肥料の輸入依存度と国産化政策|下水汚泥・堆肥ペレットの最新事例

日本の化学肥料は、その原料のほぼ全量を輸入に依存しています。農林水産省「肥料をめぐる情勢」(令和8年4月)の整理をもとにした報道等によれば、尿素の国産割合は約3%にとどまり、りん鉱石・加里鉱石にいたっては国内産出がゼロです。窒素・りん酸・カリという肥料の三要素は、いずれも海外からの輸入に支えられているのが実態です。

こうした構造的な脆弱性は、これまで政策や地政学リスクの観点から数多く語られてきました。しかし本記事では、視点を変えて「国内資源を使って、実際にどのような肥料が、どこで、どこまで作られているのか」という、実装状況に焦点を当てます。

特に注目するのは、都市から必ず発生する下水汚泥を原料とした肥料づくりです。神戸市・岐阜市・鹿児島市の取り組みを具体的に取り上げ、それぞれが採用する方式の違いと、共通する課題を読み解いていきます。

下水汚泥という「都市の鉱山」──ポテンシャルと現在地

下水汚泥には、リンや窒素といった肥料成分が含まれています。国土交通省によれば、年間の汚泥発生量約230万トンの中に、約5万トンのリンが含有されています。これは日本が輸入するリン資源に対して相当な割合を占めるポテンシャルであり、未利用資源として活用する意義は大きいといえます。

ところが、その活用は道半ばです。全汚泥発生量に対する肥料利用の割合は約15%にとどまっており、多くは建設資材への利用や焼却処分に回されています。汚泥の処理委託を含めれば約1,000の処理場が何らかの形で肥料利用を実施しているものの、複数ある処理・処分方法の一つとして位置づけている処理場が多いのが現状です。

下水汚泥の肥料利用は、大きく「コンポスト化」と「リン回収」の2つの方法に分けられます。リン回収については、消化汚泥から回収する方法や焼却灰から回収する方法などがありますが、リン回収施設のコストが高いといった課題により、国土交通省の資料時点では実施しているのは5自治体(6処理場)にとどまっています。

項目数値・状況
年間の下水汚泥発生量約230万トン
そのうち含有されるリン約5万トン
全汚泥発生量に対する肥料利用の割合約15%
リン回収を実施している自治体5自治体(6処理場)

下水汚泥の肥料利用ポテンシャルと現状(出典:国土交通省「下水汚泥資源の肥料利用」をもとに作成)

以下では、この「コンポスト化」と「リン回収」がそれぞれ現場でどう機能しているのかを、実名の事例で見ていきます。

【事例1】神戸市──「こうべ再生リン」に見るMAP法の到達点

まず紹介するのは、リン回収の代表事例である神戸市です。神戸市の下水処理場では、下水から効率的にリンを回収し、これを「こうべ再生リン」と名付けて有効利用しています。こうべ再生リンは、「りん酸マグネシウムアンモニウム」という種類で農林水産省に肥料登録されています。これは、消化汚泥の脱離液などに含まれるリン酸を結晶として回収する、いわゆるMAP法にあたるものです。

神戸市の特徴は、回収したリンを「こうべハーベスト肥料」や「こうべSDGs肥料」といった製品にまで仕上げ、野菜や米の栽培に利用している点にあります。使った水が下水に戻り、そこからまたリンを回収するという資源循環の輪が、製品化と栽培利用を通じて実際に成立しているのです。

拡大するリン回収設備

神戸市の取り組みは、近年さらに拡大しています。2025年3月には玉津処理場(西区)にリン回収設備を新設し、従来の東灘処理場とあわせて市内2基体制となりました。さらに東灘処理場では市内3基目となるリン回収設備の増設工事が進められており、2027年度には供給開始が予定されています。

安全性の裏付け

下水汚泥由来の肥料に対しては、安全性への懸念がしばしば指摘されます。この点について神戸市は、肥料等試験法に基づく成分分析を行い、有効性と安全性を確認しています。近年関心が高まっている有機フッ素化合物(PFAS)についても、東灘処理場・玉津処理場ともにPFOS・PFOAが「不検出(定量下限値未満)」という結果が公表されています。こうした分析は、農林水産省「下水汚泥資源の活用促進モデル実証(事業主体:農研機構)」の支援を受けて実施されたものです。

なお神戸市の公表資料によれば、こうべ再生リンの基準値は、肥料の品質の確保等に関する法律に基づく公定規格(令和8年2月26日農林水産省告示第243号、施行令和8年3月28日)を踏まえて示されています。制度面の裏付けと現場の実装が結びついている点は、この事例の重要なポイントです。

【事例2】岐阜市──焼却灰から取り出す「岐阜の大地」

神戸市が消化汚泥からのMAP法であるのに対し、異なる方式でリン回収を続けているのが岐阜市です。岐阜市は平成22年度(2010年度)から、下水汚泥の焼却灰から「りん」を回収しており、これを副産肥料として肥料登録し、「岐阜の大地」という製品名で販売してきました。焼却灰からリンを取り出すこの方式は、消化汚泥を用いる神戸市のMAP法とは技術系統が異なります。

「岐阜の大地」には、く溶性りん酸の保証成分量が異なる2種類の製品があります。以下に製品概要を整理します。

項目岐阜の大地 りん20岐阜の大地 りん25
登録番号生第89750号生第89751号
肥料規格普通肥料(副産肥料)普通肥料(副産肥料)
く溶性りん酸 保証成分量20%25%
形状粒状(粒径2.0~7.0ミリメートル程度)粉状
含水率20±5%程度10%以下
pH11~13程度11~13程度

副産肥料「岐阜の大地」の製品概要(出典:岐阜市「りん回収事業(副産肥料「岐阜の大地」の販売)」をもとに作成)

製品の特徴として岐阜市は、アルカリ性の肥料であり酸性土壌の改良に効果的であること、無臭で長期にわたって使用可能であること、緩効性で発芽から収穫まで効果が持続すること、雨で流出しにくく川や海の環境にやさしいことを挙げています。放射能測定結果も公表され、安全性に配慮した情報発信が行われています。

一方で、事例が示すのは順風満帆な運用ばかりではありません。岐阜市の公表情報によれば、令和8年度(2026年度)は、北部プラント内の汚泥処理施設改築工事によりりん回収施設の稼働を停止しているため、「岐阜の大地」は販売されていません。施設の更新時期には供給が途切れうるという、インフラに依存した資源回収ならではの現実も、あわせて理解しておく必要があります。

【事例3】鹿児島市──コンポスト&ペレット化で「使いやすさ」を解く

神戸市・岐阜市が「リン回収」路線であるのに対し、もう一方の柱である「コンポスト化」を代表するのが鹿児島市です。鹿児島市水道局は、下水汚泥を原料に肥料をつくっています。家庭や工場などから出る汚水を処理する過程で発生する下水汚泥には、窒素やりんといった肥料成分のほか有機物も豊富に含まれており、これを約30日かけて発酵処理して堆肥化しています。

製品は「サツマソイル」「マグマソイル」として販売されており、注目すべきは「サツマソイル(ペレット)」の販売を新たに開始している点です。コンポスト(堆肥)は、化学肥料と比べて容積・重量が大きく、散布に手間がかかることが普及の障壁とされてきました。ペレット化は、この「使いにくさ」を解消し、散布性や流通性を高める有効な手段として位置づけられます。

実際、堆肥のペレット化には技術的なハードルもあります。一般的にペレット化には水分を15%以下に落とす必要があり、製造にかかる労力が増すとされます。それでも、散布のしやすさや広域流通のメリットを求めて、ペレット化に取り組む事例が各地で増えています。鹿児島市のサツマソイル・ペレットは、下水汚泥コンポストを「現場で使いやすい形」に近づける実践例といえます。

事例が示す横断的な論点──方式の使い分けと「出口」の重要性

ここまで見てきた3つの事例を整理すると、下水汚泥の肥料利用には複数の方式があり、それぞれが地域の実情に応じて選択されていることがわかります。

自治体方式主な製品名特徴・最新動向
神戸市リン回収(MAP法/りん酸マグネシウムアンモニウム)こうべ再生リン、こうべハーベスト肥料、こうべSDGs肥料2025年3月に玉津処理場を新設し2基体制。2027年度に3基目供給予定。PFOS・PFOA不検出
岐阜市リン回収(焼却灰から回収)岐阜の大地 りん20/りん25平成22年度から販売。令和8年度は施設改築工事で稼働停止・販売休止中
鹿児島市コンポスト化(+ペレット化)サツマソイル、マグマソイル、サツマソイル(ペレット)約30日発酵で堆肥化。ペレット版の販売を開始

下水汚泥の肥料利用における3事例の比較(各自治体・国土交通省の公表情報をもとに作成)

この比較から見えてくるのは、「どの方式が優れているか」ではなく、「地域の処理場の設備や特性に応じて最適な方式が選ばれている」という点です。消化施設を持つ神戸市はMAP法を、焼却処理を行う岐阜市は焼却灰からの回収を、堆肥化に適した体制を持つ鹿児島市はコンポスト化を、それぞれ選択しています。

もう一つ重要なのは、「出口」すなわち製品化と販売・利用の確保です。3事例に共通するのは、単に汚泥から成分を取り出すだけでなく、肥料登録を行い、製品名を付け、農業者や一般に販売するところまで到達している点です。神戸市が「こうべSDGs肥料」として一般向け販売にまで広げていること、鹿児島市がペレット化で使いやすさを高めていることは、いずれも「作った肥料を確実に使ってもらう」という出口設計の工夫にほかなりません。

同時に、岐阜市の販売休止が示すように、リン回収はインフラの稼働状況に左右されるという現実もあります。施設の改築時期には供給が途切れうるため、安定した供給には設備更新の計画や複数拠点での回収体制が求められます。神戸市が2基から3基へと回収拠点を増やしていることは、この点への一つの答えともいえるでしょう。

なお、こうした自治体の取り組みは3市に限りません。国土交通省は「下水汚泥資源の肥料利用に関する検討事例集」を令和5年度から公表しており、旭川市・秋田県・埼玉県・千葉市・神戸市・北九州市など、多数の自治体による多様な検討事例が収録されています。ここで紹介した3事例は、全国で進む動きの一部であることを付け加えておきます。

まとめ

本記事では、肥料原料のほぼ全量を輸入に依存する日本において、下水汚泥という国内資源が実際にどこまで肥料化されているのかを、神戸市・岐阜市・鹿児島市の3事例から見てきました。

  • 神戸市は消化汚泥からのMAP法でリンを回収し、製品化・一般販売・回収拠点の拡大まで進めている
  • 岐阜市は焼却灰からリンを回収する別方式で15年以上の実績を持つ一方、施設改築による供給休止という現実にも直面している
  • 鹿児島市はコンポスト化を軸に、ペレット化で「使いやすさ」の課題に取り組んでいる

3つの事例が示すのは、方式の優劣ではなく、地域特性に応じた最適解の選択であり、そして「出口」の設計こそが国産化を左右する律速段階であるということです。下水汚泥のリンは、日本が輸入するリン資源に対して相当なポテンシャルを持ちながら、肥料利用率はまだ約15%にとどまっています。このポテンシャルを現実の循環へと変えていけるかどうかは、今回見たような現場の一つひとつの実装の積み重ねにかかっています。

参考文献

  1. 国土交通省「下水汚泥資源の肥料利用」
    https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000555.html
  2. 国土交通省「下水汚泥資源の肥料利用に関する検討事例集」
    https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000880.html
  3. 神戸市「資源循環『こうべ再生リン』プロジェクト」
    https://www.city.kobe.lg.jp/a78445/kurashi/sumai/sewage/projects/phosphorus01.html
  4. 神戸市「下水汚泥から原料を抽出『こうべSDGs肥料』」
    https://www.city.kobe.lg.jp/a99375/business/sangyoshinko/industry/kobenogyoujigyou/sdgs-hiryou.html
  5. 岐阜市「りん回収事業(副産肥料『岐阜の大地』の販売)」
    https://www.city.gifu.lg.jp/kurashi/suidou/1003348/1003354/1020258.html
  6. 鹿児島市「下水汚泥堆肥化場」
    https://www.city.kagoshima.lg.jp/suido/gesuido/gesuisyori/gesuido/shikumi/gesuido/taihika/index.html