水田転作で高収益を目指す「水田活用の直接支払交付金」対象作物と成功事例

2024年夏の「令和のコメ騒動」から一転、いまコメは余っています。日本経済新聞の報道によると、民間在庫量は2026年6月末時点で194万トンと前年より6割多く、6月としては過去最大規模に膨らんでいます。米価高騰を受けて2025年に多くの農家が増産に動いたことなどが背景にあり、販売価格は急速に下落。今後の本格的な収穫シーズンで供給が増えれば、需給は一段と緩む見通しです。

消費者にとってはありがたい話ですが、農家にとっては厳しい局面です。同紙によれば、コメ農家は10年前から4割以上少ない50万戸まで減り、農家全体の平均年齢も2025年時点で67.7歳と、高齢者が支える構図が強まっています。作付面積も、16年の161万haから26年6月末見通しでは153万haへと縮小し、日本の「作る力」は細っています。そこへ生産コストの上昇が重なります。業界団体の米穀安定供給確保支援機構によると、26年の玄米60kg(1俵)あたりの生産コストは2万535円と前年より3%高い水準です。過剰在庫を背景に今年秋のコメは大幅な値下がりが予想されるなか、コスト増と価格下落の板挟みで、高齢の農家を中心に離農が加速する恐れが指摘されています。

こうしたなかで問われているのが、「需要に応じた生産」への転換と、水田の転作をどう設計するかです。主食用米に頼りきらず、転作でどう収益を組み立てるか。その鍵を握るのが、「水田活用の直接支払交付金」をどう積み上げるかです。

ただし、押さえておきたい点があります。令和9年度(2027年度)から、水田政策そのものが根本的に見直される見通しです。本記事で示す交付単価は令和7・8年度の枠組みに基づくものであり、この前提が数年後に崩れる可能性があることを念頭に読み進めてください。だからこそ、交付金の仕組みを正確に理解したうえで、交付金に依存しすぎない収益設計を今から考える必要があります。

まず知るべき「令和9年度の制度見直し」

収益設計の話に入る前に、避けて通れないのが制度見直しの動きです。前述のとおり、政府は補助金の配分を「作付面積を基準にした仕組み」から「実際の収穫量など生産性を基準にした仕組み」へ改めようとしています。通常は記事の末尾に置く論点ですが、本記事ではあえて最初に取り上げます。それだけ重要な前提だからです。

2025年4月11日に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」では、令和9年度から水田政策を根本的に見直し、水田活用の直接支払交付金を「作物ごとの生産性向上等への支援」へと転換するという方針が示されました。米については新市場開拓用米・米粉用米等を支援し、国産飼料については飼料用米中心の生産体系を見直して青刈りとうもろこし等の生産振興を図る、とされています。麦・大豆・飼料作物については、水田・畑にかかわらず、生産性向上に取り組む者への支援へと見直す検討が進められています。

また、令和4年度から厳格化された「5年水張り要件」は、令和9年度以降は求めない方針です。新制度となるまでの令和7・8年については、連作障害を回避する取組を行った場合、水張りをしなくても交付対象とすることが予定されています。

財務省の財政制度等審議会に提出された資料でも、広く薄い財政支援ではなく、将来の地域農業を担う経営体の前向きな取組に対して支援を重点化していく方向で検討する必要があると整理されています。飼料用米への支援のあり方や、麦・大豆等への支援のあり方も、改めて考えていく必要があると記されています。

【要注意】以下で示す対象作物や交付単価は、すべて現行(令和7・8年度)の枠組みによるものです。令和9年度以降は、見直しの内容によって対象・単価が変わる可能性があります。

現行の対象作物と交付単価【早見表】

水田活用の直接支払交付金は、水田で麦・大豆・飼料用米・米粉用米等を生産する農業者に対し、交付金を直接交付する制度です。支援の対象となるのは、販売目的で対象作物を交付対象水田で生産する販売農家・集落営農です。

その中心となるのが「戦略作物助成」で、国が全国一律の単価を定めています。現行の単価は次のとおりです。

対象作物交付単価(10aあたり)
麦、大豆、飼料作物(飼料用とうもろこしを含む)35,000円
WCS用稲(稲発酵粗飼料)80,000円
加工用米20,000円
飼料用米、米粉用米55,000円〜105,000円(収量に応じ設定)

戦略作物助成の交付単価(令和7・8年度時点。基幹作のみ対象)。令和9年度以降は見直しにより変動の可能性あり。出典:茨城県農業再生協議会「4 水田活用の直接支払交付金」

ここで注意したいのが、飼料用米・米粉用米は「数量払い」であるという点です。収量に応じて交付単価が55,000円〜105,000円/10aの範囲で変動し、数量払いによる助成を受けるには、農産物検査機関による数量確認を受けていることが条件となります。標準単収値には各地域の合理的な単収が適用され、当年産の作柄に応じて調整されます。

交付金は「単価表」だけ見ても意味がない ─ 3層で積み上げる

多くの農家が見落としがちなのが、交付金は戦略作物助成の単価表だけで完結しないという点です。実際の手取りは、次の層を積み上げて決まります。

第1層:戦略作物助成(国が一律に設定)

前章の表のとおり、麦・大豆なら35,000円/10a、飼料用米なら数量に応じて55,000〜105,000円/10a、といった国一律の単価です。

第2層:産地交付金(都道府県・地域が設定)

地域が作成する「水田フル活用ビジョン」に基づき、国から配分される資金枠の範囲内で、都道府県や地域農業再生協議会が対象作物・取組・単価を設定できるのが産地交付金です。国が示す基本的運用では、次のような取組に配分単価が設定されています。

取組内容配分単価(10aあたり)
飼料用米、米粉用米の複数年契約(3年以上の契約)12,000円
そば、なたねの作付け(基幹作のみ)20,000円
新市場開拓用米の作付け(基幹作のみ)20,000円

産地交付金の基本的運用における配分単価の例。出典:茨城県農業再生協議会「4 水田活用の直接支払交付金」

産地交付金の助成内容は、地域における水田農業経営の課題に対応し、収益力向上に資する取組に対する助成であることなどのルールに即して設定されます。主食用米・備蓄米・不作付地への助成は行われません。実際の対象作物や単価は都道府県・地域ごとに異なるため、自地域の設定を必ず確認する必要があります。

第3層:拡大加算(面積拡大に応じて配分)

さらに、拡大計画に基づき年度当初に配分される加算があります。

加算の種類配分単価(10aあたり)配分の考え方
転換作物拡大加算15,000円主食用米が減少し、転換作物の面積が令和元年度より拡大した場合に、その面積に応じて配分
高収益作物等拡大加算30,000円主食用米が減少し、高収益作物等の面積が令和元年度より拡大した場合に、その面積に応じて配分

拡大加算の配分単価。高収益作物等には、高収益作物(園芸作物等)、新市場開拓用米、加工用米、飼料用とうもろこしが含まれる。出典:茨城県農業再生協議会「4 水田活用の直接支払交付金」

つまり、たとえば飼料用米に複数年契約を組み合わせれば、戦略作物助成に加えて産地交付金12,000円/10aが上積みされる可能性があります。「単価表を見て終わり」にすると、こうした上積みを取りこぼすことになります。

高収益作物・畑地化への転換という選択肢

ここまでは水田のまま転換作物を作付けるケースを見てきましたが、より収益性の高い作物への転換や畑地化を後押しする支援も用意されています。

「水田農業高収益化推進助成」では、都道府県が策定した「水田農業高収益化推進計画」に基づき、基盤整備・栽培技術や機械施設の導入・販路確保等の取組と併せて、水田での高収益作物への転換等を推進します。計画に位置付けられた産地における取組として、次の支援が設けられています。

支援内容単価(10aあたり)
高収益作物定着促進支援(高収益作物畑地化支援とセット)20,000円 × 5年間
高収益作物畑地化支援(その他の転作作物の畑地化も同単価)105,000円
子実用とうもろこし支援10,000円

水田農業高収益化推進助成の支援内容。出典:茨城県農業再生協議会「4 水田活用の直接支払交付金」

畑地化は、水田としての機能を手放す判断でもあります。令和9年度以降は5年水張り要件を求めない方針である点も踏まえ、水田機能を維持したまま転換作物を輪作するのか、それとも畑地化に踏み切るのかは、地権者や土地改良区と十分に協議して判断する必要があります。

見直しを前提にした品目選定の判断軸

ここまでの制度を踏まえると、令和9年度の見直しが迫るなかで品目を選ぶ際の判断軸は、次のように整理できます。

(1)交付金への依存度を意識する。麦・大豆・飼料用米といった土地利用型作物は、交付金が収益の柱になりやすい品目です。見直しで支援が「作物ごとの生産性向上」へ寄ると示されている以上、今の単価を前提にした計算ではなく、単価が変わっても成り立つ計算で品目を選ぶ姿勢が重要になります。

(2)加算を取りこぼさない設計にする。産地交付金や複数年契約加算、拡大加算は、要件を満たさなければ受けられません。自地域の産地交付金の設定を確認し、受けられる加算を織り込んだうえで採算を試算することが、手取りを最大化する第一歩です。

(3)生産性向上の取組と接続する。見直しの方向性が「前向きな取組への重点化」である以上、多収・団地化・低コスト化といった生産性向上に取り組める経営ほど、制度変更に強くなります。

まとめ

水田転作で高収益を目指すには、戦略作物助成・産地交付金・拡大加算という3つの層を積み上げて交付金を設計することが出発点になります。麦・大豆で35,000円/10a、飼料用米で数量に応じて55,000〜105,000円/10a、そこに複数年契約や拡大加算が上積みされる構造を、正確に押さえておきたいところです。

そのうえで繰り返し強調したいのが、令和9年度(2027年度)の制度見直しは「いつか」ではなく「数年後」の話だという点です。飼料用米の交付単価はすでに段階的な引き下げが進んでおり、見直しは抽象的な将来ではなく、現実に動き始めています。

本記事の単価はいずれも現行制度に基づく目安です。実際の品目選定にあたっては、自地域の単収・産地交付金の設定・加算の要件を当てはめ、そして毎年の要綱と市町村の案内を確認したうえで、交付金前提の投資判断は慎重に行うことをおすすめします。

参考文献

財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会 資料4「農林水産」(2025年11月7日)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20251107/04.pdf

茨城県農業再生協議会「4 水田活用の直接支払交付金」
https://www.ibaraki-suiden.jp/project/keiei-antei/4suiden-katsuyo/

やまがたアグリネット「水田活用の直接支払交付金の見直しについて」
https://agrin.jp/theme/ninaite/suikatu.html

農村ニュース「農水省が令和9年度から水田政策を見直し!新たな支援の方向性とは?」(2025年2月11日)
https://www.nouson-n.com/media/2025/02/11/10020

日本経済新聞「『令和の米騒動』が残したもの 膨らむ在庫、揺れるコメ価格 3Graphics」(2026年8月24日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD101OB0Q6A810C2000000/