施設園芸とは? 露地栽培との違い・種類・メリットデメリットを解説

施設園芸とは、ビニールハウスやガラス温室などの施設を使い、内部の環境を制御しながら野菜・花き・果樹などを栽培する農業のことです。露地では育ちにくい季節や場所でも作物を生産できることが最大の特徴です。

地理の教科書では「園芸農業」という用語が使われますが、農林水産省などの実務・行政の世界では「施設園芸」という用語が標準的に使われています。教科書用語と実務用語の対応関係については、園芸農業と近郊農業の違いを整理した記事で詳しく解説しています。

この記事では、施設園芸の定義・露地栽培との違い・施設の種類・メリット/デメリット、そして「次世代施設園芸」の動向までを、図表を交えて整理します。

施設園芸とは

施設園芸とは、野菜・花き・果樹などの作物を、ガラス温室やビニールハウスなどの施設で囲い、自然環境を制御しながら栽培する園芸を指します。寒冷・風雨・一部の病気などの被害を防ぐ手段として、また周年化する需要にこたえる施設として発達してきました。資本を投下することで、高度な技術と労力の集約により高収益が期待できる栽培形態です。

作物は本来生育しにくい場所や季節に栽培され、加温設備を備えるものと無加温のものがあります。露地では夏季に生産される作物を、秋から春の間に生産することも施設園芸の役割です。厳寒期に安定的な生産を進めるためには加温が必要になります。

なお、農林水産省は「園芸作物(野菜・果樹・花き)」の一分野として施設園芸を位置づけ、専門の施策ページを設けています。

施設園芸と露地栽培の違い

施設園芸を理解するうえで欠かせないのが、屋外の畑で栽培する「露地栽培」との違いです。施設園芸は施設を建てて環境を制御するため、露地栽培とは投資・生産性・リスクの構造が大きく異なります。

比較項目施設園芸露地栽培
栽培する場所ガラス温室・ビニールハウスなどの施設内屋外の畑(露地)
環境の制御温度・湿度などを人工的に制御できる自然環境に依存する
作れる時期露地では作りにくい季節にも生産できる作物ごとの旬に左右される
初期投資施設の設置に資本投下が必要相対的に小さい
収益性技術と労力の集約により高収益が期待できる施設園芸に比べ単位面積あたりの収益は小さい傾向

施設園芸と露地栽培の主な違い(出典:コトバンク「施設園芸」、Weblio辞書「施設園芸農業」をもとに作成)

施設という設備を持つことで、暖房・保温・給排水の自動化など省力化のための装備を組み込むことができ、規模の大きな農業経営へと発展してきました。近年ではマイクロコンピュータの導入によるシステム化も進んでいます。

施設園芸の種類

施設園芸は、いくつかの切り口で分類できます。ここでは「施設の構造」「栽培方式」「加温の有無」の3つの視点で整理します。

施設の構造による分類

施設園芸で使われる施設には、ガラス室、ビニールハウス、トンネル、温室などがあります。これらの施設に、暖房・冷房・灌水・換気・空調といった設備を組み合わせて栽培が行われます。

栽培方式による分類(土耕栽培と養液栽培)

施設内での栽培方式は、土を使う「土耕栽培」と、土を使わない「養液栽培」に大きく分かれます。

養液栽培とは、植物の成長に必要な養水分を培養液として与える栽培方法です。培地を用いない水耕栽培、固形培地を用いる固形培地耕、根に培養液を霧状に噴霧する噴霧耕があります。なお、培地に土を用いたものは養液栽培には含めず「養液土耕」と呼びます。

養液栽培には、土壌病害や連作障害を回避できること、給液や施肥管理を自動化して大規模化しやすいこと、肥料や水の利用効率が向上することといった長所があります。露地栽培に比べ、未熟練者でも高い再現性で栽培できる方法として評価されています。トマトやナスなどのナス科野菜、ホウレンソウやレタスなどの軟弱野菜、メロンやイチゴ、バラなどの花きに多く用いられています。

養液栽培のメリット・デメリットの詳細は、別記事「養液栽培のメリット・デメリット|土耕との違いと導入コスト」で解説しています。

加温の有無による分類

施設園芸は、加温設備を備えるものと、無加温のものに分けられます。地域によっては無加温でも栽培できますが、厳寒期に安定的な生産を進めるには加温が必要です。

農林水産省「園芸用施設の設置等の状況(令和5年)」によれば、園芸用ガラス室・ハウスの設置実面積37千ヘクタールのうち、加温設備の設置実面積は17千ヘクタールでした。そのうち化石燃料のみに依存するものが15千ヘクタール、化石燃料のみに依存しないものが2千ヘクタールとなっています。

施設園芸のメリット・デメリット

施設園芸のメリットとデメリットを整理します。

内容
メリット収穫期をずらすことで作物の安定供給が可能となり、価格変動を一定レベルに抑えられる。生育環境を人工的に調整できるため、高品質な作物の育成や収穫量の向上が可能になる。
デメリット施設の設置に資本投下が必要となる。加温を行う場合は燃料が必要で、燃料価格の高騰が経営に影響する(農林水産省も燃料価格高騰対策を実施している)。

施設園芸の主なメリット・デメリット(出典:大和三光製作所「施設園芸農業」、農林水産省「施設園芸のページ」をもとに作成)

燃料コストは施設園芸経営の課題の一つであり、農林水産省は農林漁業用A重油の小売価格や、施設園芸等燃料価格高騰対策といった支援策に関する情報を公表しています。

次世代施設園芸とは ― 施設園芸の最前線

施設園芸の今後を考えるうえで欠かせないのが、農林水産省が推進する「次世代施設園芸」です。

農林水産省は、我が国の施設園芸を次世代に向けて発展させるために、施設の大規模な集約によるコスト削減や、ICTを活用した高度な環境制御技術による周年・計画生産が必要だとしています。また、化石燃料からの脱却を目指し、木質バイオマスなど地域資源のエネルギーを活用していくことも重要だと位置づけています。

この方針のもと、農林水産省は先端技術と販売力を融合させ、生産から調製・出荷までを一気通貫して行う次世代施設園芸のモデル拠点を全国10箇所に整備しました。さらに令和2年度からは、我が国の施設園芸の大半を占めるパイプハウスなどの従来型の既存ハウスも活用しながら、データを活用した施設園芸(スマートグリーンハウス)への転換を促進する取組を進めています。

次世代施設園芸のねらいは、所得の向上と地域雇用の創出です。従来のハウスも活かしつつ、環境制御とデータ活用によって生産性を高めていく方向性が示されています。

まとめ

施設園芸とは、ガラス温室やビニールハウスなどの施設で環境を制御しながら、野菜・花き・果樹などを栽培する農業です。露地栽培と比べて、季節や天候に左右されにくく、安定供給や高品質・多収が期待できる一方、施設の設置や燃料などのコストがかかります。

栽培方式には土耕栽培と養液栽培があり、施設には加温するものと無加温のものがあります。そして農林水産省は、ICTによる環境制御やエネルギーの脱化石燃料化を柱とする「次世代施設園芸」を推進しています。

最後に用語の対応関係をおさらいしておきましょう。地理の教科書でいう「園芸農業」は、農業の現場や行政では「施設園芸」に対応します。教科書用語と実務用語のつながりについては、園芸農業と近郊農業の違いを整理した記事もあわせてご覧ください。

参考文献