みどりの食料システム戦略とは?環境保全型農業に取り組むメリットと支援策

「みどりの食料システム戦略」は、農林水産業の生産力向上と持続性の両立を目指す国の中長期戦略です。有機農業や化学肥料・化学農薬の低減に取り組む農業者には、環境保全型農業直接支払交付金をはじめとするさまざまな支援策が用意されています。本記事では、戦略の概要と、環境保全型農業に取り組むことでどのようなメリット・支援を受けられるのかを、令和8年度(2026年度)の制度を例に整理して解説します。これらの制度は毎年度継続して実施されている枠組みのため、これから取り組みを検討する方にも参考にしていただける内容です。

みどりの食料システム戦略とは

農林水産省は、大規模自然災害や地球温暖化、生産者の減少による生産基盤の脆弱化・地域コミュニティの衰退といった課題に対応するため、「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する」ことを目的に、みどりの食料システム戦略を策定しました。諸外国でも環境や健康に関する戦略が策定される動きがあり、ESG投資市場が拡大していることも背景にあるとされています。

戦略では、将来にわたって食料の安定供給を図るために持続可能な食料システムを構築することが急務と位置づけられており、革新的な技術・生産体系を2040年までに開発し、2050年までに社会実装することが掲げられています。

戦略の柱の一つが有機農業の拡大です。農林水産省が公表している資料によると、有機農業の取組面積と関連指標の推移・目標は次のとおりです。

指標過去の実績直近の実績2030年目標2050年目標
有機農業取組面積2017年:2.35万ha(耕地面積比0.5%)2023年:3.45万ha(耕地面積比0.8%)6.3万ha100万ha(耕地面積比25%)
有機農業に取り組む農業者数2009年:1.18万人令和5年度:有機JAS認証取得農家4,075戸3.6万人―
有機食品市場規模2009年:1,300億円2022年:2,240億円3,280億円(見通し)―
有機食品の輸出額2017年:17.5億円2022年:51.2億円210億円―

※出典:農林水産省農産局「有機農業の取組拡大に向けて」(令和7年10月)

環境保全型農業とは

環境保全型農業とは、化学肥料・化学農薬の使用を低減しながら、地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動に取り組む農業の総称です。国の環境保全型農業直接支払交付金では、平成23年度より「化学肥料・化学農薬を原則5割以上低減する取組と合わせて行う地球温暖化防止や生物多様性保全等に効果の高い営農活動」を支援対象としており、平成27年度からは日本型直接支払制度の一つとして毎年度継続的に実施されています。

対象となる作物は、各地域で通常の営農管理が行われる際の慣行レベル(化学肥料・農薬の使用状況)が設定されているものが基本です。有機農業についても、都道府県が支援対象として適当と判定し公表している場合には対象となります。

環境保全型農業は今年度どんな支援を受けられるのか

環境保全型農業に関する支援策は、単発の制度ではなく、毎年度、同じ枠組みで継続的に実施されていることが特徴です。農林水産省のウェブサイトでは、令和7年度分・令和8年度分といった形で年度ごとに制度のページが更新されており、令和8年度(2026年度)は次のような制度が用意されています。

  • 環境保全型農業直接支払交付金:化学肥料・農薬の低減や有機農業に取り組む農業者を対象に、掛かり増し経費を毎年度補填する制度
  • みどりの食料システム戦略推進総合対策:有機農業拠点創出・拡大加速化事業、有機転換推進事業など10の事業メニューで構成される総合的な支援策
  • 有機農業推進総合対策事業:有機農業の推進に関する取組を公募により支援する事業
  • 強い農業づくり総合支援交付金(食料システム構築支援タイプ):食料システム構築計画に位置付けられた拠点事業者・連携者向けの施設整備等の支援

これらはいずれも複数年度にわたって同様の名称・枠組みで実施されていることが農林水産省の公開資料から確認できるため、来年度以降も同様の制度が継続される可能性が高いと考えられます。ただし、正式な実施内容・予算・公募時期は年度ごとに改めて公表されるため、実際に申請を検討する際は、必ず農林水産省の最新ページでご確認ください。

環境保全型農業に取り組むメリット

環境保全型農業に取り組むことで、農業経営には次のようなメリットが期待できます。

  1. 交付金による経営の下支え:環境保全型農業直接支払交付金など、取り組み内容に応じた交付金を毎年度活用できます。
  2. 掛かり増し経費の補填によるコスト負担の軽減:環境保全型農業直接支払交付金は、化学肥料・農薬低減に伴う掛かり増し経費を国が直接補填する仕組みです。そのため、取り組みに伴うコスト増加分を必ずしも農産物価格へ転嫁しなくても、経営を継続しやすくなる点も見逃せません。
  3. 有機農業拡大に向けた重点支援の対象になり得ること:みどりの食料システム戦略推進総合対策には、有機農業拠点創出・拡大加速化事業や有機転換推進事業など、有機農業への転換・拡大を後押しするメニューが設けられています。
  4. 技術指導体制の整備が進んでいること:有機農業の技術指導ができる都道府県の割合は、2023年度の38%(18/47都道府県)から2030年度には80%(38/47都道府県)まで引き上げる目標が掲げられており、今後、技術的なサポートを受けやすくなることが見込まれます。
  5. 市場・輸出面での成長性:有機食品の市場規模は2022年の2,240億円から2030年には3,280億円まで拡大する見通しが示されており、輸出額も2022年の51.2億円から2030年には210億円まで拡大する目標が掲げられています。

活用できる主な支援策・交付金の枠組み

それぞれの制度の対象・内容と、実施サイクルの目安は次のとおりです。時期は令和8年度の実績を例として記載していますが、年度によって変わるため、申請を検討する際は必ず最新の公表情報をご確認ください。

制度名対象・内容実施サイクルの目安(令和8年度の例)
環境保全型農業直接支払交付金化学肥料・化学農薬を原則5割以上低減する取組と合わせて行う環境保全効果の高い営農活動を支援。掛かり増し経費を直接補填する方式毎年度継続実施。令和8年度は4月~6月末頃が公募時期の目安(市町村により異なる)
みどりの食料システム戦略推進総合対策有機農業拠点創出・拡大加速化事業、有機転換推進事業など10事業メニューで構成毎年度当初予算として実施(令和7年度・令和8年度と継続)
有機農業推進総合対策事業有機農業の推進に関する取組を支援(補助対象経費の詳細は公募要領を参照)年1回程度公募。令和8年度は5月に公募が実施された
強い農業づくり総合支援交付金(食料システム構築支援タイプ)食料システム構築計画等に位置付けられた拠点事業者・連携者向け。補助率は定額・1/2以内等、整備事業の上限は20億円/年、ソフト支援は5,000万円/年。令和8年度予算額は120億13百万円年複数回公募。令和8年度は1月・4月の年2回実施された

環境保全型農業直接支払交付金の具体的な交付単価(全国共通取組・10アールあたり)については、農林水産省一次資料に加え、農業情報メディアの解説記事でも次のように紹介されています。
【要確認】単価は国と地方の合計額であり、都道府県によって異なる場合があるため、申請前に必ず農林水産省または市町村の一次情報でご確認ください

取組内容交付単価(10aあたり)
有機農業(そば等雑穀・飼料作物以外)14,000円
うち炭素貯留効果の高い有機農業+2,000円加算
有機農業(そば等雑穀・飼料作物)3,000円
緑肥の施用5,000円
堆肥の施用3,600円
総合防除(そば等雑穀・飼料作物以外)4,000円
総合防除(そば等雑穀・飼料作物)2,000円
炭の投入5,000円

※このほか、新規に有機農業を開始した農業者の受入れ・定着を支援する団体向けに、新規取組面積10アールあたり4,000円を加算する「取組拡大加算」も設けられています。この単価は毎年度改定される可能性があるため、実際に活用する際は最新の単価表をご確認ください。

申請を検討する際の流れと注意点

  • 環境保全型農業直接支払交付金は、農林水産省共通申請サービス(eMAFF)での電子申請が可能ですが、申請受付が難しい市町村もあるため、まずは農地所在地の市町村へ申請可否を確認するところから始めるとよいでしょう。
  • 本交付金は予算の範囲内で交付される仕組みであり、申請額の全国合計が予算を上回った場合には交付額が減額されることがあります。
  • 有機農業推進総合対策事業や強い農業づくり総合支援交付金は、年1〜2回程度のペースで公募が行われる制度です。公募期間は例年決まった時期に設定される傾向がありますが、正式な時期は年度ごとに公表されるため、取り組みを検討し始めたら早めに農林水産省の公募ページを定期的にチェックすることをおすすめします。
  • 強い農業づくり総合支援交付金(食料システム構築支援タイプ・全国の取組)は、承認された(審査中を含む)食料システム構築計画等に位置付けられた拠点事業者及び連携者が応募対象です。

まとめ

みどりの食料システム戦略は、2050年に向けて有機農業の取組面積を100万ha(耕地面積比25%)まで拡大するなど、長期的な目標を掲げた戦略です。環境保全型農業直接支払交付金をはじめとする交付金は、化学肥料・農薬低減に伴う掛かり増し経費を国が直接補填する仕組みであり、コスト増加分を価格に転嫁しなくても取り組みを継続しやすくする効果が期待できます。これらの支援策は単年度限りのものではなく、毎年度継続的に実施されている枠組みのため、「今年度は間に合わなかった」という場合でも、次年度以降の公募に向けて準備を進めることができます。取り組みを検討する際は、農林水産省の一次資料や市町村窓口で最新の要件・公募時期を確認することをおすすめします。

参考文献