踏まえた判断が必要です。
| 失敗例 | 対応する事前対策 |
|---|---|
| ①過大な初期投資で資金ショート | スモールスタートで投資を段階化 |
| ②販路を確保せず生産開始 | 販路を先に押さえ、複数チャネル化 |
| ③技術・人材の裏付け不足 | 栽培経験者の雇用・伴走支援の活用 |
| ④人手不足・後継者難 | 制度資金を含む計画的な人材・体制づくり |
| ⑤コスト高を価格転嫁できない | 契約栽培・販路多様化・付加価値化 |
出典:イノチオグループ、AGRI JOURNAL、ファームコネクト
まとめ
農業への参入は、制度面で確実にしやすくなりました。農地リース法人は15年で10倍以上に増え、法人経営体も増加を続けています。しかしその裏側で、2025年の農業倒産は30年で初めて100件を超え、過去最多を更新しました。「参入のしやすさ」と「黒字化の難しさ」は別物である、という事実を直視する必要があります。
本記事で見た5つの失敗例に共通するのは、初期投資・販路・技術/人材・収益構造という、いずれも参入前に設計できたはずの領域での準備不足でした。裏を返せば、スモールスタート、販路の先行確保、技術の外部取り込み、制度資金の計画的活用、そしてリスク分散という対策によって、失敗の確率は下げられます。
異業種からの農業参入を検討する企業にとって重要なのは、農業の特性を理解したうえで、「小さく始めて、販路・人材・資金の三点を先行させる」という設計思想です。参入を決める前に、本記事の失敗例を自社の計画に当てはめて点検してみてください。
参考文献
農林水産省「2025年農林業センサス結果の概要(概数値)(令和7年2月1日現在)」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/noucen/040909/index.html
東京商工リサーチ「2025年『農業』倒産103件で過去最多『酪農』『花き作』『肉用牛生産』が大幅増」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202302_1527.html
東京商工リサーチ「2025年度の『農業』倒産 30年で最多の105件 円安で資材や飼料価格が上昇、小規模農業を直撃」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202732_1527.html
東京商工リサーチ「2024年の『農業』倒産 過去最多の87件 きのこ業者や農業ベンチャーの倒産が増加」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200838_1527.html
東京商工リサーチ「2023年度の『農業』倒産77件、年度最多を更新中 コストアップ、人手不足等で新興企業の倒産が目立つ」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198454_1527.html
東京商工リサーチ「上半期の『後継者難』倒産 2番目の230件 高齢化の加速で、事業承継の支援が急務に」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201576_1527.html
帝国データバンク「『農業』の倒産動向(2025年)」
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260209-agriculture-br2025/
Forbes JAPAN「スマート農業も猛暑には勝てず。2025年農業の倒産件数が過去最多」
https://forbesjapan.com/articles/detail/91417
イノチオグループ「農業参入とは?成功・失敗事例やおすすめ補助金をご紹介!」
https://inochio.co.jp/column/35/
AGRI JOURNAL「【異業種から農業参入のススメ①】参入が増える背景と5つの課題」
https://agrijournal.jp/production/86675/
ファームコネクト「【企業の農業ビジネス参入】成功・失敗事例をご紹介!【2025最新版】」
https://farm-connect.org/to-become-a-farmer/corporate/
