野菜は1反(10a)でいくら稼げる?品目別・単収・所得率で比較する

これから野菜作りで新規就農を考えている方や、すでに小規模で野菜を作っている中小・個人農家の方にとって、「1反(10a)でどれくらい稼げるのか」は経営を考えるうえで欠かせない疑問です。本記事では、農林水産省の統計情報など、公表されている資料をもとに、新規就農者にもなじみのある指定野菜を中心に、品目別の単収(収量)所得率、さらに販路による手取りの差を整理していきます。

1. 「指定野菜」という切り口で考える

野菜の中でも、国が特に重要と位置づけているのが「指定野菜」です。本記事では、この指定野菜およびそれに準ずる代表的な品目(トマト・きゅうり・なす・ピーマン・ほうれんそう・ブロッコリー・アスパラガス)を中心に、単収と所得率の両面から比較していきます。大規模な施設投資や海外の先進事例ではなく、中小・個人農家や新規就農検討者が実際に選択しうる品目・規模を前提にまとめています。

2. 「指定野菜」とは何か

「指定野菜」とは、全国的に流通し、特に消費量が多く重要な野菜を指す制度上の区分です。現在は14品目が指定されていますが、2026年(令和8年)4月にはブロッコリーが15番目の指定野菜として追加されました。

区分品目
従来からの指定野菜(14品目)キャベツ、きゅうり、さといも、だいこん、たまねぎ、トマト、なす、にんじん、ねぎ、はくさい、ばれいしょ、ピーマン、ほうれんそう、レタス
2026年4月追加ブロッコリー

出典:シェアシマ「ブロッコリーが指定野菜に!従来の14品目一覧と特定野菜との違いについて解説」(2026年2月19日公開)

ブロッコリーの追加は、1974年のばれいしょ(じゃがいも)以来、約半世紀ぶりの指定野菜追加とされています。背景として、2023年のブロッコリー出荷量が15万6,400トンと2019年比13%増加するなど、出荷量・消費量の増加が挙げられています。

3. 品目別の10a当たり収量(単収)を比較する

まず、品目によって10a当たりの収量(単収)がどれくらい異なるのか単価の高い果菜類を対象に見ていきます。農林水産省「令和7年産指定野菜(春野菜、夏秋野菜等)の作付面積、収穫量及び出荷量」(令和8年4月28日公表)によると、令和7年産の全国データは次のとおりです。

品目作付面積10a当たり収量収穫量出荷量
トマト10,200ha6,270kg639,900t583,000t
きゅうり8,820ha5,650kg498,500t429,700t
ピーマン2,990ha4,510kg134,800t120,700t
なす7,270ha3,780kg275,000t222,300t

出典:農林水産省「令和7年産指定野菜(春野菜、夏秋野菜等)の作付面積、収穫量及び出荷量」(令和8年4月28日公表)

※ほうれん草は指定産地ベースの参考値のため、他の4品目(全国計)と単純比較はできません。

なお、農林水産省「令和6年産野菜指定産地の作付面積、収穫量及び出荷量」では、ほうれんそうの指定産地(令和6年5月8日農林水産省告示第911号で指定された市町村)における作付面積は5,480ha、収穫量は54,500tと示されています。ここから10a当たり収量を計算すると、約994kg(54,500t÷5,480ha×100)となります。

注意:ほうれんそうの数値は、全国計ではなく指定産地(特定の市町村)に限定した集計値から算出した参考値です。表2のトマト・きゅうり・ピーマン・なすは全国計であるため、集計対象の範囲が異なる点にご留意ください。

また、季節(作型)によっても単収は大きく変わります。同じ農林水産省の資料では、例えばトマトについて冬春トマト(10,200kg/10a)夏秋トマト(4,220kg/10a)のように、作型によって2倍以上の差があることも示されています。

品目冬春夏秋
トマト10,200kg4,220kg
きゅうり10,900kg3,770kg
なす10,900kg2,660kg
ピーマン9,570kg2,910kg

出典:農林水産省「令和7年産指定野菜(春野菜、夏秋野菜等)の作付面積、収穫量及び出荷量」

4. 品目別の所得率を比較する:個人農家の実データから

単収(量)に加えて、実際にどれくらいの利益率になるのかを見ていきます。農業利益創造研究所「2024年版『儲かり野菜』ランキング」(2026年2月16日公開)は、2024年の農業簿記ユーザー5,910件の野菜農家データ(青色申告個人農家15,780人の簿記情報を分析対象としたもの)に基づいており、実際に申告を行っている個人農家の実データという特徴があります。全22品目のランキングのうち、本記事で扱う品目を抜粋すると以下のとおりです。

順位品目所得率
7位きゅうり30.6%
8位なす29.0%
11位ほうれん草27.7%
12位トマト27.7%
13位アスパラガス27.6%
14位ピーマン26.8%
22位ブロッコリー22.1%

出典:農業利益創造研究所「2024年版『儲かり野菜』ランキング!所得率48%超の意外な1位とは?」(2026年2月16日公開)

5. 単収と所得率をあわせて見る

ここまでのデータを1つの表にまとめます。

品目10a当たり収量所得率
トマト6,270kg(全国)27.7%(12位)
きゅうり5,650kg(全国)30.6%(7位)
ピーマン4,510kg(全国)26.8%(14位)
なす3,780kg(全国)29.0%(8位)
ほうれん草約994kg(指定産地ベース)27.7%(11位)
ブロッコリーデータ未確認22.1%(22位)
アスパラガスデータ未確認27.6%(13位)

出典:表2〜表4を統合して作成

表5からは、きゅうり(所得率30.6%)となす(29.0%)は、儲かり野菜ランキングの中でも比較的上位に位置していることが分かります。一方、単収がもっとも多いトマト(6,270kg/10a)は、所得率で見ると27.7%と、きゅうり・なすよりは低い順位になっています。また、ブロッコリーは所得率が22.1%とランキング最下位である一方、単収データは確認できませんでした。これらはいずれも、農林水産省の統計と農業利益創造研究所の調査という異なる資料に基づく数値であり、調査主体・母集団が異なる点に注意が必要です。本記事で紹介した数値は、いずれも全国または指定産地全体の平均値であり、施設栽培か露地栽培か、産地や経営規模によって実際の値は変動し得ます。

6. 施設栽培と露地栽培の収益構造

品目だけでなく、栽培方法(施設か露地か)によっても収益構造は大きく変わります。農林水産省「野菜をめぐる情勢」(令和5年営農類型別経営統計に基づく)によると、野菜作経営の農業所得(10a当たり)は、施設野菜作が露地野菜作より高いことが示されています。

項目露地野菜作経営施設野菜作経営
農業粗収益704千円4,213千円
農業経営費576千円3,403千円
農業所得128千円810千円
農業所得率18.2%19.2%
労働時間233時間1,365時間

出典:農林水産省「野菜をめぐる情勢」(令和5年「営農類型別経営統計」に基づく)

農林水産省「施設園芸をめぐる情勢」(令和7年10月)でも、「施設野菜作は露地野菜作に比べ、所得も労働時間も約6倍となっており、10aあたりの所得は高いが、労働時間も長くなっているため、省力化が課題となっている」と指摘されています。施設野菜作は所得水準が高い一方、経営費・労働時間も大きくなる点に注意が必要です。

労働時間については、機械化による省力化の余地も報告されています。農林水産省「野菜をめぐる情勢」では、「機械化一貫体系を導入した場合、慣行栽培と比べ労働時間が、キャベツは4割、たまねぎは3割、ほうれんそうは1割に縮減」すると報告されています。

品目機械化一貫体系導入後の労働時間慣行栽培比の削減率
キャベツ42時間59%減
たまねぎ31時間70%減
ほうれんそう28時間90%減

出典:農林水産省「野菜をめぐる情勢」

7. 販路によって変わる「手取り」の差

品目や栽培方法による差に加えて、同じ品目・同じ収穫量であっても、どこに売るかによって手取りは大きく変わります。この点について、2つの資料から具体的なデータを確認します。

7-1. 価格転嫁の状況:市場出荷ほど転嫁率が低い傾向

農林中金総合研究所「調査と情報」2025年5月号(第108号)「農業の経営安定化に向けた価格転嫁の重要性」(宮﨑俊亨氏)によると、中小企業庁の調査(2024年9月実施)で初めて業種別に公開された「農業・林業」のコスト増に対する平均価格転嫁率は36.5%で、調査対象30業種中27位という結果でした。

転嫁割合全体(30業種平均)農業・林業
10割(全額転嫁)25.5%17.0%
9〜7割18.6%16.2%
6〜4割10.3%12.2%
3〜1割25.4%27.5%
0割(全く転嫁できず)18.8%25.4%

出典:農林中金総合研究所「調査と情報」2025.5(第108号)、資料:中小企業庁フォローアップ調査結果より作成

同レポートでは、取引段階が「1次請け」から「4次請け以上」へと増えるほど、全額転嫁(10割)の回答が減り、まったく転嫁できない(0割)の回答が増える傾向も示されており、「サプライチェーンの上流に行くほど、転嫁率が低下する傾向がある」と分析されています。また、「市場出荷の場合、価格は主に需給によって決定されるが、コスト増加分が市場価格に反映されるとは限らない」とも指摘されており、市場出荷を中心とした多段階流通では、コスト増加分を価格に反映しにくい実態がうかがえます。

7-2. 直売チャネルを利用した場合の手取りの違い

農産物直売プラットフォームを運営する株式会社農業総合研究所の「農家の直売所」サービスページによると、同社のサービスでは、全国の集荷拠点に農産物を持ち込み、都市部のスーパーマーケット内のインショップで最短翌朝に販売する仕組みが提供されています。生産者は規格・販売価格・販売先を自ら決められる点が特徴とされています。

登録手数料5,000円(税抜)
年会費2,000円(税抜)
出荷手数料およそ35〜45%程度(内訳:販売手数料が販売価格の30〜40%、バーコード発行金額の8.5%)
支払い月末締め、翌月末払い(相談により15日支払いも可)

出典:株式会社農業総合研究所「農家の直売所」サービスページ

同社が公表している比較データでは、既存流通(JA→市場→仲卸)を手取り指数30とした場合、「農家の直売所」では手取り指数60となり、2倍の水準になると示されています(同社公表の自社比較データによるもので、品目や条件によって実際の差は変動し得る点にご留意ください)。また、同社のプレスリリース(2025年8月8日公開)によれば、2025年7月の「農家の直売所事業」の月間流通総額は13.4億円と過去最高を更新し、全国約2,000店舗の小売店と、全国約10,000名の生産者がこのプラットフォームでつながっているとされています。

8. まとめ

本記事で紹介した資料からは、次の点が確認できました。

  • 指定野菜は現在14品目ですが、2026年4月にブロッコリーが15番目として追加されました(約半世紀ぶりの追加)。
  • 10a当たり収量はトマト6,270kg、きゅうり5,650kg、ピーマン4,510kg、なす3,780kg(いずれも令和7年産・全国)で、作型(冬春・夏秋)によっても大きく変わります。
  • 所得率ではきゅうり(30.6%)となす(29.0%)が本記事で扱った品目の中では上位に位置する一方、ブロッコリーは22.1%と最下位でした(個人農家の農業簿記データに基づく)。
  • 施設野菜作は露地野菜作に比べ、10a当たりの農業所得・労働時間ともに約6倍となっています。
  • 農業・林業の価格転嫁率は他業種と比べて低く、市場出荷ほど転嫁率が低い傾向があります。直売チャネルの利用により、既存流通に比べて手取りが高くなり得るというデータも報告されています。

「野菜は1反でいくら稼げるか」という問いに対する単一の答えはありませんが、品目ごとの単収・所得率、栽培方法、販路という複数の観点から、公表されているデータを確認していくことが、現実的な収益シミュレーションの第一歩になると言えそうです。

参考文献