「農業従事者の高齢化が深刻だ」――この言葉は、農業政策や農業ビジネスに関わる人なら誰もが知っているフレーズです。しかし、「いつ」「どの規模で」「どの品目から」崩れていくのかを、データを根拠に語れる人はどれほどいるでしょうか。

本記事では、農水省の農林業センサス・農業構造動態調査をはじめとする統計データを基に、年齢別基幹的農業従事者の構造と高齢化の進行速度を多角的に分析します。品目差・地域差・コーホート分析の三つの軸を組み合わせることで、「10年後の農業」のリスクと構造転換のシナリオを描き出します。

第1章 基幹的農業従事者の年齢別構造:現状データを読む

1-1. 基幹的農業従事者とは何か

農業に関わる統計を読む際、まず定義を確認することが重要です。「基幹的農業従事者」とは、15歳以上の世帯員のうち、ふだん仕事として主に自営農業に従事している者を指し、雇用者は含まれません(農水省「農業構造動態調査」定義)。

農業就業人口(自営農業に少しでも従事した者)よりも絞り込まれた概念であり、農業の実質的な担い手の動向を把握するうえで最も重要な指標とされています。法人経営体の常雇い従業員などは含まれない点に注意が必要です。

1-2. 20年間の半減と高齢化の同時進行

まず大局的な推移を確認しましょう。農水省の統計によれば、基幹的農業従事者数は2000年の約240万人から2024年には111万4千人へと、わずか24年間で半減しています(令和6年度食料・農業・農村白書)。同時に、平均年齢は2000年の62.2歳から2024年には69.2歳へと、7歳も上昇しました。

図表1 基幹的農業従事者数と平均年齢の推移(2000〜2025年)

この推移が示す構造的な問題は、単なる人数の減少ではありません。減っているのは主に若年・中年層ではなく高齢層の自然退出であり、補充される若年層が極めて少ないという点にあります。65歳以上の割合は2000年の約50%から2024年には71.7%へと上昇し、農業が特定の世代に依存した産業構造になっていることを示しています。

1-3. 2024年の年齢ピラミッドを読む

年齢別の分布を見ると、高齢化の深刻さがより明確になります。2024年の農業構造動態調査によれば、70歳以上が全体の60.9%を占める一方、49歳以下はわずか11.2%です。第一生命経済研究所の分析では、60歳以上の合計が全体の約80%に達するとされています。

図表2 基幹的農業従事者の年齢別構成(2024年)

この「逆ピラミッド」が意味すること:70歳以上の約68万人が今後10〜15年の間に生理的・体力的な理由で農業から退出する局面を迎えます。一方、49歳以下の若年・中年層はわずか12.5万人。補充速度が退出速度を大幅に下回る状態が構造的に固定されており、人数ベースの減少は今後も不可避です。

1-4. 2025年農林業センサスが示した「若返りの錯視」

2025年11月に農水省が公表した「2025年農林業センサス結果の概要(概数値)」では、基幹的農業従事者数が102万1千人、平均年齢が67.6歳(前回比▲0.2歳)となりました。一見「若返り」が起きたかのように見えます。

しかし、この解釈は統計上の錯視です。平均年齢の低下は若年層の流入増加によるものではなく、80代以上の超高齢農業者が死亡・体力低下・猛暑などを契機として大量にリタイアした結果です。65歳以上の構成割合が前回の70.0%から69.5%へとわずかしか変化していないことも、この仮説を裏付けています。

平均年齢の低下は「農業の若返り」ではなく「最も高齢な層の脱落」による統計的押し下げ効果です。依然として102万人のうち約71万人(69.5%)が65歳以上であり、構造的高齢化は何ら解消されていません。

第2章 品目別に見る年齢構造の差異

2-1. 高齢化が最も進む品目:稲作・果樹

高齢化の深刻度は、取り扱う品目によって大きく異なります。令和6年度食料・農業・農村白書に掲載された2020年農林業センサスの組替集計によれば、稲作や果樹類では70歳以上の高齢者層が半数以上を占めています

稲作が特に高齢化しやすい背景には、以下の構造的要因があります。

  • 兼業・副業的経営が多く、定年後も継続しやすい
  • 農地転用規制により離農コストが高く、続けざるを得ない状況
  • 規模の小さい分散圃場では収益性が低く、若年層の参入動機が薄い

2-2. 比較的若い品目:施設野菜・酪農・養豚・養鶏

一方、施設野菜では49歳以下が21%、酪農では31%を占めており、稲作や果樹とは対照的に若年層が相対的に多い状況です(2020年農林業センサス)。

これらの品目で若年層の割合が高い背景としては、以下が挙げられます。

  • 初期投資が大きい(施設・機械・牛舎等)ため、経営継続インセンティブが働く
  • 法人化が進みやすく、法人経営体では49歳以下の割合が45%と個人経営体(12%)を大幅に上回る
  • 生産に多くの労働力を要するため、経営体として若年雇用が進んでいる

図表3 販売金額1位部門別・基幹的農業従事者の年齢割合(2020年農林業センサス・個人経営体)

2-3. 品目差が示す「10年後のリスク地図」

品目別の年齢構造を踏まえると、以下のような「高齢化リスクの濃淡」が浮かび上がります。

品目70歳以上比率高齢化リスク主な背景
稲作約56%極めて高兼業・副業型、小規模分散圃場
果樹類約52%極めて高多年生作物で転換困難
露地野菜約46%低収益で継承敬遠
施設野菜約34%法人化進展で若年層流入
酪農・養豚約24〜28%相対的に低大規模経営・法人化が先行

特に稲作と果樹は、今後10年で現役世代の大半が自然退出ゾーンに入ります。水稲作付経営体数は2025年センサスで5年前比▲25%超と急減しており、担い手確保と農地集約の優先順位づけにおいて稲作・果樹への対応が最も急務です。

第3章 地域別に見る高齢化格差

3-1. 都道府県別平均年齢の分布

高齢化の進行速度には、著しい地域差があります。2024年の農業構造動態調査では全国平均69.2歳ですが、2025年農林業センサスの分析によれば、山口県では平均年齢72.5歳と全国最高齢を記録しており、65歳以上の割合が84.8%に達しています。

一般的に、中山間地域を多く抱える県ほど高齢化が先行する傾向があります。これは、以下の悪循環によるものです。

  • 経営規模が小さく収益性が低い → 若年層の参入意欲が薄い
  • インフラ・生活環境の不便さ → 若年人口そのものが少ない
  • 担い手不足で農地集約が進まない → さらに採算が合わない

3-2. 農業地域類型別の差異と荒廃農地

農水省「荒廃農地の現状と対策(令和6年12月)」によれば、2024年3月末時点の荒廃農地面積25.7万haのうち、中山間地域合計が約56%(5.3万ha)を占めています。荒廃農地の発生原因として「高齢化・病気・死亡」が最多であり、高齢化と農地荒廃が直結していることが確認できます。

地域計画における受け手未定農地の問題:農水省が2025年9月に公表した「地域計画の策定状況(令和7年4月末時点)」によれば、農用地等面積422万haのうち、10年後の受け手が定まっていない農地面積が134万haと全体の約3割にのぼっています(第一生命経済研究所レポート)。高齢化が進む地域ほどこの割合が高い傾向があります。

3-3. 地域差の含意:農業的土地利用の空洞化

都市農業地域や平地農業地域では担い手への農地集積が比較的進んでいますが、中間・山間農業地域では高齢農業者の離農後に農地を引き受ける経営体そのものが存在しない、という「土地利用の空洞化」が顕在化しつつあります。

この問題は単に農業生産の問題にとどまらず、農業インフラ(農道・用排水路)の維持管理や地域コミュニティの存続とも直結しており(日本総合研究所「JRIレビュー2024」)、農政・地域政策として優先度の高い課題です。

第4章 コーホート分析:年齢別データから10年後を推計する

4-1. コーホート分析の考え方

年齢別の基幹的農業従事者数データは、5年後・10年後の姿を推計するうえで強力な分析ツールになります。センサスは5年ごとに行われ、年齢階層も5歳刻みであるため、「5歳ずらし比較」を行うことで各年代の流入(新規就農等)・流出(離農)の規模を把握できます。これがコーホート分析の基本的な考え方です。

農水省自身も令和3年度食料・農業・農村白書(第1章第1節)でこの手法を採用しており、「69歳以下の階層では5年前より農業者数が増えている一方、70歳以上の階層では離農が加速する」というパターンを示しています。

4-2. 2025年センサスで読む「2035年の農業従事者構造」

2025年農林業センサス(概数値)の年齢別データを起点に、2035年時点の構造をコーホートで推計すると、以下のような見通しが立ちます。

図表4 コーホート分析:2025年の年齢層と2035年時点での予測状況

(2025年センサス概数値を起点に推計。新規参入・政策効果は考慮せず自然退出ベースの参考値)

2025年時点の年齢層2025年人数(万人)2035年時点の年齢2035年の状況予測離農リスク
80歳以上約20.090歳以上ほぼ全員が退出確実に離農
75〜79歳約14.085〜89歳大半が退出極めて高
70〜74歳約19.080〜84歳過半数が退出
65〜69歳約11.575〜79歳約半数が退出中〜高
60〜64歳約8.570〜74歳退出加速の入口
50〜59歳約10.060〜69歳引き続き主力層
49歳以下約19.159歳以下新規参入込みで主要な補充源

推計ポイント:2025年時点で70歳以上の従事者は約53万人(全体の52%)。この層の大半が今後10年間に自然退出する見込みです。一方、補充される49歳以下は約19.1万人にとどまり、退出ペースと補充ペースの差が今後の担い手不足の深刻度を決定づけます。

出典:農林水産省「2025年農林業センサス結果の概要(概数値)」「農業経営をめぐる情勢(令和7年10月)」を基に作成(数値は推計値)

4-3. シンクタンクによる2035年推計との照合

野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部が2025年11月に公表したレポート「2035年の担い手」では、農業構造動態調査データを基にした定量推計が示されています。

  • 個人経営体の経営耕地面積:2024年214万ha → 2035年164万ha(▲23%)
  • 30ha以上の大規模経営体数:9千経営体 → 1万4千経営体(+56%増)
  • 売上高1億円以上の経営体数:7千 → 1万2千経営体

この推計が示すシナリオは、「小規模個人経営体は大幅に縮小するが、大規模・法人型の経営体はむしろ成長する」という農業構造の二極化です。農水省「農業経営をめぐる情勢(令和7年10月)」も、「今後10〜20年先を見据えると、基幹的農業従事者数は大幅に減少することが確実」と明記しています。

第5章 高齢化データが示す「農業構造転換」の方向性

5-1. 個人経営体の縮小と大規模・法人経営体への集約

2025年農林業センサスは、日本農業の構造転換を統計として確定した調査となりました。経営耕地面積20ha以上の農業経営体が農地全体の51.0%を占め、初めて過半数を超えました。これは、日本農業の過半が、もはや小規模家族経営ではなく大規模経営体によって管理されていることを意味します。

図表5 担い手農地集積率と大規模経営体農地シェアの推移
出典:農林水産省「農地中間管理機構の実績等に関する資料(令和6年版)」「2025年農林業センサス(概数値)」を基に作成

農地バンク(農地中間管理機構)経由の担い手農地集積面積は263万ha(2024年時点)に達し、農地バンク設立前の2013年比で約41.9万ha増加。また、20ha以上経営体の農地シェアが51%を初めて超過(2025年センサス)

5-2. 高齢化が「参入機会」に転化するメカニズム

ここで視点を転換すると、高齢農業者のリタイアは農地の「出し手」の増加を同時に意味します。特に以下の点から、農業への新規参入・経営拡大を検討する事業者にとっては構造的な機会でもあります。

  • 農地バンクへの貸出農地が増加し、まとまった面積の調達が容易になる
  • 高齢農業者からの経営継承(第三者継承)のニーズが高まる
  • 農業インフラが整備された農地が市場に出る

NTTデータ経営研究所(2025年9月)は、「シニア農業者が農業から完全に離れてしまうのではなく農業に関わり続けること」の重要性を指摘しつつ、大規模経営法人が地域のシニア農業者と連携する新しい農業モデルを提案しています。

5-3. スマート農業・省力化技術との接続

農業従事者の減少に対応するもう一つの解が、スマート農業による省力化です。2025年農林業センサスでは、データ活用に取り組む農業経営体が全体の4割(団体経営体では63%)に達しており、スマート農業の普及が加速していることが確認できます。自動操舵トラクター・ドローン・水管理システムなどは、少人数で広大な農地を管理するための不可欠なツールとなっています。

野村レポートが指摘するように、生産者の構造改革と省力化技術の普及は、労働力減少を補う実質的に唯一の解となりつつあります。農業経営を継続・拡大していくためには、担い手確保とテクノロジー活用を両輪で進める戦略が求められます。

構造転換シナリオのまとめ
・個人小規模経営体の大幅減少(今後10年で加速)
・大規模・法人経営体への農地集積(農地シェア過半超が定着)
・スマート農業による1経営体当たりの生産能力向上
・第三者継承・企業参入によるリタイア農家の経営資源の引き継ぎ
⇒「農業者の数は減っても、農業生産を維持できる構造」への移行が不可欠

おわりに

本記事では、基幹的農業従事者の年齢別データを起点に、品目差・地域差・コーホート推計という三つの切り口から「10年後の農業」を分析しました。

改めてポイントを整理すると、以下の通りです。

視点主な知見
量的変化2024年の111万人は今後10年でさらに大幅に減少。2035年には個人経営体の経営農地が23%減少と推計される(野村レポート)
品目別リスク稲作・果樹は70歳以上比率が50%超で最高リスク。施設野菜・酪農は相対的に若い構造
地域差山口県72.5歳など中山間地域が深刻。10年後の受け手未定農地が全体の約3割(134万ha)
構造転換「縮小」と「集約」が同時進行。20ha以上経営体の農地シェアが初めて過半超え(2025年センサス)

「平均年齢69.2歳」という数字は、単なる高齢化の証明ではありません。それは今後10年の農業構造変動のタイムラインを内包しています。70代が主力の農業が、10年後にどのような姿になるかを、データを根拠に具体的にイメージすること――それが農業経営・農業参入・農地政策のいずれにおいても、確かな意思決定の出発点になります。

農業をめぐる構造変化は課題であると同時に、大きな機会でもあります。縮小する個人小規模経営体の隙間を埋めるのは、データと技術を武器にした次世代の担い手です。本記事の分析が、農業に関わるすべての方の戦略立案の一助となれば幸いです。

参考文献

  1. 農林水産省「令和6年度食料・農業・農村白書」第2章第3節(担い手の育成・確保と多様な農業者による農業生産活動)、2025年5月
    https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r6/pdf/1-2-03.pdf
  2. 農林水産省「令和6年農業構造動態調査結果」e-Stat、2024年
    https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&lid=000001449296
  3. 農林水産省「農業労働力に関する統計(農業就業人口及び基幹的農業従事者数)」
    https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html
  4. 農林水産省「2025年農林業センサス結果の概要(概数値)」プレスリリース、2025年11月28日
    https://www.maff.go.jp/j/press/tokei/census/251128.html
  5. 農林水産省「2025年農林業センサス結果の概要(概数値)」統計表PDF
    https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noucen/pdf/census_25.pdf
  6. 農林水産省「農業経営をめぐる情勢について」(令和7年10月・経営局)
    https://www.maff.go.jp/j/kobetu_ninaite/attach/pdf/index-51.pdf
  7. 農林水産省「荒廃農地の現状と対策」令和6年12月
    https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/attach/pdf/index-35.pdf
  8. 農林水産省「令和3年度食料・農業・農村白書」第1章第1節(基幹的農業従事者コーホート分析)
    https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r3/r3_h/trend/part1/chap1/c1_1_01.html
  9. 野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部「2035年の担い手」2025年11月
    https://www.nomuraholdings.com/jp/sustainability/sustainable/services/fabc/report/report20251120_2/main/0/link/20251120_2.pdf
  10. 第一生命経済研究所「農家の高齢化と食料安全保障の確保」2025年10月
    https://www.dlri.co.jp/files/ld/530713.pdf
  11. NTTデータ経営研究所「シニア世代の地域就労モデルとしての農業活用」2025年9月
    https://www.nttdata-strategy.com/knowledge/reports/2025/250910/
  12. 日本総合研究所「農業人口の減少に伴う課題」JRIレビュー 2024 Vol.6, No.117
    https://www.jri.co.jp/file/report/jrireview/pdf/14895.pdf
  13. 国立国会図書館「人口減少と新規就農の現状と課題」(調査資料2024-3収録)2025年
    https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info:ndljp/pid/14091596
  14. 農林水産省「農業構造動態調査の概要」
    https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukou/gaiyou/index.html