農業を始めたい、農地を購入または借りたいと考えている方にとって、最初の壁となるのが「農地法第3条の許可」です。農地は他の不動産と異なり、自由に売買できません。なぜなら、農地は国民の食料を生産する貴重な基盤であり、その適正な利用と保全が強く求められているからです。

我が国の農地面積は、ピーク時の昭和36年には609万ヘクタールありましたが、宅地や工場等への転用、荒廃などを理由に一貫して減少しており、令和7年には424万ヘクタールと、ピーク時の約7割にまで減少しています。こうした背景から、農地の権利移動には厳格な許可制度が設けられているのです。

本記事では、農地の権利を取得するために必要な要件を、新規就農者にも分かりやすく徹底解説します。

農地法第3条とは?なぜ許可が必要なのか

農地法第3条の基本的な仕組み

農地法第3条は、「農地又は採草放牧地の権利移動の制限」を定めた条文です。農地について所有権を移転したり、賃借権などの使用収益権を設定・移転する場合は、原則として農業委員会の許可が必要とされています。

この許可がない売買・貸借等の契約は、法的効力を生じません。つまり、どれほど当事者間で合意があっても、農業委員会の許可がなければ、その契約は無効となってしまうのです。

なぜ許可制度があるのか

農地法が許可制度を設けている理由は、以下の3つに集約されます。

  1. 耕作者主義の徹底:農地は実際に耕作する人が所有・利用すべきという原則
  2. 農地の適正利用の確保:投機目的や不適切な利用を防ぎ、農業生産を維持する
  3. 農業経営の効率化:地域の農地を効率的に利用し、農業の発展を図る

2022年の法改正で新規就農のハードルが下がった

以前は、農地を取得するためには「下限面積要件」がありました。都府県では50アール(5,000平方メートル)以上、北海道では2ヘクタール以上の農地を取得しなければ許可が下りませんでした。

しかし、2022年の農地法改正により、この下限面積要件が廃止されました。これにより、小規模から農業を始めたい新規就農者にとって、参入のハードルが大きく下がったのです。

農地取得のための基本5要件

農地法第3条に基づいて農地の権利を取得する場合、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。

① 全部効率利用要件

すべての農地を効率的に利用して耕作等の事業を行うことが求められます。

具体的には、機械、労働力、技術等を適切に利用するための営農計画を持っていることが必要です。これらの要素の判断は、農地取得者等の経営規模、作付作目等を踏まえて、総合的に勘案されます。

2024年の農地法施行令改正により、この要件を判断する要素として、従来の機械、労働力、技術等に加えて、「農作業に従事する者の配置状況」と「農業関係法令の遵守状況」が追加されました。

営農計画のポイント

  • 作付計画:どの農地に何を栽培するか、作付けローテーションは適切か
  • 農業機械の保有状況:トラクター、田植機、コンバインなど必要な機械は揃っているか、またはレンタル・共同利用の計画はあるか
  • 技術習得の計画:未経験者の場合、研修や指導を受ける計画があるか
  • 労働力の確保:家族労働、雇用労働、繁忙期の労働力確保策

判断に当たっては、いたずらに厳しく運用し、排他的な取扱をしないよう留意することとされていますので、実現可能性の高い計画を丁寧に説明することが重要です。

② 農作業常時従事要件

農地の取得者が必要な農作業に常時従事することが求められます。具体的には、原則として年間150日以上の農作業への従事が必要です。

この要件は、「農地は実際に耕作する者が所有・利用すべき」という耕作者主義を体現するものです。

サラリーマン兼業農家は注意が必要

会社勤めをしながら週末だけ農業をする、といったスタイルでは、この常時従事要件を満たすことが難しい場合があります。ただし、後述する「解除条件付き貸借」という例外的な制度を利用すれば、この要件を満たさなくても農地を借りることができる場合があります。

③ 地域との調和要件

周辺の農地利用に支障を与えない利用方法であることが求められます。具体的には、地域計画の達成、農地の集団化、農作業の効率化などに支障を生じないことが必要です。

周辺農地利用に支障を生じる場合とは

法令で定める農地の集団化、農作業の効率化のほか、以下のような場合が該当します。

  • 地域計画の達成に支障が生じる場合:市町村が策定した地域計画(目標地図)に反する利用方法
  • 水利調整に参加しない場合:地域ぐるみの水利調整への参加を拒否し、独自の営農を行う
  • 農薬使用による周辺への影響:有機農業の取り組みが行われている地域で農薬を使用し、地域の無農薬栽培等が事実上困難となる場合
  • 悪臭や騒音:畜産経営において、適切な糞尿処理を行わず悪臭を発生させるなど

地域農業との共生を意識し、地域の話し合い活動や共同作業に積極的に参加する姿勢が重要です。

④ 解除条件付き貸借(貸借限定の特例)

上記②の農作業常時従事要件を満たさない場合でも、農地を借りる場合に限り、以下の条件を満たせば例外的に許可の対象となります。

解除条件付き貸借の要件

  1. 貸借契約書に解除条件が付されていること
    農地を適正に利用しない場合には貸借契約を解除する旨の条件が明記されていること
  2. 地域の他の農業者と適切に役割分担し、継続的かつ安定的に農業経営が行われること
    • 「適切な役割分担」:地域の話し合い活動や共同作業への参加など
    • 「継続的かつ安定的な農業経営」:機械や労働力の十分な確保など

この制度により、サラリーマンをしながら週末農業を行いたい方や、農業法人として参入したい一般企業なども、農地を借りることが可能になります

注意点:利用状況報告の義務

解除条件付き貸借で農地を借りた者は、許可を受けた農業委員会に毎事業年度の終了後3カ月以内に、農地の利用状況報告を提出する必要があります。この報告を怠ると、契約解除の対象となる可能性がありますので注意が必要です。

⑤ 農地所有適格法人要件(法人の場合)

法人が農地の所有権を取得する場合には、その法人が農地所有適格法人であることが必要です。

農地所有適格法人とは、農地法第2条第3項に定める以下の4つの要件をすべて満たす法人のことです。

  1. 法人形態要件:農事組合法人、株式会社(公開会社でないもの)、または持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)であること
  2. 事業要件:その法人の主たる事業が農業であること(直近3か年の農業売上高が事業全体の売上高の過半を占めること)
  3. 構成員・議決権要件:農地を提供した個人、農業に常時従事する者などが、議決権の過半(または社員数の過半)を占めること
  4. 役員要件:役員等のうち、一定数以上が農業に常時従事すること(原則として年間150日以上)

農地所有適格法人の詳細については、次回の記事で詳しく解説する予定です。

3. 農業経営基盤強化促進法による別ルート

農地法第3条とは別に、農業経営基盤強化促進法に基づく方法でも農地の権利を取得することができます。

農用地利用集積等促進計画とは

2022年の基盤強化促進法改正により、市町村が地域計画を定め、その実現を図るため農地中間管理機構を活用した農地の集積・集約化を図ることとされました。

この制度では、農地中間管理機構が作成し、都道府県知事が認可・公告する「農用地利用集積等促進計画」によって農地の貸借等を行います。この公告があったときは、促進計画に基づく権利の設定等の効力が生じ、農地法第3条の許可は不要となります。

利用の流れ

  1. 市町村または農業委員会に相談:賃借権の設定を受けたい旨を申し出る
  2. 地域計画への位置付け:受け手が地域計画(目標地図)に「農業を担う者」として位置付けられている(または位置付けられる見込みがある)必要がある
  3. 機構による調整:出し手・受け手の希望条件を踏まえて、貸借の開始時期、期間、借賃、支払い方法等について調整
  4. 促進計画の作成・認可:機構が促進計画を作成し、都道府県知事が認可・公告
  5. 権利設定の効力発生:公告により、促進計画の定めるところに賃借権等が設定される

受け手要件

都道府県知事の認可に当たり、受け手については次の要件を満たしているかチェックされます。

  • 賃借権設定等を受けた後、農地の全てについて効率的に利用して耕作等の事業を行うと認められること
  • 耕作等の事業に必要な農作業に常時従事すること
  • 上記を満たさない場合は、地域の他の農業者との適切な役割分担の下に継続的安定的な農業経営を行うと見込まれること

4. 許可申請の流れと必要書類

農業委員会への申請方法

許可申請は、原則としてその農地の権利を取得しようとする者(借主、買主など)とその農地の権利を譲渡しようとする者(貸主、売主など)との共同申請が基本となります。

申請に先立ち、貸主(売主)の協力も得て、必要な書類を整えておきましょう。

必要書類

  1. 許可申請書
    農地法第3条の規定に基づく許可申請書(様式は農業委員会で入手可能)
  2. 添付書類
    • 登記事項証明書(登記簿謄本)
    • 土地の位置を示す図面
    • 土地の状況を示す写真
    • 賃貸借契約書の写し(貸借の場合)
  3. 営農計画書
    提出を求められることが多い重要書類。以下の内容を具体的に記載します。
    • 現在耕作している農地の状況
    • 取得後の作付計画(何をどのくらい栽培するか)
    • 農業機械・施設の保有状況
    • 労働力の確保状況
    • 農産物の販売計画
    • 収支見込み

2024年の法改正で追加された記載事項

2024年の農地法施行規則改正により、許可申請書の記載事項として以下が新たに追加されましたので、ご留意ください。

  • 農作業に従事する者の配置状況
  • 農業関係法令の遵守状況
  • 所有権を取得しようとする者が個人の中長期在留者の場合は、国籍、在留期間及び当該期間の満了の日等

標準事務処理期間

農業委員会の許可申請手続きに係る標準事務処理期間(申請書の受付→許可書の交付)は、4週間とされています。ただし、内容に不備がある場合や、農業委員会の総会の開催時期によっては、さらに時間がかかる場合もあります。

5. 申請が不許可になるケースと対策

不許可になる主なケース

ケース1:営農計画が不十分な場合

  • 作付計画が曖昧で、実現可能性が低いと判断される
  • 農業機械や労働力の確保策が示されていない
  • 農業経験がなく、技術習得の計画も不明確
  • 収支計画が楽観的すぎて、継続的な経営が困難と判断される

対策:具体的で実現可能性の高い営農計画を作成する。特に新規就農者の場合は、研修受講歴、指導農家の存在、就農準備の経緯などを丁寧に説明することが重要です。

ケース2:周辺農地との調和が取れていない場合

  • 地域計画(目標地図)に位置付けられていない
  • 地域の水利調整や共同作業への参加意思がない
  • 周辺が有機農業地域なのに慣行農業を行う計画である

対策:地域の農業者や農業委員会と事前に相談し、地域農業との共生を意識した計画を立てることが重要です。地域の話し合い活動への参加意思を明確に示しましょう。

ケース3:農作業常時従事要件を満たしていない場合

  • 会社勤めを続けながら農業を行う計画で、年間150日の従事が困難
  • 法人の場合、役員等が農業に常時従事する体制になっていない

対策:解除条件付き貸借の制度を利用する、または、農業専業として取り組む体制に変更する。法人の場合は、農地所有適格法人の要件を満たすよう組織体制を整える。

ケース4:投機目的と判断される場合

  • 農地を取得後、すぐに転用や転売する意図があると疑われる
  • 営農計画が形式的で、実際に農業を行う意思が感じられない

対策:長期的な営農の意思を明確に示し、具体的な計画を提示する。農地は農業のために利用するという強い意志を伝えましょう。

事前相談の重要性

農地の取得を考える際には、必ず事前に農業委員会に相談することが重要です。多くの農業委員会では、申請前の相談体制を整えており、以下のようなアドバイスを受けることができます。

  • 当該農地の取得が可能かどうかの見通し
  • 必要書類や営農計画書の作成方法
  • 地域計画への位置付けの可能性
  • 解除条件付き貸借の活用の可否
  • 農地中間管理機構を活用した方法の検討

事前相談をしっかり行うことで、申請書類の不備を防ぎ、スムーズな許可取得につながります。

まとめ

農地の取得には厳格な要件がありますが、これは農地を守り、農業の持続的な発展を図るための重要な制度です。我が国の農地面積は減少を続けており、残された農地を適正に利用し、次世代に引き継いでいくことが強く求められています。

農地法第3条の許可を得るためには、以下のポイントが重要です。

  1. 全部効率利用要件:すべての農地を効率的に利用する具体的な営農計画
  2. 農作業常時従事要件:年間150日以上の農作業従事(例外制度もあり)
  3. 地域との調和要件:地域農業との共生を意識した利用方法
  4. 解除条件付き貸借:常時従事要件を満たさない場合の特例制度
  5. 農地所有適格法人要件:法人が所有権を取得する場合の特別要件

また、農地法第3条とは別に、農業経営基盤強化促進法に基づく農地中間管理機構を活用した方法もあります。地域計画への位置付けが必要ですが、この方法では農地法第3条の許可が不要となります。

事前に農業委員会や市町村の担当窓口に相談し、しっかりとした営農計画を立てることで、スムーズな許可取得が可能になります。また、農地中間管理機構にも相談窓口が設置されていますので、お気軽にお問い合わせください。


参考文献

  1. 農地法(昭和27年法律第229号)
  2. 農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号)
  3. 一般社団法人 全国農業会議所「農地の取得_新規就農|アグリウェブ」(2025年8月20日更新)
  4. 農林水産省「農地所有適格法人制度」
  5. 農林水産省「農地をめぐる状況について」(令和8年1月)