畑地化促進事業によって、水田を畑地化する動きは全国で着実に進んでいます。農林水産省の資料によれば、令和5年開始分として要件確認ができた約3万ha、令和6年開始分として関係機関や地主等の同意確認がなされた約1.8万haについて交付金が交付されています。
しかし、面積が動いたことと、その圃場で高収益作物が定着することは別の話です。「10a当たりの収益が高い品目」という一点だけで作目を選ぶと、湿害で単収が出ない、収穫期の人手が足りない、出口がないまま市場で叩かれる、という3つの失敗に行き着きます。
この記事では、畑地化後の作目選定を「排水性」「労働力」「販路」の3つの判断軸から整理します。あわせて、2027年度(令和9年度)からの水田政策見直しという前提条件の変化と、収益データを扱う際に必ず知っておくべき統計上の注意点についても解説します。
1. 前提整理:畑地化は「補助金を取る手続き」ではありません
1-1. 畑地化とは何を指すのか
まず定義を正確に押さえます。農林水産省は畑地化促進事業における「畑地化」について、交付対象水田から除外する取組をいい、地目の変更を求めるものではないと明記しています。登記地目を田から畑に変更する手続きではない、という点はしばしば誤解されるところです。
事業は大きく3つの支援メニューで構成されています。
| 支援メニュー | 内容 |
|---|---|
| 畑地化支援 | 水田を畑地化して、ア.高収益作物、イ.畑作物(高収益作物以外)の本作化に取り組む農業者を支援 |
| 定着促進支援 | 水田を畑地化して、高収益作物または畑作物の定着等に取り組む農業者を5年間、継続的に支援 |
| 産地づくり体制構築等支援 | 団地化やブロックローテーションの体制構築等の調整経費(1協議会あたり上限300万円)、土地改良区の地区除外決済金等(上限25万円/10a)を支援 |
表1:畑地化促進事業の支援メニュー(出典:農林水産省「畑地化促進事業の要望調査について」)
ここでいう高収益作物とは、野菜、果樹、花き等を指します。農林中金総合研究所は、高収益作物を「主食用米と比べて面積当たりの収益性が高い作物をいい、野菜、花き・花木および果樹に該当する作物のこと」と説明しています。
1-2. 支援単価は年々引き下げられています
作目選定に入る前に、必ず理解しておきたいのが単価の推移です。農林水産省は2025年11月12日の自民党農業構造転換推進委員会で、26年産の畑地化支援単価を引き下げることを明らかにしました。
| 対象年産 | 畑地化支援 | 定着促進支援 | 引き下げの考え方 |
|---|---|---|---|
| 令和6年産 | 14.0万円/10a | 2万円/10a×5年間 | ― |
| 令和7年産 | 10.5万円/10a | 2万円/10a×5年間 | 前年に戦略作物助成3.5万円を受給していることを踏まえた引き下げ |
| 令和8年産 | 7.0万円/10a | 2万円/10a×5年間 | 24年産・25年産の2年間で戦略作物助成を計7万円受給しているため、先に取り組んだ生産者と公平になるよう支援総額が14万円となるよう調整 |
表2:畑地化支援単価の推移(出典:JAcom「畑地化 26年産取組みは支援単価引き下げ」2025年11月13日)
この表から読み取るべきことは明確です。単価の引き下げは「支援総額が14万円/10aとなるよう公平化する」という考え方に基づいており、早く申請すれば有利になる、あるいは遅らせれば損をするという構造ではありません。つまり、単価の水準そのものは作目選定の判断材料になりません。
なお令和8年度の定着促進支援については、高収益作物のうち加工・業務用野菜等の場合は2.0万円ではなく3.0万円/10a×5年間(一括の場合は10.0万円ではなく15.0万円/10a)という区分が設けられています。加工・業務用という出口の選択が、支援水準にも反映されている点は後述の「販路」の軸につながります。
1-3. 2027年度から前提そのものが変わります
農林水産省は2025年1月31日、水田政策の見直し方向を明らかにしました。要点は次のとおりです。
- 水田を対象として支援してきた水田活用の直接支払交付金を見直し、水田・畑に関わらず作物ごとの生産性向上を支援する政策に転換する
- 2027年度から実施することとしており、2027年度以降は「5年に一度の水張り要件」はなくなる
- 2025年産、26年産も、連作障害を回避する土壌改良材や堆肥の投入、病害を予防する薬剤の投入などを実施していれば、水張りをしなくても交付対象とする
- 水田フル活用政策から、畑地(水田からの畑地化を含む)も対象に農地をフルに活用する政策へ転換する
この転換により、「水張り要件を回避するために畑地化する」という動機は2027年度以降は成立しなくなります。残るのは、その圃場でその作物を作り続けられるかどうかという、経営そのものの問題だけです。
あわせて、財務省の財政制度等審議会(2025年11月7日)では、水田活用の直接支払交付金等、畑地化促進事業、畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)、収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)を含む土地利用型農業に対する財政負担の推移が資料として提出されています。支援の恒久性を前提に置かない設計が求められる局面にあることは押さえておくべきでしょう。
※2027年度以降の具体的な支援単価・要件の詳細については、農林水産省が2025年度中に全体像をまとめるとしていた事項です。【要確認】実際の申請にあたっては、最新の確定情報を必ずご確認ください。
2. 判断軸①「排水性」──土地が選択肢の範囲を決めます
2-1. 汎用化水田が抱える構造的な矛盾
水田を畑として使うことには、原理的な難しさがあります。研究文献では、汎用化水田は「水稲生産で必要な湛水機能と畑作物生産で必要な排水機能を両立させるという矛盾を抱えている」と整理されています。さらに畑作物生産では、生育期間中に適宜灌水して干害を回避する必要もあります。
転換畑では湿害対策が最大の課題であり、従来から暗渠排水や補助暗渠、浅溝掘削等の対策が採られてきました。一方で、畑作物の高品位安定生産を実現するためには適正な地下水位を維持することも重要である、と農研機構は指摘しています。
2-2. 排水対策は3つの層で考えます
| 層 | 主な工法・技術 | 特徴 |
|---|---|---|
| 基盤整備レベル | 区画整理、暗渠排水、農業用用排水施設整備 | 公共事業として実施。国費率・補助率は2/3、1/2等 |
| システムレベル | 地下水位制御システム(FOEAS) | 暗渠排水機能と地下灌漑機能を併せ持ち、湿害と干ばつ害を回避するとともに、転作作物に最適な地下水位を維持できる |
| 圃場管理レベル | カットドレーン、プラソイラ等 | 営農者が施工可能。無処理と比較して湿害軽減効果が確認されている |
表3:排水対策の3つの層(出典:農林水産省、農研機構、茨城県農業総合センターの各資料より作成)
圃場管理レベルの効果については、茨城県農業総合センターが2025年1月に公表した水田転換畑のネギ試験が参考になります。カットドレーンやプラソイラによる排水対策を施工することで、無処理に比べネギ葉鞘切断面からの出液量が多くなり、葉表面温度も低くなったという結果が得られています。これは蒸散が多いことを示唆し、排水対策を施工することで無処理より根系の活性が高く維持され、湿害が軽減されると考察されています。
ここで重要なのは、湿害は「枯れる」という分かりやすい形ではなく、根系活性の低下を通じて単収や秀品率の低下として現れるという点です。原因の特定が遅れやすく、気づいたときには数作分の収益を失っているという性質を持ちます。
2-3. 基盤整備を使う場合は高収益作物の割合要件があります
公共事業として水田の畑地化・汎用化を行う場合、事業の実施要件として次の条件が設定されています。
- 作物生産額(主食用米を除く)に占める高収益作物の割合がおおむね8割以上となること
- または、その割合がおおむね5割以上となり、かつ高収益作物に係る生産額がおおむね50%以上増加することが見込まれること
つまり、基盤整備を伴う畑地化では、作目の選定と事業採択が最初から連動しています。「まず排水を直してから、後でゆっくり作目を考える」という順序が取れない場合がある点に注意が必要です。
3. 判断軸②「労働力」──10a当たり所得ではなく時間で見ます
3-1. 野菜は米と労働時間の桁が違います
農林水産省「野菜をめぐる情勢」は、野菜は機械化一貫体系が確立されている米に比べ、労働時間が大幅に長いと明確に述べています。特に機械化が遅れている収穫、調製や包装・出荷作業に時間を要しているという構造です。
この構造は政府横断の分析でも確認されています。内閣官房の「省力化投資促進プラン(農林水産業)」では、露地野菜・花き作においては収穫作業の労働負担が最も大きく、機械の自動化を含めた効率化が必要であるとされています。さらに収穫後の調製作業についても、部分的に機械化は進められているものの、調製ラインへの搬入や箱詰め等の人手を要する作業が残されていると指摘されています。
3-2. 【重要】収益データの出典に関する注意
作目比較にあたって、必ず知っておいていただきたい事実があります。
農林水産省の農業経営統計調査のうち、野菜、果樹、花き、豆類等の品目別経営収支を扱う「品目別経営統計」は、平成19年調査で廃止されています。
インターネット上には「品目別の10a当たり所得と労働時間」を並べた比較表が数多く流通していますが、その多くは平成19年(2007年)の統計を出典年次を明示しないまま用いたものです。資材費、燃料費、雇用労賃の水準が当時とは大きく異なる現在、この数値をそのまま経営判断に使うことは危険です。
【要確認】品目別の収益性・労働時間を比較する際は、お住まいの都道府県が公表している農業経営指標を一次資料として用い、必ず年次と出典を確認してください。県の経営指標は作型別に10a当たり粗収益・経営費・所得・労働時間が整理されており、地域の気象条件や作型が反映されている点でも実務的です。本記事では、出典を特定できない数値を掲載することは避けます。
3-3. 機械化一貫体系でどこまで縮むのか
労働時間は固定された条件ではありません。農林水産省「野菜をめぐる情勢」は、機械化一貫体系を導入した場合の労働時間の縮減効果を次のように示しています。
| 品目 | 機械化一貫体系導入時の労働時間(慣行栽培との比較) |
|---|---|
| キャベツ | 4割に縮減 |
| たまねぎ | 3割に縮減 |
| ほうれんそう | 1割に縮減 |
表4:機械化一貫体系による労働時間の縮減(出典:農林水産省「野菜をめぐる情勢」)
キャベツの機械化一貫体系は、全自動播種プラント、畝立同時施肥機、全自動移植機、乗用管理機、収穫機で構成される例が示されています。
ただし、この縮減効果は機械への投資と一定の面積があって初めて成立します。同資料が紹介する産地事例では、次のような体制が組まれています。
- 当初から、水稲と同様の機械化による省力化を念頭に検討
- JAが定植機、収穫機等の機械を導入し、生産者に貸し出す方式による機械化一貫体系の導入
- JAが乾燥貯蔵施設、選別調製施設を整備し、乾燥、調製、選別を請負
- 積雪期間中は防除などの管理が必要なく、春先には雪解け水を畝間潅水に活用する等、地域の特徴を活かした栽培技術の導入
つまり労働力の軸は、個別経営だけで完結しません。機械と調製施設を誰が持つのか、という地域の体制設計とセットで考える必要があります。畑地化促進事業に「産地づくり体制構築等支援」が置かれ、団地化やブロックローテーションの体制構築のための調整経費が対象になっているのは、この点と対応しています。
なお農林水産省は、露地野菜生産の省力化に資する技術や製品・サービス等を集約した情報ページを公開しており、品目別に省力化技術を確認できます。作目候補が絞れた段階で、当該品目の機械化がどこまで進んでいるかを確認することをおすすめします。
4. 判断軸③「販路」──出口が決まっていない作目は選べません
4-1. 野菜需要の6割は加工・業務用です
農畜産業振興機構の調査は、国内の野菜需要構造を次のように示しています。
- 野菜の国内消費量のうち、家計消費用が約4割、加工・業務用が約6割を占める
- 家計消費用はほぼ100%が国産であるのに対し、加工・業務用は輸入割合が高い
この構造は、畑地化を検討する経営にとって直接的な意味を持ちます。畑地化によってまとまった面積と大区画を確保できる経営こそ、加工・業務用という最大の需要ブロックに応えられる主体だからです。実際、農林水産省は輸入品から国産への転換が求められる品目として、小麦、大豆と並んで加工・業務用野菜を挙げ、水田の汎用化・畑地化を行うなど総合的な推進を通じて国内生産の増大を図るとしています。
4-2. 契約取引で収益を確保する条件
ただし、加工・業務用は「作れば売れる」市場ではありません。農畜産業振興機構は、取り組みの方向として次の点を挙げています。
- 価格は工場着価格などの取引先納品価格や産地渡し価格など、契約価格で設定されることが多い
- 家計消費用に比べて安価であることも踏まえると、生産面・流通面双方での低コスト化が重要
- 契約取引による固定価格での取引の場合、低コスト化によって生じた差額分を生産者の所得増加へつなげることが大切
- 実需者との契約生産をベースとし、数量、価格、品質・形態などの規格を事前に取り決めたうえで、大型規格の高単収栽培などを、スマート農業技術の活用を含む機械化一貫体系などの効率的で省力型の生産体系の下で行う
- 生育予測システムを活用して適期収穫に活かすとともに、生育・作柄情報を関係者間で共有する
ここで販路の軸と労働力の軸が接続します。加工・業務用の契約取引で利益を出す前提は「機械化一貫体系による低コスト生産」であり、機械化が確立していない品目を加工・業務用向けに選ぶと、固定価格が単純に低単価として効いてしまいます。
なお契約取引の実務については、農林水産省が「加工・業務用野菜標準基本契約取引ガイドライン2023」を公開しています。また農林水産省は「国産野菜シェア奪還プロジェクト」を立ち上げ、2025年4月に令和6年度の品目別課題調査の報告書を掲載したほか、加工・業務用野菜の生産に取り組む生産者の事例、大規模契約栽培産地育成強化事業を活用した産地の事例、産地と連携した加工業者・中間事業者の事例を公開しています。品目候補が絞れた段階で、同じ品目の産地事例を確認することが実務上もっとも近道です。
4-3. 価格安定制度の対象かどうかは、作目選定の軸そのものです
販路を考えるうえで見落とされがちなのが、野菜価格安定制度の対象品目かどうかという論点です。
指定野菜とは、国民消費生活上重要な野菜として国が定めるものです。価格低落時には生産者補給金等が交付されます。従来の14品目は、キャベツ、きゅうり、さといも、だいこん、トマト、なす、にんじん、ねぎ、はくさい、ピーマン、レタス、たまねぎ、ばれいしょ、ほうれんそうでした。
そして2026年度(令和8年度)から、ブロッコリーが指定野菜に追加されました。これにより指定野菜は15品目となっています。指定野菜への品目追加は、1974年のばれいしょ以来およそ半世紀ぶりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 指定野菜の品目数 | 15品目(従来14品目+ブロッコリー) |
| 制度上の経緯 | 政省令を令和6年度に改正して公布、令和7年度に産地における準備・手続き、令和8年度から指定野菜への追加および運用開始 |
| ブロッコリーの種別 | 令和8事業年度開始時点において、春ブロッコリー、夏秋ブロッコリー、冬ブロッコリーを種別として事業開始予定 |
| 拠出割合 | 指定野菜価格安定対策事業:国:都道府県:生産者=3:1:1 |
表5:ブロッコリーの指定野菜追加の概要(出典:農畜産業振興機構「ブロッコリーの指定野菜への追加について」)
ただし、指定野菜を作れば自動的に補給金の対象になるわけではありません。指定野菜価格安定対策事業を利用するためには、作付面積および出荷割合が既定の要件を満たし、指定産地として指定される必要があります。ブロッコリーについて想定されている要件は次のとおりです(各要件を緩和する特例措置も存在します)。
- 作付面積:葉茎菜・根菜類で20ha以上
- 出荷割合:2/3以上
この要件は、畑地化を「個々の経営の判断」ではなく「地域単位の産地形成」として進めるべき理由を端的に示しています。20haという水準は、集落単位・協議会単位でまとまって同一品目に取り組めば射程に入る規模です。畑地化促進事業に団地化やブロックローテーションの体制構築支援が組み込まれているのは、まさにこの水準を意識した設計と読むことができます。
なお野菜価格安定制度には複数の事業があり、野菜の種類により指定野菜を対象とする事業と特定野菜を対象とする事業に分けられ、さらに取引形態により卸売市場出荷を対象とする事業と契約取引を対象とする事業に分けられます。【要確認】個別の事業要件・補給割合は制度改正の対象となるため、加入検討時には最新の要件をご確認ください。
5. 3つの軸をどう掛け合わせるか
5-1. 検討の順序は「排水性 → 販路 → 労働力」です
3つの軸は並列ではありません。変えにくいものから順に検討し、変えやすいもので調整するのが合理的です。
| 順序 | 軸 | 役割 | 変更のしやすさ |
|---|---|---|---|
| 1 | 排水性 | 候補をふるい落とす | 低い(基盤整備・暗渠等の投資と年数が必要) |
| 2 | 販路 | 候補を絞り込む | 中(実需者・産地の体制に依存) |
| 3 | 労働力 | 最終決定する | 高い(機械化一貫体系・雇用・作業受託で調整可能) |
表6:3つの判断軸の検討順序
収益性は「軸」ではなく、3つの軸を通過した候補どうしを比較するための最後の物差しです。収益性から入ると、そもそも自分の圃場では成立しない品目を検討の中心に据えてしまいます。
5-2. 作目選定チェックシート
| 軸 | 確認項目 | 確認先 |
|---|---|---|
| 排水性 | 暗渠の有無・施工年、前作(麦・大豆等)の単収実績 | 自圃場の記録、土地改良区 |
| 排水改良に必要な工法・費用・期間 | 県・市町村の農業土木担当、土地改良区 | |
| 基盤整備を使う場合、高収益作物割合の要件を満たせるか | 市町村、農業再生協議会 | |
| 販路 | 候補品目は指定野菜(15品目)か、特定野菜か | 農畜産業振興機構、県 |
| 指定産地の要件(面積・出荷割合)に地域として届くか | 農業再生協議会、JA | |
| 加工・業務用の実需者との接点があるか | 国産野菜シェア奪還プロジェクト、JA | |
| 労働力 | 候補品目に機械化一貫体系が確立しているか | 農林水産省 露地野菜省力化技術情報 |
| 機械・調製施設を誰が持つのか(個別/JA/協議会) | JA、農業再生協議会 | |
| 既存作物と作業ピークが重ならないか | 自経営の作業日誌 | |
| 収益性 | 10a当たり所得と労働時間を、都道府県の経営指標で確認 | 都道府県(年次・出典を必ず確認) |
表7:畑地化後の作目選定チェックシート
5-3. 産地としての取り組みが前提になります
農林水産省は、高収益作物の導入・定着を図るため、「水田農業高収益化推進計画」に基づき、国のみならず地方公共団体等の関係部局が連携し、水田における高収益作物への転換、水田の畑地化・汎用化のための基盤整備、栽培技術や機械・施設の導入、販路確保等の取組を計画的かつ一体的に推進するとしています。
この文章に、本記事で述べた3つの軸がすべて含まれている点にご注目ください。基盤整備(排水性)、機械・施設の導入(労働力)、販路確保(販路)が「一体的に」と明記されているのは、どれか1つが欠けると定着しないという経験則の反映と読めます。
なお、水田農業における高収益作物等の産地は、令和6(2024)年12月末時点で538産地まで増加しています。
まとめ
- 畑地化は地目変更ではなく、交付対象水田から除外する取組です。支援単価は令和6年産14.0万円から令和8年産7.0万円へ引き下げられており、支援総額が一定になるよう設計されているため、単価は作目選定の判断材料になりません。
- 2027年度から、水田活用の直接支払交付金は作物ごとの生産性向上支援へ転換し、5年に一度の水張り要件はなくなります。「水張り回避のための畑地化」という動機は消え、経営として成立するかどうかだけが残ります。
- 排水性が最初のふるいです。汎用化水田は湛水機能と排水機能の両立という矛盾を抱えており、湿害は根系活性の低下として静かに単収を削ります。
- 販路で候補を絞ります。野菜需要の約6割は加工・業務用であり、輸入割合が高い領域です。指定野菜は令和8年度からブロッコリーが加わり15品目となりましたが、補給金を受けるには指定産地の要件を満たす必要があります。
- 労働力で最終決定します。野菜は米に比べ労働時間が大幅に長い一方、機械化一貫体系の導入でキャベツは4割、たまねぎは3割、ほうれんそうは1割まで縮減した例があります。ただしこれは機械と調製施設をどう持つかという地域の体制設計とセットです。
畑地化は、補助金を受け取って終わる手続きではありません。「支援が出るから作る」から「作り続けられるから支援を使う」への転換が、2027年度以降を見据えた作目選定の出発点になります。
参考文献
■制度・政策
農林水産省「畑地化促進事業の要望調査について」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/hatatika_youbou.html
農林水産省「畑地化促進事業の推進状況」(食料・農業・農村政策審議会 2025年1月31日)
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokuryo/250131/attach/pdf/250131-55.pdf
JAcom 農業協同組合新聞「畑地化 26年産取組みは支援単価引き下げ」(2025年11月13日)
https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2025/11/251113-85699.php
JAcom 農業協同組合新聞「水田政策見直し 田・畑とも「作物」支援へ転換 27年度から 水張り要件廃止」(2025年1月31日)
https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2025/01/250131-79269.php
財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会 資料4(2025年11月7日)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20251107/04.pdf
農林水産省「令和6年度 食料・農業・農村白書」第1部第3章第4節
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r6/r6_h/trend/part1/chap3/c3_4_00.html
■排水性・基盤整備
茨城県農業総合センター「排水対策施工による水田転換畑におけるネギの安定生産」(2025年1月)
https://nouiba.pref.ibaraki.jp/special/2025/01/19008/
農研機構「暗渠排水と地下灌漑機能を併せ持つ低コストな地下水位制御システム」
https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/nkk/2003/nkk03-26.html
「汎用化水田の導入による水田作経営の展開可能性」(農林水産研究情報総合センター)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010891043.pdf
農林水産省「水田の畑地化、畑地・樹園地の高機能化等の推進(公共)」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/soumu/yosan/attach/pdf/index-130.pdf
■労働力・省力化
農林水産省「野菜をめぐる情勢」(本記事が参照した版のPDF)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/attach/pdf/iyfv-133.pdf ※最新版は農林水産省「野菜のページ」に掲載されています
農林水産省「露地野菜の生産における省力化技術の情報について」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/rojiyasaisyouryokuka.html
内閣官房「省力化投資促進プラン ―農林水産業(農業)―」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai34/shiryou16-12.pdf
農林水産省「農業経営統計調査 調査一覧」(品目別経営統計の廃止年次)
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukei/
■販路・価格安定制度
農畜産業振興機構「ブロッコリーの指定野菜への追加について」(野菜情報 2025年10月)
https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/wadai/2510_wadai1.html
農畜産業振興機構「ブロッコリーの指定野菜への追加について」(制度資料PDF)
https://www.alic.go.jp/content/001275292.pdf
農畜産業振興機構「加工・業務用野菜の国産シェア奪還に向けた品目別課題調査について」(2025年7月)
https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/2507_chosa2.html
農畜産業振興機構「加工・業務用野菜の生産・供給拡大に向けた取り組みの方向」(野菜情報 2025年4月)
https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/wadai/2504_wadai1.html
農林水産省「国産野菜シェア奪還プロジェクト」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/kokusan_shea_dakkan.html
農林水産省「加工・業務用野菜対策」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kakou/yasai_kazitu/index.html
■その他
農林中金総合研究所「水田農業における高収益作物等への転換」(2021年3月)
https://www.nochuri.co.jp/skrepo/pdf/sr210318-02.pdf
